暑いと言っても汗だくまでは行かず、朝夕はちょっと涼しく、花粉も無い。今が、ベストの気候だと思える天気が続いています。
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ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ(以下、BNT All-Star Jazz Orchestra)の公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。スペシャル・ゲストは ブラジル出身のEliane Elias(ピアノ・ヴォーカル)と、彼女の夫、アメリカ出身のMarc Johnson(ベース)。二人は、ギターとドラムも加えた4人編成で、前日までブルーノート東京公演を行っていた。
今回のBNT All-Star Jazz Orchestraのメンバーは、
・エリック・ミヤシロ(トランペット、コンダクター)
・サックスの、本田雅人、小池修、寺地美穂、米澤美玖、高尾あゆ
・トランペットの、小澤篤士、菅家隆介、山崎千裕、水野真友子
・トロンボーンの、中川英二郎、石橋采佳、藤村尚輝、小椋瑞季
・ピアノの、宮本貴奈
・リズム隊は、川村竜(ベース)と、川口千里(ドラムス)
オープニングは、最近の定番、”20th Century Fox Fanfare”。20世紀FOX映画の冒頭に流れるお馴染みのファンファーレ。そして、Cory Wongの”Assassin”、Chick Coreaの”Got a Match。ここまでの流れは、先月のライヴと同じ選曲だ。ただし、アレンジは色々工夫されていると思う。
続いて、先日、訃報が届いたDavid Sanbornへの追悼で”The Dream”。演奏前にエリック・ミヤシロと本田雅人が、彼の思い出を語る。しっかり親交があったお二人だけに、深い話。そして始まった演奏は、やはり、本田雅人の思い入れが詰まったようなソロが泣かせる。
もう1曲、Snarky Puppyの”Lingus”(エリック・ミヤシロが最近、ハマっているらしい)を演奏した後、いよいよ、ゲストのMarc Johnsonが登場し、BNT All-Star Jazz Orchestraと共演開始。ただ、私の席からは、ピアノの陰になって、姿が見えないのが残念…。その演奏の途中で、Eliane Eliasが合流し、”Just Kidding”。軽やかなピアノ。
ここからは、Eliane Eliasのヴォーカルも加わって、ブラジリアン・ミュージック。”Garota de Ipanema(イパネマの娘)”~”Mas que nada”~”So danco samba (Jazz'n samba) ”と、有名どころをつなげていく。BNT All-Star Jazz Orchestraとの相性もバッチリ。Eliane Eliasと川口千里の、両者微笑みながらのアイ・コンタクトを見ているのも楽しい。
共演の最後は、Eliane Eliasが、前の夫 Randy Breckerと共演したアルバム”Amanda”の収録曲"Pandamandaum"。エリック・ミヤシロが大好きなアルバムで、この曲を演奏することをElianeに提案されたときには、大声で”Yes!”と叫んだそうだ(が、今の夫、Marc Johnsonは良かったのか?)。これで、お二人はステージを去る。ステージ下でエリックとハグを交わす様子に、お互いをリスペクトし合うミュージシャンって、カッコ良いなぁと思う。
アンコール。エリックは、”Spain”と”Birdland”のどちらが良いかと会場に問いかけ(私は、”Birdland”の方に熱烈な拍手)、結局”Birdland”!この曲は、BNT All-Star Jazz Orchestra全員のソロが聴けるので、お得感があるのだ。そして、とことん楽しい!実に良いライヴだった。
三味線奏者の上妻宏光とチェロ奏者の宮田大が共演するコンサートを観に、紀尾井ホールへ行ってきた。このあと、全国を回るツアーの初日である。やのとあがつまで、懐の深いパフォーマンスを披露してくれる上妻宏光だが、クラシックのチェリストとの化学反応は如何に?
