IN/OUT (2023.2.26) |
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東急百貨店渋谷本店の閉店に続き、隣接するBunkamuraが4月より長期休館。施設の補修や設備の更新、さらに、東急百貨店跡地に新築される施設との一体化に向けた工事が実施されるそうです。映画館、劇場、コンサートホール、美術館が一体となった複合文化施設を維持・運営するのは大変だと思いますが、他に類を見ない素晴らしい施設だと常々思っているので、変に商業主義を強化することなく、無事に改修工事が終われば良いなと思う、今日この頃です。 最近のIN"Benedetta" (23.2.23)Paul Verhoeven監督の新作を観てきた。 舞台は17世紀のイタリアの地方都市(劇中のセリフはフランス語)。実在した修道女の裁判記録(罪状は、同性愛)を元に作られた作品である。 Benedettaは主人公の名前。6歳で修道院に入り、そこで無垢なまま育った修道女。幼い頃からキリストのビジョンを見、聖痕を受け、奇跡を起こし、民衆から崇められ、ついには修道院長に上り詰める。しかし、彼女に追い落とされた前修道院長とその娘は、彼女のイカサマを疑い…というストーリー。背景には、恐るべき致命率のペストの感染拡大。浮かび上がるのは、支配層に媚び、出世を画策する宗教界の人々。 果たしてBenedettaは、本当に奇跡の人なのか、あるいはトリックスターなのか?身も蓋も無い結論だが、結局の所、Benedettaも、彼女の周囲の修道女達も、教会の聖職者達も、さらには、町の人達や荒くれ者も皆、100%の聖でも100%の俗でもない。皆、その狭間で揺れ動いているのだ。そういった人間の愚かしさが、Verhoeven監督らしい、激しい暴力&セックス描写も交え、提示される。ずっしりとした見応えのある作品だ。 その見応えの裏には、映画で描かれる17世紀と、21世紀のリアルとの間に、実は大きな差が無い=人間社会は、当時から大して進歩していないという、これまた身も蓋も無い事実があると思う。 ”Bang Bang!” (23.2.23)2010年のTom CruiseとCameron Diaz主演映画「Knight and Day」を、2014年にインドでリメイクした作品を観てきた。2014年の作品が、なぜ今頃、日本でロードショー公開されるのか謎だが、「RRR」が盛り上がっているので、配給会社が何匹目かのドジョウを狙ったのかもしれない。 地味で平凡な生活を送るヒロインが謎のイケメンと偶然出会い、訳の分からないまま世界を股にかけた大冒険に巻き込まれるというストーリーの大枠は、元祖"Knight and Day"と共通している。気の利いたセリフや、アクション・シーンの工夫など、引用されている箇所も多い。ただ、元祖のイケメン Tom CruiseはCIAのエージェントで、恐るべきエネルギーを秘めた発明品を巡って活躍するのに対し、本作のイケメン Hrithik Roshanは謎の大泥棒で、盗み出したダイヤモンドを巡って騒動を繰り広げる。という訳で、元祖もお馬鹿映画だったが、それ以上の荒唐無稽設定に改変されている…。ただし、ヒロインに関しては、元祖のCameron Diazがぶっ飛びすぎていて、本作のヒロイン Katrina Kaifは分が悪いかな。 歌と踊りはたっぷりで(ヒロインが恋に落ちた瞬間、時空を超えたミュージカル・シーンに突入というお約束もバッチリ)、個人的には嬉しいのだが、S.S. Rajamouli監督が「Baahubali: The Beginning / バーフバリ 伝説誕生 完全版」・「Baahubali 2: The Conclusion / バーフバリ 王の凱旋 完全版」、そして「RRR」でアップデートしたインド映画を観た後では、どうしても「古き良きインド・アクション映画」という印象になってしまう。もはや時代は変わっているのである。