IN/OUT (2026.1.25)

夏の間は地球温暖化の進行を実感するものの、やはり、寒くなる時は寒くなるものだと思い知る、今日この頃です。


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”TOKYO MELODY RYUICHI SAKAMOTO 4K Restoration”26.1.21

109シネマズプレミアム新宿1984年に製作・公開された坂本龍一のドキュメタリーの4Kレストア版上映を観てきた。製作は、INA(L'Institut national de l'audiovisuel / フランス国立視聴覚研究所)、監督は Elizabeth Lenard。

訪れた映画館は、坂本龍一が音響監修した109シネマズプレミアム新宿。ラウンジには、ポスターやTシャツ、彼が使っていたフロッピーディスクなどが展示されている。

109シネマズプレミアム新宿中でも、個人的に盛り上がってしまったのが、Fairlight CMIの実機!しかも、8インチ・フロッピーディスクも!1980年に発売され、音楽製作のデジタル化に大きな貢献をしたシンセサイザーの伝説的名機だ。 映画の中で、教授がFairlight CMIを使った音楽製作過程を解説するシーンがあるのだ。

映画の方は、正直、ドキュメンタリーとしては弱いと思う。が、1984年の東京の雰囲気が、しっかりフィルムに残されている。時代を感じる風景ではあるが、意外にも”隔世の感”という印象は無く、今も同じようなもんだよなぁと感じる箇所が多い(私が、1984年の記憶が鮮明な世代だからで、若い人にとっては違和感ありまくりの映像なのかもしれない)。

その感覚は、映画の中で教授が語る音楽に対する考え方にもあてはまる。今もそのまま通用しそうな発言が多いのだ。ポピュラー・ミュージックは、この40年ほど、表層的な所は変化しつつも、根っこは大して変わっていないのかもしれない。

私は、この時期(ちょうど、「音楽図鑑」を録音中)までの坂本龍一に、特に好印象を抱いている。映画の中の"イキった言動"も、今見ると、微笑ましい(以降は、いささか面倒くさい感じになっていったと思っている)。なので、良いタイミングで製作されたドキュメンタリーのレストア版上映はありがたい。そして何より、この映画の個人的最大の見どころ、教授と矢野顕子が「東風」を連弾するシーンを、映画館の大スクリーンで鑑賞できるのが嬉しい。


「大江千里トリオ」 @ ブルーノート東京26.1.22

ブルーノート東京大江千里が率いるジャズトリオ
・大江千里(p
・Matt Clohesy(b
・Ross Pederson(ds
のライヴを観に、ブルーノート東京に行ってきた。

大江千里は、学生時代、ちょっと縁があったミュージシャン。とは言え、特に追っかけていた訳では無かったのだが、彼が2008年に渡米し、今では、ニューヨークを拠点にしたジャズ・ミュージシャンになっているのを知ったときは意外だった。一度、聴いてみたいと思っていたのだが、ようやく機会が訪れた。

私の席は、左側、ピアノの至近席(極私的な表現をするなら、局室前の庭のサテライトスタジオで、ミキをやった時ぐらい近い)。そして始まった演奏は、王道の端正なピアノ・トリオ(ヴォーカルは無い)。ベースも、ドラムスも、とても的確なプレイだし、大江千里のピアノも、普通に上手い。逆に言うと、演奏自体にはあまり個性が感じられない。しかし、「REAL」や「向こうみずな瞳」など1980年代のポップス作品から、最近、書いたばかりという「Mohawked」まで、大江千里独特のキャッチーなメロディーが、(凡庸な、ポップスのジャズ・アレンジに堕すこと無く)巧みにピアノ・トリオに落とし込まれていて、中々、聴かせる。

驚いたのは、熱心な女性ファンが多数詰めかけていたこと。パフォーマンスの熱量以上に、会場からの歓声と拍手の熱量が凄い。ファンの方には怒られそうだが、パフォーマーとしては、甘やかされているなぁ…。

