IN/OUT (2019.3.3) |
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毎年、「今年のスギ花粉は手強い」と書いているような気がしますが、今年も、やはり手強い。というか、昨年との比較なんて、自分じゃ分からないですよね。 最近のIN"Den skyldige" (19.2.26)デンマーク製のサスペンス映画を観てきた。邦題は「THE GUILTY ギルティ」 舞台は、警察の緊急通報指令室。主人公は、何らかのトラブルを抱えて、現場を離れ、緊急通報司令室でオペレーターとして働いている警察官。彼が、離婚した夫に拉致された女性からの救助を求める電話を受け、何とか彼女を救出しようと奮闘する、というシンプルなお話。 しかし、シンプルな設定とは裏腹に、かなりの異色作だ。舞台は、緊急通報司令室のみ。画面に映るのは、オペレーターの姿だけで、事件現場の映像は一切無い。主人公がひたすら電話をかけるだけ。そのため、観る者は、主人公と同じく、電話の声、そして、その背後に聞こえるかすかな背景音だけを頼りに、何が起こっているのか想像するしか無い。しかも、セリフはデンマーク語。私も含む多くの日本人には、字幕が頼りだ。それなのに、全く緊張感の途切れない85分間。これは凄いことだ。 さらに、この映画が並外れているのは、電話を通した会話劇だけなのに、誘拐事件に意外なドンデン返しを仕掛け、主人公(決して、ヒーロー・タイプでは無い。欠点も目立つ男だ)がオペーレーターとして働かざるを得なくなった事情と、その苦悩からの解放という重い物語までを語りきるという離れ業を演じているところだ。深い余韻を残すラストシーンも見事。 派手さこそ無いが、見終わった後、つくづく凄い映画を観たと実感できる傑作だ。 "Alita: Battle Angel" (19.2.28)James Cameronが製作し、Robert Rodriguezが監督した映画を観てきた。 この二人が組んだという事で想像が付くとおり、ストーリーは極めて単純。登場人物の造形にも奥行きは全く無い。薄っぺらなストーリーを、CGを見事に使いこなした派手な映像で見せる。それだけの映画である。富める者と貧しい者に二極分化した未来。「富める者」側の空中に浮かぶ人工都市と「貧しい者」側の猥雑な街。人体改造で武器と一体化したサイボーグ戦士。ローラーゲームを過激にしたような未来のスポーツ。全てを監視する究極の悪役の存在。などなど、出てくるギミックが全て既視感を覚える物で、SF的な驚きが無い。ここまで新鮮味が無いというのも、ある意味凄いかも、と思えるほどだ。 原作が木城ゆきとの「銃夢」という漫画ということだが、私は未読なので、どこまで忠実に映画化されているのかは分からない。ただ、主人公のAlitaのCGで描かれた大きな目は、いかにも漫画っぽい。"Avatar"もそうだったが、気持ち悪くなるギリギリの造形の登場人物に感情移入させるのは、James Cameronならでは。 ということで、「SF」としてはあまりにも凡庸な作品だ。しかも、Alitaと恋に落ちる男の子に全く魅力が無いというところも致命的な欠点だ。こんな駄目男に惚れていては、ダメだろう。しかし、頭を空っぽにして、漫画チックなキレッキレのポーズを決めるAlitaの姿を観ているだけと割り切れば、IMAX代をプラスしても、元は取れる映画だと思う。それぐらい、特撮だけは見事だ。 Kavita Shah & François Moutin @BODY&SOUL (19.3.1)米国のジャズ・シンガー Kavita Shahと、フランス出身で現在はニューヨークを拠点に活動するベーシスト François Moutinのデュオ公演を観に、南青山のジャズクラブ BODY&SOULに行ってきた。 初めて行く店だが、一晩に2セットのライヴが行われる、南青山のビルの地下にあるジャズクラブ。となると、ブルーノート東京と同じだ。しかし、そこからが大きく違う。まず、狭い。キャパは最大で70名(この日の客は、30人に満たなかったと思う)。そして、ミュージック・チャージは、1st と2nd、両ステージ通しの料金。入れ替え制では無い。ということで、私も、きっちり2セット楽しんできたのだが、客層も店の雰囲気も、お洒落方向に振ったブルーノート東京とは大違い。かなりコアな店である。 このライヴに足を運んだのは、狭間美帆のライヴで、彼女のアルバムに参加したKavita Shahが日本でツアーをすると聞いて興味を持ったからだ。それ以外の予備知識は何も無かったのだが、中々、刺激的なライヴだった。 