あるいは、男性主人公に”SUPER ☆ STAR" Rajinikanthのようなユルさとコメディ要素があれば、普遍的な面白さを獲得できたかもしれないが、Hrithik Roshanのイケメン度はTom Cruiseを遥かに凌駕していて、隙が無さ過ぎるのが、逆に残念。 ということで、私としては好物の映画だが、万人には勧めづらいかな。 ”Triangle of Sadness” (23.2.25)2022年・第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でパルム・ドール(最高賞)を受賞した映画を観てきた。スウェーデン出身のRuben Östlundが監督するスウェーデン・フランス・イギリス・ドイツの合作映画だが英語作品。邦題は「逆転のトライアングル」。 人気モデルでインフルエンサーでもある女性 Yayaと、イケメンではあるが仕事はパッとしない男性モデルのCarlというカップルを主人公にした映画は3部構成。第一部は、女性の方が優位な経済格差カップルである主人公達が、レストランの支払いを巡って口論となる。Carlの器の小ささが悲しい笑いを誘う。 第二部は、人気インフルエンサーの役得で二人が招かれた豪華客船でのクルーズ。超金持ちばかりの乗客。彼らをもてなす客室乗務員は、見栄えの良い白人男女で揃えられ、チップ目当てに手厚いサービスを施す。一方、乗客の目に触れない船の下層には、有色人種ばかりの裏方スタッフが働いている。分かりやすい格差社会の縮図だ。嵐の中、開かれた船長主催のディナー会場が混乱に陥るスラップスティックな笑い。 嵐の中、海賊に襲われ、客船は沈没。主人公カップルを含む数名が、無人島に流れ着いたところから、第三部。生存者達の中で唯一、素手で魚を捕り、火を起こす、というサバイバル能力を発揮するのは、船の最下層でトイレ掃除を担当していたおばさん。彼女は、他の漂着者を支配する側に立つ。階級闘争が寓話的に描かれる。 全編に渡り強烈な皮肉とブラックな笑いが満ちていて、奇妙な緊張感が持続する見応え有る映画だ。最初は、一番嫌みなキャラクターだと思われたYayaが、実は…。という展開も巧い。 ただ、格差社会の戯画化が、ややありきたりの描写なのと、観客に判断を委ねるようなオチは、もう一工夫欲しかったかな。 「マリー・ローランサンとモード」@LBunkamura ザ・ミュージアム (23.2.25)Marie LaurencinとCoco Chanel。ともに1883年生まれの二人の活躍を軸に、二つの世界大戦に挟まれた1920年代のパリの芸術界を俯瞰する、という展覧会を観に、Bunkamura ザ・ミュージアムに行ってきた。 Laurencin、Chanel以外にも、Man RayやJean Cocteauなど同時期にパリで活躍したアーティスト達がクロスオーバーし、刺激しあい、新しい芸術を生み出していった「時代の熱量」が感じられる展覧会だ。 ゆるふわ系の始祖とも言えそうな画風のMarie Laurencinだが、Coco Chanelからの依頼で描いた肖像画が、似ていないという理由で受け取りを拒否され、その後、関係がギクシャクした(それでも、LaurencinはChanelの店には通い、ショッピングは続けたそうだ)という人間くさいエピソードや、大恐慌後の時代の中で徐々に色使いが派手めに変わっていったという批評など、中々興味深い。 当時のファッションに関する言及も多い展示の最後は、Karl Lagerfeldによる2011年春夏のChanelのオートクチュール・コレクション。「Laurencinの色使いから着想を得た」ことをLagerfeld自身が公言していたそうだ、 上手い着想で企画された展覧会だと思う。が、ファッションに疎い私には、いささか物足りなさも残ったかな。 Bunkamuraの欠点は、そこに辿り着くまでに、渋谷の街を歩く必要があること。駅前は、再開発の最中で、ダンジョン化がとんでもない事になっているし、若者と外国人観光客でごった返す雑踏には、馴染めない…。 |