なお、観客席には、森山良子が来ていた。2024年末に発売された彼女のアルバム「LIFE IS BEAUTIFL」を大江千里がプロデュースし、このトリオが演奏も務めているのだ。

「Boys Mature Slow」と「My Island」で演奏終了。3人が挨拶し、さて、アンコールがあるのかなと思っていたら、ここで、大江千里が客席の森山良子を舞台に呼び込む。準備されていたのではなく、全くのサプライズ / 飛び入り状態のようだ。それでも、森山良子、にこやかにステージへ。そして、「LIFE IS BEAUTIFL」収録の「MORIYAMA(作詞・作曲・編曲:大江千里)」を披露。急遽、大江千里のMC用マイクを使っての歌唱なので、PAは大変そうだったが、レコーディング・メンバーが揃っているので、演奏は問題無し。歌詞が少々飛んでしまっても、そこは手練れの森山良子、巧みなアドリブで見事に歌いきる。いやはや、予想外に楽しく、素敵なパフォーマンスを堪能。

そして、最後にトリオでもう1曲「P.N.D. (Peace Never Dies)」で全編終了。

MCでは、米国で年金がもらえるようになったという話もしていたが、ニューヨークにしっかり根を下ろし、現在進行形でジャズに向かい合っている姿に感心した。


「ヨシダナギ写真展 『HEROES-RELOADED-』」 @ 上野の森美術館26.1.24

上野の森美術館世界中の先住民族・少数民族の姿を捉えた写真でお馴染み、ヨシダナギの写真展を観に、上野の森美術館に行ってきた。

上野の森美術館コントラストと彩度が高い画面の中、我々の日常では出会うことの無いようなメイクとファッションの人たちがポーズを決めている写真が、ずらっと並ぶ。とても見栄えが良いし、写真に付されたヨシダナギ本人による軽妙なメモが楽しさを増幅する。

上野の森美術館ただ、写真作品としては(作風と言えばそれまでだが)構図やライティングが似通った写真ばかりなのは、ちょっとつまらないかな。

上野の森美術館あと、注意しなければいけないと感じたのは、これらの作品が、学術的な記録写真では無いということ。ここに写っているのは、あくまでも、外国から来た写真家のために、わざわざ伝統的な格好をしてくれた人たちということだ。被写体の方々の多くは、普段はジーパンにTシャツみたいな格好で、スマホをいじったりしているのだと思う(それは、アイヌの人達を撮った写真からも明白だ。今、これを普段着として北海道で暮らしている人はいない)。それならそれで、彼らの日常も写して、 A面/B面 みたいに並べて見せてくれても良いかな、と思ってしまった。消えゆく伝統と画一化していく世界、みたいな視点があっても良いのになぁと思う(その辺りは、写真に付されたメモで、ある程度、カヴァーされているが)。

それでも、遠く離れた国へ行き、少数民族の人々と会い、伝統衣装での写真撮影のモデルになってもらうというヨシダナギの行動力は、純粋にすごいと思う。それに引き換え、私は、アフリカを再訪してみたいという気はあるのだが、すっかり腰が重くなっている…


”Mercy”26.1.25

T-Joyプリンス品川Chris Pratt、Rebecca Ferguson主演のSFスリラー映画を観てきた。邦題は「MERCY マーシー AI裁判」。

AIの判事により刑事裁判が行われるようになった近未来。Chris Prattは、妻を殺した容疑で逮捕され、自らの手で90分以内に自身の疑いを晴らさなければならない状況に追い込まれる。というお話。Rebecca Fergusonは、AI判事役。

終わってみれば、中々良くできたサスペンス映画だと思うのだが、出だしはキツかった。私には、Chris Prattが演じる主人公(加えて、その妻も、娘も)が、どうにも好きになれない人間像で、感情移入できないのだ。

