IN/OUT (2021.6.6)

都内のシネコンも、入場人数と終演時刻に制限付きながら、営業再開となりました。ありがたい事ではあるものの、相変わらず、基準が良く分からない…


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「"SAVE LIVE MUSIC III” 上原ひろみ ~ BALLADS 2 ~」@配信21.6.1

コロナ禍に苦しむライヴ業界のためにと、上原ひろみが企画したシリーズ公演「SAVE LIVE MUSIC」。2020年8月以降、2度のシリーズでは、ソロ、弦楽四重奏との共演、タップダンサー 熊谷和徳との共演など、様々なチャレンジが展開されてきた。そして、その第三弾は、矢野顕子との共演と、ソロでのバラード公演がラインナップ。このバラードの最終公演が、80ステージ目になるということからも、彼女のライヴ・ミュージックにかける情熱が伝わってくるし、ブルーノート東京の看板の下には、上原ひろみの表札も掛かっているというジョークも、あながち嘘じゃないかも、という気がしてくる。私は、これまでの各プログラム、全て一回以上は観てきたのだが、最後の「BALLADS 2」は、チケット争奪戦に敗退。受付開始 3分で完売するチケット取得に立ち向かうには、我がネット環境はあまりにも貧弱だったか…

ということで、この最後のプログラムは、ライヴ配信での鑑賞となった。集中力に欠ける私としては、家のPCでは(27インチの4KディスプレイとEclipseのスピーカーを接続しているとは言え)どうしても気が散ってしまい、配信という奴は、あまり好きでは無い。

しかし、このライヴは凄かった。もちろん、ひろみ嬢のライヴが凄いのはいつもの事ではあるが、このステージはまさに神回。全てバラードだが、新曲を含むオリジナル曲だけでなく、「いつか王子様が」などのスタンダード有り、パッヘルベルの「カノン」などのクラシック有りの、鉄板すぎる選曲。いつものパワフルさを抑えたバラード演奏でこそ、彼女の表現力の深みが伝わってくる。

そして、何よりも驚愕したのは、King Crimsonの「Fallen Angel」を演奏したことだ!!! 私は、以前から、彼女の音楽にプログレ魂を感じていたし、彼女自身、King Crimsonを好きなミュージシャンに挙げていた。が、まさか、ライヴで、しかも、私が偏愛するアルバム「Red」収録曲を演ってくれるとは。あの旋律が聞こえてきた時は、腰が抜けるかと思った。その演奏は、この曲を愛し、聴き込んでいることが伝わってくる見事な解釈だ。私にとっては、矢野顕子が2012年のライヴでKate Bushの物真似を披露した時以来の大興奮だ。個人的に好きなものが意外なところで繋がるというのは、実に嬉しい。

結局、配信は好きでは無いと言いながら、翌日のアーカイヴ視聴終了ギリギリまで、「Fallen Angel」と「Haze」(この2曲を続けて演奏というのがまた嬉しい)の2曲を、延々リピート再生していたのである。


”American Utopia”21.6.5

Talking Headsのフロント・マンだったDavid Byrneによるブロードウェイでのショーを、Spike Lee監督が映画にした作品を観てきた。

David Byrneの音楽映画と言えば、1984年の「Stop Making Sense」である。Talking Headsのライヴを、名匠 Jonathan Demme監督がフィルムに収めた傑作。当時のサブカル・キッズの必修科目とも言える映画だった。その後、1991年のTalking Heads解散後も、David Byrneは活発な創作活動を続けているのだが、私は、熱心には追いかけていなかった。しかし、2018年に発表したアルバム「American Utopia」を原案にしたこのショーは、米国で大評判になったということで、営業を再開した都内の映画館へ。

