IN/OUT (2023.3.26)

WBCが大いに盛り上がったのは喜ばしいことですが、TV放送でテーマソング的に使われている曲が、野球とまったく関係ないのが気になります。何故、産業ロックの雄 Journeyによる別れの曲(しかも、ヴィデオ・クリップが致命的にダサいことでも有名)? 私たちの世代だと、間違い無くカッチョ悪い選曲と言われると思うのですが…。


in最近のIN

"Maigret"23.3.20

新宿武蔵野館Gérard Depardieuが、メグレ警視を演じた映画を観てきた。Georges Simenonによる100編を超える原作シリーズは、古くからのミステリ・ファンにはお馴染みである。

映画の原題は、シンプルに”Maigret”だが、サブタイトル的に原作小説のタイトル "Maigret chez le ministre"がクレジットされている。邦題は、サブタイトルも含めて訳した「メグレと若い女の死」。

舞台は1950年代のパリ。刺殺されたと思われる若い女性の死体が広場で見つかる。捜査にあたるMaigret警視は、地道に彼女の身元を調べ、捜査の網を絞っていく。

Gérard Depardieuが、原作のMaigretの雰囲気(かなりの巨漢である)にピッタリ。まさにハマり役。堂々たる演技が醸し出す重厚な雰囲気の一方で、今の時代だとコンプラ的にマズそうな捜査手法も取るのだが、その背景にある彼の父親としての情が切ない。

Depardieuの存在感、押しつけがましさの無い上品な演出、寒色で統一された落ち着いた色調と巧みな構図で描写されるパリの雰囲気。全てが、見事にマッチしていて、89分間の小品ながら、上質なミステリ映画になっている。Patrice Leconte監督、さすがである

鑑賞したのは、新宿武蔵野館。このような地味な映画でも、場内の一角に特設コーナーをしつらえるところが、映画好きが運営している映画館らしく、好感が持てる(観客席の傾斜が緩く、座高の高い人が前に座ると一気に見づらくなるところが難点だが…)。


「ルーヴル美術館展 愛を描く」@国立新美術館23.3.21

国立新美術館西洋における様々な愛の概念が、どのように絵画に描かれてきたのか、ルーヴル美術館のコレクションから選ばれた73点の作品を通して浮き彫りにする、という趣向の展覧会を観に、国立新美術館に行ってきた。

展覧会の惹句は「ルーヴルには愛がある」。”LOUVRE”。確かに、そのスペルの中には"LOVE"がある。思いついた人は座布団を獲得できそうな惹句である。

国立新美術館展示されているのは、16世紀から19世紀のヨーロッパの高名な画家による作品だが、私が名前を知っていたのは、 Eugène Delacroixぐらい。恥ずかしながら、存じ上げなかった方々が多い。

絵画のテーマは、略奪してでも愛する人を所有しようとするローマ神話の荒っぽい愛。自己犠牲を尊しとするキリスト教の愛。さらには、ムフフな情景を描いた作品や、娼婦を買うことも愛の行為として描いた作品などなど。文化的には興味深いが、どれも、濃い。肉食系脂肪分こってり。私にはカロリー高過ぎの作品が多い。中には、17世紀オランダの画家 Samuel van Hoogstratenの「部屋履き」という無人の部屋を描いただけの作品もあるが、これがまた、慌てて脱ぎ捨てられたように散らばったスリッパや、鍵が刺さったままの扉など、画面内の意味深なディテールが妄想をそそるという、上級者向けエロティシズム。西洋人って奴は、まったく…。という気分になってくる。

時間予約制で入場者数をコントロールしているが、コロナ禍が明けつつある今、多めに人を入れているようで、場内はかなりの渋滞になっている。ただ、多少なりとも混雑を緩和するため、絵の脇に掲示されている解説文を、スマホでも読めるようにする工夫がしてあるのは、ナイス。

さらに、満島ひかりと森川智之によるオーディオガイドが素晴らしい。聴きやすい作品解説だけでなく、二人の対談あり、満島ひかりが、三浦大知・SOIL&"PIMP"SESSIONSと共に製作したオリジナルの楽曲ありと、聞き応えのあるコンテンツになっている。

ということで、展示作品は必ずしも私の好みではなかったが、展示の工夫に大いに感心した展覧会だった。


”Shazam! Fury of the Gods”23.3.21

DC Comicsが仕掛けるプロジェクト、DC Extended Universeの新作、"Shazam!"の続編を観てきた。邦題は「シャザム! 神々の怒り」。

深く考えずに楽しむ分には、とてもよく出来た娯楽作だ。4年前の前作から主要登場人物役の俳優は続投している。前作で子供だった主人公達がハイ・ティーンに成長している訳で、それが、良い感じにファミリー映画感を強めている。一方、実力派の俳優が悪役を演じるというのが最近のアメコミ映画の定番だが、本作では、Helen MirrenとLucy Liuが、悪の女神を演じている。Lucy Liuの悪役は想定内だが、御年77歳のHelen Mirrenが弾けた演技を披露しているのには感心。

また、主人公の憧れの対象として言及されるWonder Woman の扱いが楽しい。Gal Gadot嬢ファンにも嬉しい作品だ。

ライバル MCUに大きく差を付けられているDCだが、なまじ大河ドラマ化していない分、自由度が高いのが強みのような気がする。少なくとも、直近のMCU作”Ant-Man and the Wasp: Quantumania”よりも、圧倒的に楽しかった。


”Moonage Daydream”23.3.24

渋谷パルコDavid Bowieのドキュメンタリーを観てきた。邦題は「デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム」。

Brett Morgen監督は、ボウイ財団に保管されている膨大な映像資料を、週に6日、1日あたり15時間見ることに2年を費やし、一人でこの映画の素材を吟味したという。そのため、貴重映像満載である。さらに、音楽プロデュースをTony Viscontiが手掛けている。映画館で聴かれることを踏まえてリマスターされた音楽も、聞き応え、十分だ。

映画は、時系列にDavid Bowieの軌跡を辿る。個人的には、ベルリン時代の話や"Let's Dance"リリース時の毀誉褒貶について描かれたパートが興味深い。また、彼が描いた絵画がまとめて紹介されているのも印象的。改めて、彼が不世出の芸術家だったことを実感する。

ただし、ナレーションや解説文は出てこない。全て、インタビュー映像など、David Bowie自身が語る言葉で進行していく。また、音楽も、ヴィデオ・クリップやライヴ映像を一本丸々流すような使い方では無く、一々、工夫した編集が施されている。そういう面では、上級者向けというか、ある程度、予備知識がある人を対象にした作品と言えそうだ。彼のプライベート面にはほとんど触れず、あくまでもアーティストとしてのDavid Bowieを深掘りする姿勢にも好感が持てる。

個人的には、彼と日本との関わりの中で、阪急電車の写真、「ヤングおー!おー!」で放送されたインタビュー映像、宝焼酎 純のCMなどが画面に登場したのが嬉し懐かしである。

それにしても、つくづく名曲揃いの上、どの時代、どの瞬間を切り取っても、絵になる人だよなぁ。



ちょっと前までは、製作者のメインどころが同年代だったのか、TV番組のBGM選曲が自分好みの事が多かったのですが、最近は、世代交替していると感じることが増えてきました。