IN/OUT (2017.1.15)

シネコンが一般的になり、いわゆるロードショー公開館については、映画館毎の個性というのが無くなったかと思いきや、都内でも、シネコン毎に集まってくる客層がかなり違うということを感じます。お洒落さんが多いところ、ヤンキー比率が高いところ、(本物の)白人比率が高いところなど。"SUPER FOLK SONG"を観るために、最近、通っている新宿バルト9は、かなりオタクっぽい人の比率が高いような気がします。他館よりも、アニメ関連が充実しているのかな。


in最近のIN

"DAVID BOWIE is"17.1.9

寺田倉庫2013年に英国のVictoria and Albert Museumで開催され、大評判だったDavid Bowieに関する展覧会 "DAVID BOWIE is"が、ついに日本上陸。この、Victoria and Albert Museumでの展示は映画化されており、2015年に予習済みなのである。満を持して、会場の天王洲、寺田倉庫へ行ってきた。

入場時刻指定の前売り券を持ち、入場列に並ぶ。倉庫特有の大型エレベーターで会場入り口に向かい、入り口で、ヘッドセットを受け取る(このせいで、入場までに結構、時間がかかる)。このヘッドセットは、美術館によくあるオーディオガイドのように、いちいち、番号を押して再生する必要は無く、会場の特定のエリアに入ると、それぞれの場所に設定された音楽が流れるという優れものなのだ。

事前の予習通り、質・量ともに豊富な展示ではある。ただ、物凄いお宝があるかと言うと、実は、そうでも無いと思う… もちろん、Bowie好きなら、何時間居ても飽きないのは間違いない。

個人的に印象深かったのは、Stanley Kubrickの影響や、J. G. Ballardとの関連を示唆する展示だ。私自身は、BowieとKubrick、あるいはBowieとBallardを結びつけて考えたことは、これまで無かったが、言われてみれば、なるほどと思わせる指摘である。自分が偏愛するミュージシャンと映画監督とSF作家がつながるのは、何ともエキサイティングだ。また、一度、観てみたかった、Bowieが1980年に主演したブロードウェイの舞台「The Elephant Man」の舞台映像を鑑賞できたのも嬉しい。

この展示会の特徴は、やはり、美術館が構成したというところにあると思う。このような企画だと、ともすると、時系列に、各年代のスタイルにレッテルを貼って評論するような、博物館的な展示になりがちだと思う。しかし、この展示会は、良くも悪くも、アート視点からDavid Bowieの存在を際立たせるということに焦点を当てている。刺激的だが、同時に、物足りなさも覚えるのが、痛し痒し。

なお、ヴィデオ展示も多いため、人の流れが滞り、混雑する会場で全ての展示に目を通そうとすると、かなり疲れる。なんとか都合をつけて、平日の午前中とか、空いている時に再訪したいものだ。


「美人魚」17.1.9

周星馳監督の新作を観てきた。英語タイトルは"The Mermaid"、邦題は「人魚姫」。なお、周星馳は、製作・監督・脚本を務めているが、出演は無し。

世界で1億人以上を動員し、アジア映画歴代興行収入 1位に輝く作品なのだが、何故か、日本では極めて小規模な公開に止まっている。東京では、シネマート新宿の1館でしか上映してない… まあ、周星馳は、「少林サッカー」の大成功以降は、いささか低迷気味という印象があり、今では集客が見込めないと判断されたのかもしれない。しかし、本作は、祝・周星馳完全復活!と言いたくなる快作なのだ。

タイトル通り、主人公は人魚。人魚族の命運をかけ、環境破壊を進める青年実業家の暗殺を企てるのだが、二人は恋に落ちてしまうという、ベタな展開。そこに加わるのが、周星馳らしい、下らないギャグの数々。そして、意外なほどのバイオレンス描写。監督の作家性が炸裂というところだが、むしろ、吉本新喜劇をさらに下品にしたところに特撮を加えた、と言った方が的確かもしれない…。この監督の作家性が、作品によっては、暴走し過ぎる時があるのだが、この作品では良いバランスになっていて、褒め言葉としての「下らない」がピッタリくると思う。

主役の美人魚を演じるのは、新人のYun Lin。無邪気な小娘という感じがキュート。ただし、周星馳監督の演出の鉄則通り、登場時は、とんでもない不細工顔を披露するのがご愛敬。なお、この美人魚。暗殺者として人間社会に入り込むため、改造手術を受けているのだが、何のことは無い、尾びれに切れ込みを入れただけ。それを、無理矢理、左右の靴に押し込んでいるのだ。素晴らしい馬鹿馬鹿しさだ。

敵役となるクール・ビューティー Zhang Yuqi(キティ・チャン)が好対照の魅力で怪演。なぜか、香港映画界の超大物プロデューサー Tsui Harkがカメオ出演している。また、冒頭に流れる音楽は「ドラゴン 怒りの鉄拳」のテーマ曲。さらに、日本アニメ「ゲッターロボ」のテーマ曲も意外なところに使われていて、色々と面白いのだ。

周星馳の再評価と、この作品の上映館拡大を、強く訴えかけたいところである。


"The Neon Demon"17.1.14

Elle Fanning主演の映画を観てきた。監督は、Nicolas Winding Refn。

監督が、"Drive"で見せたのと同様、独特の色彩感覚とサウンドが溢れた作品だ。さらに、この作品は、内容自体が問題作で、合う人には合うが、拒否反応を覚える人や、そもそも話しが理解できない人も多いと思う。私には、合いました。

Elle Fanning演じる主人公は、トップモデルを夢見て、田舎町から、単身、ロサンゼルスに出てくる。その美貌で、瞬く間に、一流カメラマンやデザイナーの心を掴むが、同時に、他のモデルから強烈な嫉妬を受けることになる。そして、主人公は、この業界での唯一・絶対の価値=「美」に囚われていく。

事前に、このストーリーを聞いたときには、"Black Swan"のバレエの世界を、モデル業界に置き換えたような作品だと思っていた。実際、物語の前半は、そのような印象だ。ただし、Refn監督独自の、毒々しいまでに人工的な色彩と、Cliff Martinezによるシンセサイザー・サウンドで、より悪夢的イメージが強い。

しかし、終盤、物語は予想もしなかった展開を見せる。"Black Swan"のように主人公自身が狂気に囚われるのではなく、彼女の狂気が周囲に感染していくようで、とんでもない事になっていく。もう、このとんでもなさと言ったら、人を喰った映画としか言い様がないほどだ。そして、明らかになるのは、タイトルにある"Demon"の意味。前半の無意味と思われたシーンが、伏線だったことに気づき、この映画が「ホラー」にジャンル分けされていることに納得する。

Elle Fanningが、一見、無邪気な田舎娘だが、徐々に深い闇を見せていく主人公を熱演。つい、この前まで、可愛い子役さんだと思っていたのに、ハリウッドは怖い所だ…。他に、Jena Malone、Abbey Lee、Keanu Reevesら、脇を固める人達も、とんでもないシーンに果敢に挑戦している。

R15+というレイティングも当然というか、健全な少年・少女が観たらトラウマになりそうな強烈な映像体験だ。



マニアックな単館系じゃなければ、別に映画館毎に個性を主張する必要も無いわけで、むしろ、なるべく共通化してもらいたいルールが多々あるわけです。特に、座席番号を肘掛けのどこに表示するのか問題と、左右、どちらの肘掛けの方に飲み物を置くのか問題は、是非、共通化していただきたいと思う今日この頃です。