ヴォーカリストとベーシストの共演と言っても、単純に、歌の伴奏をベースが担うという物では無い。François Moutinの技巧を凝らしまくったウッド・ベースと、Kavita Shahの迫力有る歌声が、対等に渡り合うという感じ。必ずしも、私好みの曲ばかりでも無かったのだが、聴いている内に癖になる音楽だ。 Kavita Shahの両親はインド出身。アンコールでは、「さくらさくら(このジャズ・アレンジが非常にカッコ良かった)」を間に挟みながら、インドのフォークソングを披露したのだが、インド映画に流れる歌を思い出して、私としては、これだけで大満足だった。それにしても、知らない店、知らない音楽って、いっぱい有るなとも実感した。 "Mortal Engines" (19.3.2)Peter Jackson(彼はこの映画では、プロデュースと脚本に名を連ねている)の元で、視覚効果を担当していたChristian Riversが初めて長編映画を監督した作品を観てきた。邦題は「移動都市/モータル・エンジン」 "Alita: Battle Angel"と同じく、大規模な戦争で既存の社会が崩壊した後の世界を舞台にした作品だ。因みに、特撮を手掛けているのが、ニュージーランドのVFX制作会社 WETA Digitalというのも共通している。しかし、まったく新鮮味が無いギミックばかりが出てくる"Alita"と違い、この作品の設定は面白い。都市が、丸ごと超巨大な戦車のような構造物で、移動しながら、他の弱い都市を補食しているという世界。主人公の青年が暮らすのは、幅 1,500m・奥行き 2,500m・高さ 860mで、時速160kmで移動するロンドンである。この奇想の一点だけで高評価だ。主人公の男女も、いかにもジュブナイルの登場人物らしく、好感が持てる。 ということで、"Alita"よりも遙かに優れた作品だと思って観ていたのだが、映画が進むに連れ、結局、既視感に捕らわれることになる。移動する巨大な構造物、勇敢な少年・少女、荒くれ者っぽいが気のいい飛行機乗り達と、彼らを束ねる女丈夫、失われた文明の遺物の超兵器。これらの設定って、スタジオ・ジブリの世界に極めて似通っていると思う。 ということで、誉めたいと思わせる魅力に満ちた映画ではあるのだが、オリジナリティという面では、結局は物足りないところも残ってしまった。 "Green Book" (19.3.2)本年度アカデミー作品賞(助演男優賞と脚本賞も)を受賞した映画を観てきた。 1962年のアメリカを舞台に、黒人ジャズ・ピアニスト Dr. Don Shirleyが米国南部でコンサートツアーを敢行。そのドライバーに、高級クラブの用心棒を務めるイタリア系白人 Tony Lipが雇われる。知的で天才的なピアニスト Dr. Don Shirleyと、教養はないが腕っ節の強さと口先の達者さで皆から頼りにされるTony。全く異なるタイプの二人が旅をするロード・ムービーだ。 しみじみと沁みる、とても素晴らしい映画だ。当時の米国、しかも、舞台が南部ということで、人種差別問題が物語の主題になっている。しかし、人種差別をテーマにしながらも、声高に差別を糾弾することはせず、笑いの中に深い思いを忍ばせる、見事な作品だと思う。Don Shirleyは、一見、パーフェクトに見えて、内面は人間味に溢れ葛藤を抱えている。一方、Tony Lipは、がさつだが人間としての度量が桁外れに大きい。この二人を演じるMahershala AliとViggo Mortensenの演技が、人物造形に深味と説得力をもたらしている。また、監督が、"There's Something About Mary(メリーに首ったけ)"など、コメディのイメージが強いPeter Farrelly("Movie 43"という超お下劣作もあったな)というのも意外だが、笑いと感動のバランスの取れた抑制の効いた演出に徹している。それもまた見事。 実話を元にしているということだが、映画化はTony Lipの息子が持ちかけたものらしい。もしかしたら、死んだ親父の「いい話」(Don ShirleyとTony Lipは二人とも2013年に亡くなっている)を、ちょっと「盛って」いるんじゃないかという気もするし、実際、米国では色々物議を醸しているところもあるそうだが、そんなことで、この映画の価値が減じることはない。チャーミングなラストシーンが与えてくれる幸福感は、本当に素敵なのだ。 今年は、薬をアレグラからアレジオンに替えてみたのだけれど、効き目が弱いような気がします。と言っても、これもまた、客観的な比較は自分じゃ出来ない事ですね… |