会場は、墨田区が世界に誇る「すみだトリフォニーホール」。新日本フィルハーモニー交響楽団が拠点とする、1801席、音響の良いホールだ。実際、この日も、ヴォーカル、ピアノ共に、丸みを帯びた、豊かで柔らかな音が響いていた。
舞台奥には、満開の桜の木が一本、飾られている。矢野さん曰く、木も枝も下の土もすべて本物。先っちょだけ偽物=細い針金で造花を取り付けているとのこと。春らしいステージである。
事前に、デビューアルバム「JAPANESE GIRL」の全曲弾き語りに挑戦することが告知されていたが、それに先立ち、「あの町この町」に「花」と、童謡・唱歌の矢野バージョンを披露。童謡・唱歌のライヴ演奏と言えば、これもまたデビュー当時の矢野さんを思い出させるものだが、今の演奏は当時からぐっとスケールアップしていると感じた。期待が高まる。ご本人も「今日は、充実したラインナップでクリーンヒットを狙う」と宣言されていたし。その後のMCで、「JAPANESE GIRL」全曲演奏は、本当に単なる思いつきだったのに、それが、大袈裟なことになってしまい「自分がカネゴンになるとは思わなかった少年のようだ」と、「JAPANESE GIRL」よりもさらに古い「ウルトラQ」ネタで観客を煙に巻いていたが、これで笑えた観客は何人いただろう…
コンサート中盤から、いよいよ、「JAPANESE GIRL」。まさかライヴで再び聴く機会があるとは思っていなかった、私の大好きな「クマ」や「津軽ツアー」には感涙。合間のMCでは、昔の曲を演奏することに対する照れのようなものも伺えたが、演奏は、決して懐古趣味ではなく、まさに「今の矢野顕子」。ダイナミックなピアノと歌唱が響く。あの「電話線」がかすむほど、どの曲も素晴らしい。果たしてどうするのかと思っていた「ふなまち唄」も、ちゃんと「PART II」と「PART I」の両方を演奏。特に「PART I」での「らっせらー」の跳ね人のかけ声の力強さはすごかった。ここまでのクオリティを見せつけられるとは、本当に期待を遙かに上回る素晴らしい体験だった。
アンコールでは、この秋に発売になるアルバム(タイトルはずばり「顕子」- 表記は不明、になる予定)について、「デビュー以来、初めて、自分のために作ったアルバム」で、若かりし時の「野獣の咆吼」再び、という感じのものになると語る。期待が高まりまくるのである。