しかし、オンライン上で入手できる手掛かりを駆使して真相に迫る描写は、スピーディーで見応えがある。Timur Bekmambetov監督は"Searching邦題「search/サーチ」)"のプロデューサーだっただけに、モニター画面に映るウェブ情報など見せる手際が恐ろしく巧い。結果、主人公の人間的欠陥も気にならなくなってくる。

AIの扱いも、「もしかしたら、人間的な心理を持っているのかも」という含みを持たせながらも、過剰に肩入れしない、上手い按配だ。これを、生成AI画像ではなく、生身のRebecca Fergusonが絶妙な表情で演じている。

とても現代的な題材を見事に映像化した作品だし、ある意味、安楽椅子探偵的ミステリーでもある。これで、主人公が、もうちょっと良い奴だったら、大絶賛だったのだが…


「挾間美帆 & 滝 千春 project MaNGROVE」 @ ブルーノート東京26.1.25

ブルーノート東京ジャズの作・編曲家 挾間美帆と、クラシックのヴァイオリニスト滝 千春が組んだプロジェクト「MaNGROVE」の公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。先週は、小金井 宮地楽器ホールでのホール公演だったが、今回は、クラブ公演だ。

メンバーは、
・挾間美帆(プロデュース、作・編曲、ピアノ
・滝 千春(ヴァイオリン、プロデュース
・山根一仁(ヴァイオリン
・Luosha Fang(ヴィオラ
・佐藤晴真(チェロ
・木村将之(コントラバス
弦楽五重奏 + ピアノという編成。

まずは、弦楽四重奏の4人で、挾間美帆作曲「CHIMERA」。不穏な緊張感をはらみながらの格好良い曲。元は、モルゴーア・クァルテットのために書いた曲ということで、道理で、プログレ味もあるわけだ。

挾間美帆と木村将之もステージに上がり、6人揃って、S. Prokofievの「バレエ組曲『ロメオとジュリエット』Special Selection for MANGROVE」。ホール公演では、組曲から5曲を採り上げたが、今回は、一番、キャッチーな「Dance of Knights」のみ。途中、佐藤晴真による、ジャズ風のチェロのアドリブ演奏があるところがミソ。

滝千春と山根一仁の2人で、挾間美帆作曲「B↔C(MaNGROVE Edition)」、
滝千春と挾間美帆の2人で、Charles Chaplinの「Smile」(Claus Ogerman編曲)、
と、小編成ながらテンションの高い演奏。

そして、6人揃って、山下洋輔の「スプラッシュ・オン・パレット」。クラシック組のメンバーも大熱演だ。
さらに、挾間美帆の「組曲『Space in Senses』」から、「Parallelism」、「Puzzle」、「Interlude」。

メンバー紹介の後、本編最後に、「組曲『Space in Senses』」から「Big Dipper」。
アンコールで、挾間美帆の「Mosaic」で全編終了。
緊張感のあるステージは、隅々まで格好良く、スタンディング・オヴェイションである。

改めて、挾間美帆の才気と、一流クラシック奏者の懐の深さに感銘を受けたが、先週、武蔵小金井で聴いたときよりも、今回の方が圧倒的なインパクトだった。それは、私がこのプロジェクトを聴くのが2回目だったこともあるだろうし、武蔵小金井の後、大阪、京都、長野をツアーで回ってからの公演(ツアーの初日と最終日を観たわけだ)でプロジェクトの成熟度が増したこともあるだろう。そして、ブルーノート東京という会場も良かったと思う。とにかく、クラッシックのストリングスの響きを、これだけの至近距離(私の席から第一ヴァイオリンの足下まで、1mぐらいだ!)で聴ける機会は滅多に無い。本当にエキサイティングだった。普段はクラシックや現代音楽を演奏し、このようなタイプのプロジェクトは初めてだというLuosha Fangが、挾間美帆に感想を訊かれ、「thrilling, fun and risky」だったと答えていたが、聴いている我々にとっても「スリリングで、楽しくて、リスキーな」体験だった。



これで、寒波が緩んだ途端に、一気にスギ花粉が飛び始めるのだろうという予感もしています。