今回は、クラシックのフィールドでの公演なので、事前にプログラムが発表されている。
・上妻宏光:NΙΚΑΤΑ(編曲:野崎洋一)
・クロード・ドビュッシー: 月の光(編曲:伊賀拓郎)
・上妻宏光: La Noche de Segovia〜セゴビアの夜(編曲:野崎洋一)
・アストル・ピアソラ: 「タンゴの歴史」よりナイトクラブ 1960(編曲:伊賀拓郎)
【休憩】
・宮沢賢治:星めぐりの歌(編曲:宮田大) - 宮田 大ソロ
・ジョヴァンニ・ソッリマ:ラメンタチオ - 宮田 大ソロ
・上妻宏光:紙の舞 - 上妻宏光ソロ
・民謡:津軽じょんから節 - 上妻宏光ソロ
・菅野祐悟:十六夜より(編曲:篠田大介)
・篠田大介:絃弦相搏(げんげんそうはく)
ステージ上はシンプルに椅子が二つだけ。向かって左に上妻宏光、右に宮田大。上妻宏光は和装でキメている。
演奏開始。まずは、上妻宏光の「和」の音色が響き、その後、宮田大の「西洋」の音色が重なる。秋田民謡「秋田荷方節」をベースにした上妻宏光のオリジナル曲で、歌のメロディーを宮田大のチェロが奏でている。どちらも弦楽器ではあるが、弓を使うチェロと、バチを使った打楽器のようでもある三味線。お二人のMCによれば、「ハーモニーは排除」した共演とのこと。確かに、弦楽四重奏のような分かりやすい響きとは違う。一瞬、ぶつかり合って混じらないように聞こえるが、その違和感がだんだん癖になってくる感じだ。
公演タイトル「月食」に因み、Debussyの「月の光」をしっとりと聴かせた後は、上妻宏光が、スペイン公演で訪れた町、Segoviaをモチーフにしたオリジナル曲(ギターとの共演を想定した曲)。そして、第一部のラストは、Piazzollaのタンゴ。ギターとフルートのための曲を、三味線とチェロで。メロディーは、アルゼンチン・タンゴなのに、三味線の音色が入る意外性と、お二人の巧みな演奏技巧の相乗効果で、大いに盛り上がる。ここまで来ると、最初に感じた、混じり合わないような印象は払底されている。
20分の休憩後、第二部は宮田大のソロから。宮沢賢治の素朴な曲を、チェリストらしいアレンジで聴かせた後、やはりチェロ奏者であるGiovanni Sollimaの作品。「チェロのジミヘン」とも呼ばれるSollimaらしい、チェロの様々な奏法を詰め込んだトリッキーな楽曲。宮田大のテクニックを堪能。
続いて、上妻宏光のソロ。自身のオリジナル曲。そして、原点回帰の「津軽じょんから節」。圧倒的なテクニックを見せつけられた会場から、凄い熱量の拍手が巻き起こる。「やのとあがつま」ツアーで予習済みの私も、我が意を得たり。という気持ちになる。
再び、二人の共演。菅野祐悟が宮田大のために書いた「チェロ協奏曲〜十六夜〜」の第1楽章・第3楽章を篠田大介がアレンジした「十六夜より」。そして、今回のツアーのために篠田大介が書き下ろした「絃弦相搏」。最初から三味線とチェロの共演のために書かれた曲なので(タイトルの「絃」は三味線、「弦」はチェロを意味している)、お二人の聴かせどころがたっぷり。聴き応え有り。演奏後は、篠田大介もステージに上がり、カーテンコールに応える。
アンコールは、伊賀拓郎が編曲した、映画「Titanic」の劇中曲「An Irish Party in 3rd Class」。上妻宏光が日本の民謡から演奏を開始し、そのままアイリッシュ・ダンス・ミュージックになだれ込む。ケルト風フィドルを模した宮田大のチェロに、上妻宏光の高速三味線が乗っかり、とことん楽しい!
