IN/OUT (2021.12.12)

冬の矢野顕子強化月間と同時に、上原ひろみのツアー、さらに、清水ミチコに、King Crimsonと、この1ヶ月間のライヴの充実ぶりは、これまでの我慢の月日を一気に挽回してお釣りが来るほどで、諸々、調整に苦労することはあれど、有り難い限りです。


in最近のIN

「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット JAPAN TOUR 2021 “SILVER LINING SUITE”」@Bunkamura オーチャードホール21.12.9

上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットの公演を観に、オーチャードホールに行ってきた。

この編成のライヴは、今年の正月、ブルーノート東京で観たのだが、とにかく素晴らしかった。その後、発売されたアルバムは、私のヘビー・ローテションとなっている。そして、年末、ついにホール・ツアーである。

座席は2階のL席。このホールでは初めてのポジションだが、全体が俯瞰できるし、2階のセンター席よりも圧倒的に舞台に近い。中々の良席だ。

弦楽四重奏(西江辰郎(1st ヴァイオリン)、ビルマン聡平(2nd ヴァイオリン)、中恵菜(ヴィオラ)、向井航(チェロ))と、真っ赤な衣装の上原ひろみ登場。レコーディング・メンバーと同じだが、正月のブルーノート東京公演とはヴィオラが替わっている。「Someday」から演奏開始。オーチャードホールの大空間に響く弦楽四重奏とピアノの絡みは、ジャズ・クラブで聴くのとは全く違う豊潤さだ。早くも圧倒される。

しっかりしたMC(ひろみ嬢にしては珍しいかも)の後、「Sliver Lining Suite」。組曲 4曲「Isolation ~ The Unknown ~ Drifters ~ Fortitude ~」をしっかり演奏。ブルーノート東京でのショーよりも公演時間が長いこともあり、聴き応え十分、いや、十二分。

弦楽四重奏組が一旦はけて、ひろみ嬢一人で「Uncertainty」。次は、ひろみ嬢がはけて、弦楽四重奏で「Legend of the Purple Valley」、そして、ひろみ嬢が加わって「11:49PM」という構成。本編最後は「Jumpstart」で弾ける!どれもこれも、とにかく、素晴らしい。この豊かな音に包まれる昂揚感。至福である。

アンコールでは、ひろみ嬢と日替わりメンバーでデュオを披露するという。このツアーは全12公演。4の倍数なので、各人 3回ずつで不公平が無いから、とのこと。そして、今日のデュオのお相手はヴィオラの中恵菜嬢。ピアノはあくまでも控え目で、普段、あまり聴く機会の無いヴィオラがメインというのが嬉しい。しかも、演奏曲は「月と太陽」。これは矢野顕子ファンにも嬉しい選曲なのだ。ヴィオラの魔性の音色の表現力を堪能。

そして、全編ラストは「Ribera Del Duero」。5人全員が、圧巻のテクニックを惜しみなく繰り出しながらも、どこまでもご陽気。楽しい。素晴らしい。休憩無しで2時間みっちり。大満足。


"Last Night in Soho"21.12.11

Edgar Wright監督の新作を観てきた。

デザイナーを目指し、ロンドンの専門学校に入学した主人公。幼い頃に母を亡くし、祖母に育てられた彼女は、祖母の影響で1960年代の音楽やファッションが大好き。さらに、彼女は「見えてしまう人」でもある。そんな主人公が、夢の中で、1960年代のロンドンで歌手を目指す魅力的な女性と時を超えてシンクロする。しかし、徐々に夢が現実を侵食し始める、という、良く出来た現代の怪談話だ。

夢のシーンで、主人公と60年代ガールの主観が混沌とするところなど、Edgar Wright監督の映像テクニックの切れ味も素晴らしいが、それ以上に、音楽センスの素晴らしさが監督の持ち味だ。今作でも、Petula Clarkの「Downtown」など 大量の1960年代の名曲が効果的に使われている。個人的にはSiouxsie and the Bansheesの「Happy House」(1980年の曲だが)が実にふさわしい場面で使われていた事に、テンション爆上がりである。

