IN/OUT (2022.7.24) |
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戻り梅雨も終わり、再び猛暑になった日本ですが、欧州はもっと酷いようです。ロンドンなどは、エアコンの無い家が多く余計に大変みたいで、この手の話題が彼の地とのビデオ会議冒頭の定番ネタになってます。熱波の話がアイス・ブレイクというのも皮肉なものですが。 最近のIN蜷川実花「瞬く光の庭」 @ 東京都庭園美術館 (22.7.18)蜷川実花の写真展を観に、東京都庭園美術館に行ってきた。展示されるのは新作。昨年から今年にかけて、コロナ禍の国内各地で4万枚の撮影を重ねた成果だそうだ。 いかにも蜷川実花らしい、前ぼけを多用した高彩度(彼女は「光彩色」と呼んでいる)の写真が並ぶ。いつもは、too much感を覚えて、敬遠しがちな蜷川実花の写真なのだが、庭園美術館の室内装飾と窓から入る光まで計算し尽くした展示は、シンプルに美しいと思う。 部屋ごとにテーマカラーを決めたような展示で、室内に置かれた調度品にも気を配っていると思う。そして、ベランダの窓にも写真をはめ込み、幻想的な雰囲気を演出している。 本館=旧朝香宮邸の展示だけでお腹一杯だが、新館にはさらに工夫されたインスタレーションが展示されている。半透明のスクリーンが重なり、そこに投影される様々な花の写真。それらのスクリーンの奥には、強い光を放つ大画面。観客のシルエットも作品の一部になり、なんとも美しい空間が現出している。これまで、東京都庭園美術館での展覧会では、新館の展示には「おまけ」という感覚を抱きがちだったのだが、今回は、見事に新館展示室の大きな空間が活かされている。 このところ、私好みの企画が続く東京都庭園美術館。今回も大いに堪能。 「萩尾望都SF原画展」@ 3331 Arts Chiyoda (22.7.18)萩尾望都の原画展を観に、アーツ千代田3331に行ってきた。秋葉原の近く、旧・千代田区立練成中学校を利用したアートセンターで、外観も中も、まさに中学校の校舎である。なお、この施設は2023年3月31日に運営会社と千代田区の契約が満了となるそうだ。その後も、恒常的な文化芸術施設とする方針は示されているそうだが、この雰囲気は極力残していただきたい。 さて、萩尾望都。1969年のデビュー以降、第一線で活躍し続ける漫画家だが、その膨大な作品群の中でも特徴的なのが、少女漫画としては異例の本格SF作品だ。私も、1975年の「11人いる!」が、彼女を知るきっかけだった。SF漫画に焦点を絞った展覧会は、とても興味深い。 Chapter I:1970年代の初期、Chapter II:1970-80年代の光瀬龍やブラッドベリとのコラボレーション、Chapter III:1980年代から90年代のSF中期、そして、Chapter IV:2000年代のSF近作と、4つのチャプターに区分された展示室には、「11人いる!」、「スター・レッド」、「百億の昼と千億の夜」「銀の三角」、「バルバラ異界」などなど、数多くの名作の原画がたっぷり並ぶ。「11人いる!」の設定書を見ると、本当に論理的な人なんだなと感心する。論理的であると同時に、美的であり、詩的であり、それでいて、少女漫画の文脈はしっかり維持した作品群を1970年代から描き続けているのは、まさに先駆者であり開拓者だ。 と書いていたら、タイミング良く、萩尾望都が米国のThe Will Eisner Award Hall of Fameを受賞とのニュースが入ってきた。いわゆるコミックの殿堂入り。日本人の受賞者は、手塚治虫、小池一夫、小島剛夕、大友克洋、宮崎駿、高橋留美子に次いで7人目とのこと。彼女の作品のクオリティと、漫画界に与えた影響力を考えれば、当然と思うと同時に、米国でも評価されたのは凄いことだなとも思う。 もう一つ、展示で印象的だったのが、1984年に発売された「百億の昼と千億の夜」のイメージ・アルバム。LPレコードである。ジャケットのイラストは描き下ろしの阿修羅王。全編、インストゥルメンタルの曲で構成されているそうなのだが、作曲はタケカワユキヒデ。編曲は鷲巣詩郎。こんな、凄いアルバムの存在を知らなかったとは、不覚。聴いてみたい。 「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ」 @ 国立西洋美術館 (22.7.18)2020年以降、大規模な改修工事を行っていた国立西洋美術館の、リニューアル・オープン記念の展覧会を観てきた。 自然と人の対話(ダイアローグ)から生まれた近代の芸術の展開をたどる展覧会。Caspar David Friedrich、Vincent van Gogh、Claude Monet、Gerhard Richterらの名画が並ぶ。特に、これまでよく知らなかったCaspar David Friedrichの作品「夕日の前に立つ女性」は、その力強さがとても印象的だ。 また、この展覧会は、ドイツのフォルクヴァンク美術館(Museum Folkwang)とのコラボレーション企画でもある。展覧会のタイトルには、両館のコレクションを対にして展示することで生まれる「ダイアローグ」という意味も込められていると思う。それを強く感じたのが、Claude Monetの「舟遊び」(1887年)と、Gerhard Richterの「雲」(1970年)の2作品が、約100年の時を超えて並んでいる展示だ。水面に映る反射を捉えた印象派の名画と、写真を元に描いた(フォト・ペインティング)現代美術。二つの作品が、光や青空といったイメージで対話しているような展示。巧みだなぁと思う(後で調べたら、ポーラ美術館でも、MonetとRichterの作品が並んで展示されているそうだ)。このような工夫のある展覧会は楽しい。 また、常設展にも、意外な見所が!Carlo Dolciの「悲しみの聖母」に用いられた青は、ラピスラズリから作られたウルトラマリン顔料であることを突き止めたという調査報告が展示されていて、非常に興味深い。こういう地道な研究成果も展示してくれるというのは、素晴らしいと思う。 これで余計に欧州発の環境規制が厳しくなるかもしれないという嫌な予感もします。面倒くさいと言っちゃいけないのでしょうが… |