様々なジャンルのミュージシャンとの他流試合で蓄積された上妻宏光の引き出しの多さに、改めて驚嘆すると共に、今回のチェロとの共演で、その引き出しがさらに充実し、やのとあがつまに還元されるかもと期待してしまう。面白いライヴだった。
今年のアカデミー賞で国際長編映画賞と音響賞を、カンヌ国際映画祭でグランプリ(パルム・ドールに次ぐ第2席)を受賞した作品を観てきた。邦題は「関心領域」
主人公は、アウシュヴィッツ強制収容所の所長 Rudolf Franz Ferdinand Höß(ルドルフ・ヘス)とその家族。映画は、強制収容所の向かいにあるマイホームで暮らす彼らの、ごく普通の日常生活を描いていく。
淡々と続く映画は、正直、眠気も誘う。ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺がテーマではあるが、直接的な描写は一切無い。それどころか、ユダヤ人の姿すら映らない。時折、フェンスの向こう、収容所内から、苛酷な目に遭っているユダヤ人の声は聞こえてくる。煙突からは(恐らく、大量の遺体を燃やしているであろう)煙は上がっている。しかし、強制収容所の向かいに暮らしながら、主人公一家の日常生活に、そうした問題が陰を落とすことはない。ルドルフ・ヘスは、ユダヤ人の「処理」を、サラリーマン管理職のように進めている。
ラスト近くには、アウシュヴィッツ強制収容所の内部の様子も描かれるが、そこに映るのは、日常業務を淡々とこなす普通の人たち。その普通さが怖い。ヘス一家も含め、まさに正常性バイアス。都合の悪い情報は、無意識のうちに無視したり過小評価して、精神のバランスを取るのが人間なのだ。そして、世界中で起きている様々な問題に対し、通り一遍の関心しか示さない現代の我々自身も、正常性バイアスに影響されているのだ。
これは、観る者の想像力を試す映画だと思う。そのためか、映画の冒頭とラストでは、観客に考える時間を与えるかのように、真っ暗な画面が続いている。こういう切り口でユダヤ人虐殺を描いたのは、見事な新機軸。そして、音楽は必要最低限にして計算し尽くされた自然音を入れるなど、アカデミー受賞も納得の音響が、実に効果的。
ということで、必見の映画だと思うと同時に、イスラエル・ガザ紛争が泥沼化し、ユダヤ人に一方的に肩入れするのが憚られる今、直接的にユダヤ人を描かないこの作品は、皮肉なことにタイムリーだと感じてしまう。
国立映画アーカイブで開催中の展示企画「日本映画と音楽 1950年代から1960年代の作曲家たち」と連動した演奏会を観てきた。
演奏は、
・オーケストラ・トリプティーク(指揮: 野村英利、1stヴァイオリン:三宅政弘)
・ソプラノ独唱:山本澄奈
・ミュージカル・ソー独奏:安田崇
・合唱:ヒーロー・コーラス
という布陣。
会場は、2Fの長瀬記念ホール OZU。ここで演奏会を開催するのは、国立映画アーカイブ開館以来、初。本来、映画上映用のホールなので、弦楽器 4人+木管楽器 2人+金管楽器 2人+エレクトーン 1人+ドラムス 1人 = 指揮者を入れて計11人という小編成のオーケストラでも、かなり窮屈な配置。ドラムスと、曲によって登場するコーラス隊は、ステージ下になってしまう。
今回は、2020年代に生誕100周年を迎える作曲家と「3人の会(芥川也寸志、團伊玖磨、黛敏郎)」を中心に選んだ9人による作品を、作曲家毎に演奏していくという趣向(特撮もの & 歌ものが多く選曲されているのが裏テーマ)。それぞれ、演奏前に、国立映画アーカイブ特定研究員の藤原征生による、分かりやすく興味深い解説が入る。
作曲家と映画は、以下の通り。
・團伊玖磨:『白夫人の妖恋』『雪国』『無法松の一生』『ゲンと不動明王』
・斎藤高順:『東京暮色』『早春』『彼岸花』
・眞鍋理一郎:『白鳥の歌なんか聞えない』『ゴジラ対ヘドラ』『ゴジラ対メガロ』
・佐藤勝:『若者たち』『ゴジラ対メカゴジラ』
・芥川也寸志:『煙突の見える場所』『猫と庄造と二人のをんな』『ゼロの焦点』『破戒』『赤穂浪士』『鬼畜』
・林光:『裸の島』
・間宮芳生:『太陽の王子 ホルスの大冒険』『火垂るの墓』
・いずみたく:『宇宙大怪獣ギララ』
・黛敏郎:『カルメン故郷に帰る』『女であること』『幕末太陽傳』『炎上』『君も出世ができる』
オーケストラと言っても小編成なので、かなりの部分、エレクトーンが大活躍。『赤穂浪士』のテーマ曲では、鞭の音を、コーラス隊の一人がズボンのベルトを使って再現という工夫も。それにしても、『ゴジラ対ヘドラ』のトラウマ・ソング「かえせ!太陽を」を、生で聴く機会が訪れるとは!
