IN/OUT (2021.8.8)

勤務先は、8月第一週が夏期休暇。県境を越える外出は控えたものの、映画1回、ライヴ2回、美術館1回、献血1回 & 近所のスーパーマーケットには出かけていました。これまでとは桁違いに感染リスクは高まっているのは重々自覚はしているのですが…。少なくとも、オリンピック観戦のためにステイ・ホームという発想はゼロでしたね。


in最近のIN

"The Lighthouse"21.8.2

Willem DafoeとRobert Pattinsonが主演する(と言うか、実質的な登場人物は、この二人だけ)の映画を観てきた。

1890年代、ニューイングランドの孤島に建つ灯台に、ベテランと新人、二人の灯台守が着任。4週間、外界と閉ざされた状況で管理を行うことになる。理不尽なまでに高圧的なベテラン=Willem Dafoeと、なにか秘密を抱えていそうな新人=Robert Pattinson。二人の関係は初日から最悪。やがて、島を嵐が襲う。

全編、35mmのスタンダードサイズのモノクロフィルムでの撮影。一般的な映画よりも横幅が狭い画面は、舞台となる孤島の閉塞感をさらに高め、モノクロ画面が不穏感を煽る。登場するのはむさ苦しい男二人のみ。とにかく、画力の強い映画で、アカデミー賞の撮影賞にノミネートされたのも納得だ。それに加えて、不気味に響く霧笛の音など、音響もまた、不気味さを醸し出す。

そこで描かれるのは、狂気に駆られていく男達の姿。人魚やクトゥルフ神話に出てきそうな異形のモノ、そして、なぜか攻撃的なカモメ等々、画面に現れるイメージは、現実なのか妄想なのか曖昧なまま、明確な説明も無い。

LovecraftやPoeの小説の悪夢的なイメージをそのまま画面に焼き付けたような映画だ。実際、この映画製作の発端は、Edgar Allan Poeの遺作 ”Lighthouse”を現代に蘇らせようとしたものだという(もっとも、”Lighthouse”は4ページしかない、舞台設定の説明だけで途切れた未完の作品だが)。爽快感や娯楽性とは対極にある、好事家向きの怪作だ(誉めてます)。


「SuSi <山木秀夫 x 渡辺香津美>」@ブルーノート東京21.8.5

ギタリスト 渡辺香津美と、ドラマー 山木秀夫。ジャズ、フュージョン、そしてロック系の幅広いジャンルで活躍し続けるベテラン・ミュージシャン二人による公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。

演奏は完全即興。お互い、白いカンバスに自在に絵を描くために絵の具を持ち寄るという感じで、香津美はエレキからアコースティックまで4本のギターを、山木秀夫は通常のドラムセットの他に、パーカッション類やバラフォン(西アフリカの木琴。バーの下に共鳴用のヒョウタンが付いている。通称「縁側」)を持ち込んでいる。

演奏は、主に山木秀夫が先にリズムを奏で始め、香津美がギターを選び、音を重ねていき、発展していくというスタイル。決め事は、「お互いの音をちゃんと聴く」ことだけで、事前の打ち合わせも殆ど無いらしい。時には、香津美がギター選びとエフェクターのセッティングに迷うなど、即興らしい場面もあるが、演奏の方は、即興とは思えないクオリティ。グイグイ熱くなる演奏に引き込まれる。

また、演奏中に、舞台後方のスクリーンにライヴシーンとイメージ画像をミックスした映像がリアルタイムで投影されていたのも印象的。このような趣向をブルーノート東京で観るのは初めてだ。このところ増えたライヴ配信で、映像処理のノウハウが蓄積されたのだろうか。

ジャンルとしては、フリースタイルジャズとなるのだろうが、その言葉から想起される小難しさは皆無。ベテラン二人の引き出しの多さを、只々堪能する。そんなステージだった。


「新・晴れた日 篠山紀信」@東京都写真美術館21.8.7

1960年代から一線で活躍し続ける写真家、篠山紀信の個展を観に、東京都写真美術館に行ってきた。

「晴れた日」というのは、1974年に雑誌「アサヒグラフ」に連載され、後に写真集として出版された篠山紀信の代表作。今回の展覧会は、3Fの展示室に1960年代から1970年代の作品群 71点、2Fの展示室に1980年代以降の作品群 45点が並ぶ、ボリュームたっぷりの展示。特筆すべきは、篠山紀信自身が、全作品に解説を付けた冊子が入場時に渡されること。60年に及ぶ活動を一堂に集めた展覧会だけに、エッセンスだけのつまみ食いになりそうなところ、彼自身の言葉による解説と共に観ることで、鑑賞の密度がぐっと高まる。会場外では、45分間のインタビュー映像も流されていて、見応えたっぷりの展覧会だ。

男性誌のグラビアなど、芸能寄りのイメージがある篠山紀信だが、こうやって全仕事の軌跡を眺めると、昭和・平成・令和の日本の生々しい映像を切り取り続けてきた写真家であることが良く分かる。個人的には、1970年代の「明星」の表紙写真(懐かしい!)の解説文にぐっと来たのと、2016年の原美術館での「快楽の館」からの一枚に再会できたことが収穫だ。


「川口千里」@ブルーノート東京21.8.8

先日、観戦したブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラのライヴが好印象だったので、ドラマー、川口千里の個人名義のライヴを観に行ってきた。

サポートメンバーは、ベースの櫻井哲夫(元カシオペア)、キーボードの安部潤、ギターの菰口雄矢(元TRIX)。ベースとキーボードは50歳代。ギターは30歳代。そして、川口千里が24歳(と言っても、キャリアは10年以上だが)。

1曲目、1音目から、ドラムスの音のキレと音圧が凄い。オールスター・ジャズ・オーケストラの時の周囲を活かす演奏とは一変。気心の知れたメンバーと共に、気合いの入りまくったプレイだ。「手数姫」の異名通り、圧倒的な音数を叩き出しながら、全ての音がくっきりとした輪郭で響く。つくづく凄いドラマーだ。演奏曲は、彼女のオリジナル・アルバムからのものが多いようだが、私は、初めて聴く曲ばかり。第一印象は分かりやすいロック・フュージョン系の曲調のようで、そこはドラマーの手による作品。複雑なリズムが仕込まれている。

8歳頃から天才と騒がれて来た彼女だが、驕ること無く、実力派ミュージシャンに成長してきたのは、本人の努力と人柄の賜物だろう。それが、このような錚々たるメンバーを従えての単独名義 ブルーノート東京 2daysに結実したのだと思う。今後も、機会を捉えて見続けていきたいミュージシャンだ。



思えば、昨年は、緊急事態宣言中に献血ルームを訪れるのにも、散々、逡巡していた訳で、すっかり宣言馴れしてしまっていると自覚はするのですが、行動の線引きは、相変わらず難しい。