Thomasin McKenzie嬢が演じるヒロインのかわい子ちゃんがひどい目に遭いすぎるのが、居たたまれないところもあるし、ラストはいささか強引という気もするが、私の中で「Edgar Wright監督作にハズレ無し説」は、さらに強固になったのである。


「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット JAPAN TOUR 2021 “SILVER LINING SUITE”」@アクトシティ浜松 大ホール21.12.12

アクトシティ浜松上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットの公演を観に、アクトシティ浜松に行ってきた。毎回、大いに盛り上がる故郷での凱旋公演がラッキーなことに日曜日。迷うこと無くチケット・ゲットしたのである。

浜松市楽器博物館コンサートの開演は16時だが、早めに浜松に入り、定番の浜松市楽器博物館で時間を潰す。ちょうど、企画展「テルミン誕生101年 電子楽器の過去と未来」が開催されている。入館料 800円で、大充実の展示を観られるのは素晴らしいのだが、この博物館、展示品の楽器を、どうしても触りたくなってしまうのが悩ましい。

アクトシティ浜松いよいよ、15時、開場。16時、開演。この会場は浜松駅からのアクセスも良く、遠征組にも好立地だ。最初の「Someday」演奏後の第一声が、「浜松に、帰ってきたに」という遠州弁なのが楽しい。

セットリストは、オーチャードホールで観たときと同じだが、演奏のレベルは確実に高まっていると思う。地元モードで全開のひろみ嬢はもちろん、それに引っ張られるように、弦楽四重奏組の演奏も素晴らしい。彼らは、自分が所属するオーケストラのクリスマス公演なども控えているはずなのに、このライヴへの集中力には驚愕する。「Sliver Lining Suite」組曲の4曲目「Fortitude」終盤の、観客の手拍子をバックに弦楽隊のソロを回すところなど、ロック・コンサートのノリだ。手拍子では無く、拳を突き上げたくなる。

ひろみ嬢ソロの「Uncertainty」でクールダウンした後の「Legend of the Purple Valley」から「11:49PM」の流れが、これまた素晴らしい、弦楽四重奏による静謐な出だしから、どんどんドラマチックに展開していく圧巻の演奏。ただただ圧倒される。そして、本編最後の「Jumpstart」の弾けっぷりの楽しさ!

アンコールに登場したひろみ嬢、「やっぱり、ホームタウンは良いですね」。最前列に、彼女が6歳から18歳まで師事していたピアノの疋田先生が座っているそうで、「ドッキリかと思った」とも。やはり、浜松公演は楽しいな。そして、今回の日替わりデュオのお相手は、チェロの向井航。演奏に入る前に、ひろみ嬢に要求されたピチカートが連続する楽譜が、いかにクラシックの奏者には辛いかを切々と語る。さすが、笑いの本場、大阪を拠点とする関西フィルハーモニー管弦楽団の特別契約首席チェロ奏者。笑いのツボを押さえたトークに会場もひろみ嬢も爆笑。演奏曲は、前回、オーチャードホールでヴィオラの中恵菜嬢と一緒に演ったのと同じ「月と太陽」。魔性のヴィオラとは違う、落ち着いた響きを堪能。楽器の表現力の方向性の違いを味わえるのが楽しい。

そして、全編ラストは「Ribera Del Duero」。5人全員が、圧巻のテクニックを惜しみなく繰り出しながらも、どこまでもご陽気。弦楽メンバーがそれぞれ舞台中央に歩み出てのソロも楽しい。やはり、浜松公演の演奏の熱量は特別だなぁと思う。全て終わった後の、ひろみ嬢の「浜松、サイコーッ!」の叫びを聴けて、遠征した甲斐があったと実感したのである。



高崎芸術劇場"Last Night in Soho"は、矢野顕子 さとがえるコンサートで訪れた高崎の109シネマズで鑑賞。気兼ね無しに地方遠征ができる有り難さも実感する、今日この頃です。