本編終了後、全員が登場してアンコール。ソプラノ独唱の山本澄奈が山本直純のお孫さん(にこやかな表情は、確かにお祖父様譲りだ!)ということに因んで、山本直純作曲の『男はつらいよ』。そして、最後は、この企画のプロデューサー西耕一がマイクを持って「是非、ステージの写真を撮ってネットに上げて」。ということで、終演時の写真。
アイディアに溢れた1950~60年代の映画音楽をテンポ良く紹介する楽しい企画だった。良い意味で素人っぽい手作り感も好印象。ぜひ、1970年代以降の作品で続編企画をお願いしたい。
Pink Floydの初期の中心メンバーでありながら、シングル数枚とデビューアルバム「The Piper at the Gates of Dawn(夜明けの口笛吹き)」だけでバンドを脱退し、2006年に60歳で亡くなったSyd Barrettを描いたドキュメンタリーを観てきた。監督とインタビュアーはStorm Thorgerson(Sydとは高校の同級生。Pink Floydのアートワークでお馴染みのアート集団 Hipgnosisの中心メンバー)が務めていたが、彼が2013年に癌で亡くなり、映像作家のRoddy Bogawaが遺志を引き継いで完成させた作品。邦題は「シド・バレット 独りぼっちの狂気」
インタビューに応えるのは、Syd Barrettの友人達、そして、David Gilmour、Nick Mason、Roger Waters、Pete Townshend、Graham Coxon、Mick Rock等々、有名ミュージシャンも多数。驚いたのは、Syd Barrettの歴代のガールフレンド達も登場し、皆、愛おしそうに彼の思い出を語ること。麻薬に溺れ、精神を病み、ボロボロの後半生を送った彼だが、それでも人間的魅力に溢れていたことが伝わってくる。
正直、知られざる逸話みたいなものは少ないが、アルバム「Wish You Were Here」のレコーディング中に、いきなりスタジオに現れたという有名な逸話が、その場に居合わせた人達の証言と写真で語られるところは興味深い。それにしても、Pink Floydの初期において、圧倒的な才能(実質、彼のワンマン・バンドと言っても良いぐらい)を輝かせていたのに、ポップ・スターに撤することが出来ず、押しつぶされてしまっとことは、つくづく惜しいと、改めて感じる。
演出面では、彼のことを歌ったと言われる「Shine On You Crazy Diamond」の使い方が効果的。そして、インタビュー中に、その歌詞を口にするRoger Watersの姿が、実に印象的だ。一方、Sydのソロ・アルバム”The Madcap Laughs”を「幽玄の世界」とした字幕には疑問が。確かに、当時、そういう邦題も付いていたが、「帽子が笑う…不気味に」の方が一般的だと思うのだが…
何よりも、Syd Barrett、Roger Waters、David Gilmourの三人が、学生時代は本当に仲が良かったのだろうなぁという雰囲気である事に、しみじみする映画だった(今のWaters / Gilmourの関係からするとねぇ)。
しかし、すぐに梅雨の湿気と、真夏の酷暑が待っているのがねぇ…。こればっかりは、仕方が無い。 |