IN/OUT (2022.5.8)

大型連休前半は、関西に行っていました。

伊丹空港からの帰りのJAL便、定刻通りにゲートを出たものの、電気系統にトラブルが生じたとのことで、そのまま待つこと70分間。連休の真ん中、乗り継ぎがあった人は気が気でなかったと思いますが、声を荒げる人がいなかったのが、いかにも日本らしいという気がしました。

羽田につくと、今度は扉が開かない。そのまま20分間、缶詰状態になってしまいました。合計90分遅れというのも酷い話ですが、扉が開かなかった理由も電気系統のトラブルに起因するらしい。と言うことは、我々は、トラブルを抱えた飛行機に乗って伊丹・東京間を移動していた訳で、いやはや、無事で良かった…


in最近のIN

「モディリアーニ ─愛と創作に捧げた35年─」@大阪中之島美術館 ~
「コレクション2:つなぐいのち」@国立国際美術館
22.5.3

大阪中之島美術館 今年、大阪市北区中之島に新たにオープンした大阪中之島美術館に行ってきた。現在、開館記念特別展として、Amedeo Modiglianiの展覧会が開催中である。大阪市が所有し、この美術館の代表的所蔵品と言えるのが、Modiglianiの「髪をほどいた横たわる裸婦」。今回は、それと同じモデルを描いたと思われるベルギーのアントワープ王立美術館所蔵の「座る裸婦」を並べて展示というのが、売りの一つである。

しかし、実際に入場してみると、展示の前半は、同時代=20世紀前期のパリで活動したPicassoや藤田嗣治などの作品が並ぶ。「エコール・ド・パリ」の空間を再現、ということらしいが、これを、時代背景まで拡大した素晴らしい展示とみるか、水増しと感じるかは、微妙な気がする。

後半は、Modiglianiと聞いて真っ先に思い浮かぶ、卵形の輪郭と長い首が特徴的な肖像画が並ぶ。それが、彼の彫刻への関心と結びついているという事を知れたのは収穫ではあるが、あまり、私の好みでは無い。展示物よりも、彼の酒癖の悪さなどのエピソードが興味深かった。なお、オーディオ・ガイドの音声は真矢ミキ。明瞭な声質でとても聞きやすいのだが、内容は、もう少し工夫があっても良かったかな。

この美術館自体も、新しく大規模で、とても立派だとは思うのだが、ハコとしてあまり魅力を感じられない。建物も展覧会も、やや、期待外れだったなと思いながら外を見ると、隣が国立国際美術館だという事に、今頃、気がつく。

国立国際美術館大阪中之島美術館の食堂は初夏に開業予定ということなので、国立国際美術館に移動し、館内の食堂で昼食。ついでに、コレクション展を鑑賞。

国立国際美術館コレクション展ということで、超目玉となる作品が有るわけでは無いし、以前に観たことがある作品も有るが、展示室の居心地は、圧倒的にこちらの方が良いと感じる。竹をイメージしたという派手な外観と、展示室は全て地下という構造。建物としての魅力もこちらに軍配が上がると思う。ミュージアムショップの入り口脇に高松次郎の「影」が展示されているのも、とてもお洒落だ。結果的に、私の中で、国立国際美術館の株が上がった、中之島訪問となった。


「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」@国立新美術館22.5.5

国立新美術館ニューヨークにある世界最大級の美術館、The Metropolitan Museum of Art。150万点を超えるという所蔵品の中から、ヨーロッパ絵画部門で選りすぐった65点を展示するという美術展を観に、国立新美術館に行ってきた。

15世紀から19世紀までの500年間。カラヴァッジョ、フェルメール、レンブラント、ターナー、ルノワール、ドガ、ゴッホ、セザンヌ、モネ、ゴーギャン等々、超有名作家の作品が集結。しかも、65点の内、46点が日本初公開だという。晴天のゴールデンウィーク、館内は大盛況である(時間指定の入場制にはなっているが)。

展示は、「I. 信仰とルネサンス」、「II. 絶対主義と啓蒙主義の時代」、「III. 革命と人々のための芸術」と、時系列に三部に分かれている。正直な所、第一部のルネサンス期の宗教画は苦手だが、第二部以降は興味深い絵が多い。それも、凝った、と言うか、微妙にひねくれたセレクションだと感じる。ポスターにも使われているラ・トゥールの「女占い師」(1630年代)は、占いに注意を惹きつけている間にカモの男性から財布や宝石を盗もうとしているスリの集団を描いているし、グルーズの「割れた卵」(1756年)は、文字通り、卵を落として割ってしまった情景を描いているなど(教科書的には、割れた卵の横でふてくされている女性は「純潔を失い、もう取り返しのつかない状況を暗喩している」という解釈らしいが…)、何だかヘンテコな題材の絵も多いし、フェルメールの一品は、人気があるオランダ市民の日常を描いた風俗画ではなく、「信仰の寓意」(1670年頃)という、彼の作品では珍しい(というか唯一の)宗教を描いた寓意画だ。モネの「睡蓮」(1916~19年)もあまり見かけない色調の作品だ(当時、白内障を煩っていたモネが見たヴィジョンが反映しているらしい)。

