IN/OUT (2015.4.12) |
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いささか旧聞に属しますが、今年のエイプリルフールのジョークの中で秀逸だったのが、マイクロソフトがリリースした"MS-DOS Mobile"でした。 これは、Windows Phone用のストア・アプリで、起動すると、真っ黒の画面に、懐かしのDOSプロンプトが表示されるという物。そこで、dirコマンドを打ち込んでやると、なにやらそれっぽいディレクトリがいくつか。試しにGAMESに移動してプログラムを立ち上げると、いかにもDOS風のシンプルなゲームがプレイ出来るのですが、そこに辿り着くには、ドライバをロードしたり、そのドライバをフリーメモリーに移動させるために loadhighコマンドを実行したりしなければならないという凝りよう。また、WINDOWSディレクトリがあるので、WINと打ち込んでみると、Windows 3.1風の画面が立ち上がる。そこからさらに、インターネット接続を選ぶと、モデムの接続音が鳴ってからブラウザが起動したりという、私のようなDOS世代には感涙もののジョーク・ソフトでした。 最近のINStick Men @ ビルボードライヴ東京 (15.4.10)Tony Levin率いるStick Menの公演を観に、ビルボードライヴ東京に行ってきた。メンバーは全てKing Crimsonの関連メンバー。"DISCIPLINE"以降のKing Crimsonを支えたスティック奏者 Tony Levin、ダブルトリオ時代の主要ドラマー Pat Mastelotto、さらに、Robert Fripp's Guitar Craftの門下生 Markus Reuterの三人。さらに、"Larks' Tongues in Aspic"期のヴァイオリン奏者 David Crossがゲスト出演という豪華なメンバーだ。 因みに、Stick Men三人の演奏は、一昨年、The Crimson ProjeKctとして来日したときにも観ている。この時はダブル・トリオ編成だったが、今回の3人+1人の演奏は、迫力が半減するどころか、これまで観たCrimson系列の人達の演奏の中でも、最もテンションが高いものだったように思う。Crimson系列の中ではポップ・センスに溢れたAdrian Belewが参加しておらず、ヴォーカリストも不在な分、きっと、ゴリゴリの演奏だろうと予想はしていたが、それを遙かに超えるハードな演奏だった。メタル・クリムゾンをさらに先鋭化させたような尖り具合。音圧も、ビルボードライヴでは中々体感しないような迫力だった。Pat Mastelottoの、超重量級のドラム・ワークが腹に響く。 痩身・スキンヘッドのLevinがスティックを抱え、脚を大きく拡げてプレイする姿はヴィジュアル的にも、文句なくカッコ良い。スティックというのは、ギターのフレットボードだけを拡大したような、文字通り、棒状の楽器。バンドの中では、ベースの代替という位置づけになるが、単なる低音だけで無く、打楽器的にも鍵盤楽器的にも響く、面白い楽器だ。 ゲストのDavid Crossはベテランの貫禄。エフェクターを思いっきりかけているせいか、ヴァイオリンより、ギターっぽい音のような感じもあったが。特に、"Starless"を、彼のヴァイオリンを中心に、あの特徴的なフレーズをフィーチャーしたインプロビゼイションっぽい展開で聴かせてくれたのが印象的。 本編ラストは、ストラヴィンスキーの「火の鳥」。プログレ・バンド御用達のクラシック・ナンバーですな。そして、最後の最後に演ったのが、"Larks' Tongues in Aspic, Part II"!! もう、これぞメタル・クリムゾンの極地と言えそうなハードな演奏に超絶興奮。Stick Menのライヴで何度も取り上げられていると聞いていた"Red"を演ってくれなかったのは不満だったけど、実にスリリングな演奏だった。 "Birdman: Or (The Unexpected Virtue of Ignorance)" (15.4.12)Alejandro González Iñárritu監督の新作を観てきた。邦題は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」。主演は、元Batman俳優 Michael Keaton。 Birdmanというスーパーヒーロー映画で、かつて一世を風靡した役者が、再起を期し、ブロードウェイの舞台に挑む。しかし、共演者や舞台評論家との軋轢、麻薬中毒からリハビリ中の娘との関係修復などの問題に翻弄され疲弊していく。そんな彼の耳に、かつて自身が演じたBirdmanからのささやきが聞こえてくる… というお話。舞台のプレッシャーに潰されていく主人公というのは、"Black Swan"と共通したテーマ(「翼」というのも共通項か)だと思うが、狂気をシリアスに描いた"Black Swan"に対し、本作はブラック・コメディの要素も強い。 今年のアカデミー作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞の4冠に輝いたのも頷ける、いかにもアカデミー会員=映画人好みの、凝った工夫に満ちた作品だ。何よりも驚くべきは、ほぼ全編がワンカットに見えるカメラワーク。緻密な構成と、それに応える演技陣とスタッフの力が結集しなければ実現できない凄い映像だ。ただ、個人的に好きかと言われると、私には…。Iñárritu監督の旧作、"Babel"でも感じたが、この人のカメラワークは、私には重苦しすぎるかな。 さらに、音楽が、ほぼ全編、ドラム・ソロだけというのも斬新。それも、その場の即興で劇伴をつけているような演出になっている。担当したのは、Antonio Sánchez。Pat Methenyとの共演で知られる気鋭のドラマーだ。映画の中では、一部、オーケストラによる普通の劇伴が流れるところもあるのだが、その使い分けにちゃんと意図があるところが、これまた凝った所だ。 そして、何よりもアカデミー会員受けしたと思われるのは、お高くとまった舞台芸術の人達を揶揄しながら、返す刀でアメコミ頼みのハリウッド映画界もバッサリ斬る、皮肉に満ちた視点だろう。 間違いなく、映画好きは観ておくべき作品だと思う。ただ、鑑賞後、結構、疲労感が残るタイプの映画ではある。 また、電話をかけたり、SMSを送ったりする「DOSプログラム」も用意されていて、実用性はともかく、意外にランチャーとしても使えたりします。ただし、CAMERA.EXEで起動できる撮影用ソフトでは、モノクロ画像やASCII文字列で画像を表示するようなVGAサイズの写真しか撮れないなど、細かい作り込みが楽しい。 こういうジョークが楽しめるのは、年を取ればこそ。ありがたいことです。 |