いやはや、予想を遥かに超える素晴らしい映画体験だった。映画自体は、劇場でのライヴ・パフォーマンスを収録しただけに見えるが、まずは、69歳の今も全く衰えていない、パフォーマーとしてのByrneの素晴らしさに驚く。変わらぬ歌声。"Black Lives Matter Movement"を象徴するような歌、Janelle Monáeの「Hell You Talmbout」を採り上げ、米国の地方選挙の平均投票率が20%(そして、投票者の平均年齢は57歳)であることを憂える発言をするなど、政治的メッセージを入れながらも、どこまでも軽妙な語り。身体の切れも以前と変わらず。とりわけ、ギターを持った時のカッコ良さにシビれる。

見事なステージ構成と、鍛錬されたバンド・メンバーのフォーメーション。それを、完璧なカメラ・ワークでフィルムに収めたSpike Leeの手腕も流石だ。映像センスと音楽への深い理解を併せ持った彼の面目躍如。

そして、何よりも印象に残るのは、Byrneのソング・ライターとしての才能だ。この作品では、「American Utopia」収録作だけでなく、Talking Heads時代の曲も含めた全21曲が披露されるが、1曲たりともハズレ無し。

唯一の問題は、映画館で観ていても、1曲終わる毎に拍手と歓声を上げたくなることだ。「Burning Down the House」なんか演奏されたら、立ち上がって、一緒に声を出したくなるに決まっているし、ショーの大団円には、スタンディング・オヴェイションしたくなる。それにしても、David Byrne、まさに才気煥発。良い歳の重ね方をしていると感心。音楽好きには必見の大傑作ライヴ・フィルムだ。


「東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 名曲コンサート」@横須賀芸術劇場21.6.6

高関健指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の公演を観に、横須賀芸術劇場に行ってきた。

本格派のクラシックのコンサートを観ることは滅多にないのだが、この公演では、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」が、ギターに村治佳織を迎えて披露されるということで、それを目当てでの鑑賞である。有名曲だが、私は、Chick Coreaの「Spain」のイントロで流れるフレーズでしか聴いたことが無いことに気づいたのだ。やはり、原典を押さえることは重要である。

本日の演目は、グリーグの組曲「ホルベアの時代から」、「アランフェス協奏曲」、そして、モーツァルトの「交響曲 第41番 ハ長調 K.551 『ジュピター』」の三つ。クラシック初心者にも聴きやすいプログラムなのが助かる。

グリーグの組曲が終わり、ギター演奏用の台が舞台上にセットされ、お目当ての村治香織嬢、登場。彼女のパフォーマンスは、渡辺香津美との共演など、ジャズ系の舞台では何度も観ているが、そのメイン・フィールドであるクラシックの舞台、オーケストラとの共演で観るのは初めてだ。

その「アランフェス協奏曲」。全体は、第1楽章から第3楽章までの三部で構成されていて、「Spain」でお馴染みのフレーズは第2楽章というのも知らなかった。どの楽章も美しい調べだが、第2楽章が最も哀愁を漂わせている。この楽章が一番有名なのは、やっぱり、皆、哀愁が好きなんだろうなぁ。オーケストラの力強い響きの中に入ると、クラシック・ギターの音色の繊細さが際立つのが印象的だ。

村治佳織はアンコールでもう1曲。ギター・ソロで「愛のロマンス(禁じられた遊び)」。あまりにもベタな選曲という気もしたが、誰もが知っているクラッシック・ギターの名曲で比較的短い演奏時間というのが、アンコールにはピッタリなのだろう。そして、この曲も、ザ・哀愁である。

本業での村治香織の繊細なギターを堪能。ただ、全編終了後、観客の拍手・指揮者とコンサートマスターの握手(コロナ禍の今は、肘打ち)・楽団員起立・指揮者退場・楽団員着席・鳴り止まぬ拍手・指揮者再登場・楽団員起立・指揮者退場・さらに拍手・指揮者再々登場… と繰り返されるクラシック・コンサートのお約束には、馴染めないなぁ。



そんな中、7月16日、"Super Star" Rajniの主演最新作、"Darbar"(邦題「ダルバール 復讐人」)が、日本でも、2週間限定ではあるけど公開が決定。これは嬉しい。その頃には、マサラ上映(歓声&鳴り物有りの観客参加型上映)が可能になっていれば、さらに言う事無いのですが。