変化球的な作品も多い展示の中で、最も印象的だったのは、マリー・ドニーズ・ヴィレールの「マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)」(1801年)。タイトルが長く、モデルの名前と作者の名前がどちらも「マリー」で紛らわしいのだが、逆光を使った表現が、とても現代的だと感じた。因みに、彼女の作品は、今のところ3点しか確認されていないということだ。

評判通り、見応えのある展覧会だ。その一方、1870年に「アメリカ国民のために美術の教育と振興を図る」ことを使命として創立以来、これだけの質・量のコレクションを集めたという事実に、当時の米国人のヨーロッパ文化に対するコンプレックス、そして、それに根ざした執念も感じるのは、穿った見方かな。


"My Salinger Year"22.5.6

米国のジャーナリストであり詩人でもあるJoanna Rakoffが、20代だった1996年に、老舗の文学出版代理店に就職し、J. D. Salingerのエージェントの秘書として働いていた時期を回想した著作"My Salinger Year"の映画化作品を観てきた。このタイトル、とても素敵な響きだと思うのだが、原作の翻訳本に付けられた邦題「サリンジャーと過ごした日々」は、いささか味気ない気がする。しかし、問題は映画に付けられた邦題「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」だ。映画配給会社は、馬鹿なのか?サリンジャーの名前を出さないこんなゆるふわ邦題で、誰にアピールしようと言うのか?

西海岸からニューヨークへ、作家になることを夢見てやってきた23歳の主人公が出版代理店に働き口を見つける。彼女は、やり手のベテラン・エージェントの秘書として、Salingerの元に届く大量のファンレターに対応することになる。それらの手紙は、当時、隠遁生活を送っていたSalinger自身の手に渡ることは無く、全てシュレッダーにかけられるのだが、エージェントは目を通していたのだ。John Lennonを射殺したMark Chapmanが、事件後も現場で”The Catcher in the Rye”を読み続けていた事があってから、ファンレターの内容チェックが必要になったのである。主人公は、数々の熱烈なファンレターに心を動かされる内に、内面的な成長を遂げていくことになる。

題材はとても興味深いのだが、ストーリー自体は、薄っぺらい「自分探し」だと思うし、個人的には、この主人公にあまり感情移入出来ない。大体、作家を目指しながら、”The Catcher in the Rye”を読んだことが無いのだ。彼女がSalingerの著作を読むのは、物語の終盤になってから。回想録が原作なので事実だと思うが、好きになれないなぁ。

主人公は問題を抱えているが、映画自体のリズム感は、しみじみと心地よい。そして、ベテラン・エージェントを演じるSigourney Weaverの存在感が、流石の説得力だ。因みに、Tim Postという俳優がJ. D. Salingerを演じているが、正面から顔が映るシーンは無い。しかし、意外に気さくな話しぶりなど、Salingerって実際にこういう人だったのだろうなと思わせてくれる描き方がされていて、好感が持てる。主人公の人物造形と馬鹿邦題を除けば、良い映画だと思う。


"MICHEL CAMILO SOLO"@ブルーノート東京22.5.7

ブルーノート東京Michel Camiloのソロ公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。このジャズクラブでは、実に、2年2か月ぶりの来日ミュージシャンの公演となる。それが、Michel Camilo。4日間8ステージ行われる公演の初日初回に参戦である。

満面の笑みで登場したCamilo。久々の日本公演に、本人も感慨深そうである。そして始まった演奏が、凄い。力強い超高速プレイは当然のことながら、鍵盤を叩く力が、いつも以上だと感じるのは、演奏に込められた感情によるものなのか、あるいは、彼のプレイを久しぶりに間近で観た自分の感覚によるものなのか。いずれにしても、圧巻である。

”Caribe"、"On Fire”など代表曲を惜しみなく披露してくれたが、個人的には本編ラストに演奏された ”Spain”に最も圧倒された。Camilo自身の演奏も、他の様々なミュージシャンによる演奏も、何度も聞いてきた曲だが、今回のアレンジとピアノ・プレイは、ちょっと違う次元だと感じるほどの熱量だ。

演奏自体の満足感だけでなく、今後、徐々に来日ミュージシャンも増えてくるだろうという希望も感じることが出来たライヴだった。



宝塚市のビジネスホテルでは、客室内のテレビのスイッチを入れると、(普通は、ホテルのインフォメーションだったり、前回スイッチを切ったときに映っていたチャンネルのままだったりするけど)必ず「宝塚歌劇専門チャンネル、タカラヅカ・スカイ・ステージ」になっているというのも、この連休中の発見でした。もちろん、市内全てのホテルでは無いと思うけど…。