IN/OUT (2020.9.20)

もはや、異常気象がいつもの状態という気もしてきますが、唯一「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉は生きているなと思う、今日この頃です。


in最近のIN

"SAVE LIVE MUSIC" Hiromi ~Since 2003~@ブルーノート東京20.9.12、16

コロナ禍で苦境が続くライヴ業界。その救済に向けて、上原ひろみがブルーノート東京で16日間32公演、4種のプログラムで特別長期公演を行う。先々々週の“~Spectrum~”、先々週の“~PLACE TO BE~”、先週の“~BALLADS~”に続いて、第四弾プログラム、“~Since 2003~”を観に行ってきた。2003年はひろみ嬢のデビューの年。そして、Blue Note New Yorkで最初の公演を行った年でもある。それから17年間。世界中の”Blue Note”で演奏してきた彼女の集大成。今回の連続公演は、最新アルバム、11年前のアルバム、そしてバラード集と、まさに、「起・承・転」と展開してきた訳で、その「結」を飾るにふさわしいプログラムだ。ということで、このプログラムの初日の1st Setと、最終日の2nd Setを押さえたのである。初日の席は、ピアノと対角線上の隅。遠い席だが全体を俯瞰できるポジションだった。そして、最終日は、彼女の表情がよく見える私にとってベストの角度。一番、気合いを入れてチケット取得に臨んだ公演だっただけに、嬉しい。

両日、セットリストは同じ。初期の彼女の作品で私が最も偏愛する”Haze"で始まる!静かな雰囲気の曲調ながら、音数は非常に多い。それなのに、一音一音がくっきりと綺麗に響く。これだけで感無量だが、そこから、ピアノ・ソロのベスト集という予想を覆し、バンド形式で録音されていた作品も多く並ぶ、超満足のセットだ。

どの曲も、表現力のダイナミックレンジが途方もなく広い。好き放題、自由奔放に弾いている(時には、叩きつけている。あるいは、跳ね回っている)ように見えて、ちゃんと回収される心地良さ。特に、本編ラストの”Dancando No Paraiso”。収録されているデビュー・アルバム ”Another Mind”ではトリオ編成の高速プレイが炸裂しているが、それ以上の迫力をソロ・プレイで繰り出す。会場を煽りまくり、途中には皆が一体となったハンド・クラッピング大会。文句なしに楽しい。

そして、アンコールは、振り切ったアレンジの「上を向いて歩こう」。演奏が終わると、ひろみ嬢はガッツポーズ(カメラ男のような身振り、というのは会場に来た人にしか分からないネタだ)。凄い熱量のプレイを目の当たりにした私も感情を根こそぎ持って行かれて、完全燃焼だ。

ブルーノート東京これが4つめのテイクアウト用ディナーボックスは、ひろみ嬢のリクエストにたっぷり応えた「HIROMI'S FAVORITE BOX」。海老カツサンド、タコのガリシア風魚介のロールキャベツ、ピアノ仕立てのチーズケーキ等々。ロールキャベツの下に中華麺が潜んでいるのが、まさにHIROMI’S FAVORITE。直筆サインの入ったハウスワインのボトルと共に。こちらも大満足だ。


"TENET”20.9.19

Christopher Nolan監督の新作を観てきた。タイトルは「(宗教・哲学・政治などの)原則、信条」の意味だが、もっと重要なのは、この単語が左から読んでも右から読んでも同じということだ。これが、この作品を特徴付ける「両方向から進行する時間の流れ」を象徴しているのだが、カタカナにするとそのニュアンスがなくなってしまうのが残念。

物語は、世界の破滅を防ぐため、主人公が世界を股にかけ活躍するスパイ・アクションだ。ただし、ストーリーがやたらと難解で謎めいている。特に話をややこしくしているのが、エントロピーの減少と時間の逆行がこの作品世界の重要な要素となっていることだ。一つの場面に、逆行する時間の中にいる人物が混在する。さらに、通常の時間の流れで任務を遂行する部隊と逆行する時間の流れの中で行動する部隊が協同して展開する挟撃作戦という、とんでもないアクション・シーンが繰り広げられる。逆行する時間の中では、弾丸は拳銃から発射されるのではなく銃口に吸い込まれ、炎上するガソリンに身を焼かれた登場人物は低体温症になるのだ。

こんな奇想を可視化して、アクション・シーンを作り込んだNolan監督の力量が凄い。CG嫌いで有名な監督だけに、実写に拘った重厚な映像は圧倒的だ。しかし、ストーリーを追おうとすると、あまりにもマニアックな設定で、本来は万人向けの作品ではないと思う。それを超大作として商業映画に乗せてしまうのもまた、Nolan監督の力業だ。

逆行する時間が鍵となっているだけに、全部見終わってから、あのシーンはこういう意味だったのかと分かる事が多く、伏線の塊のような映画とも言える。ということで、私は2回続けて鑑賞して7割程度は理解したつもりだが、まだ腑に落ちない点も多いし、見逃している箇所も多いのだろう。観れば観るほど発見がある、とんでもない情報量が詰め込まれた作品だ。Nolan作品の重さには若干の苦手意識もあるのだが、ハマってしまうと中毒性の高い映画である。あと数回は映画館に通うことになりそうだ。



規制が緩和され、久しぶりに隣の席に人がいる映画館に違和感を覚えてしまいました。もちろん、喜ばしい事ではあるのですが。ただし、政府の決定によれば、定員一杯に観客を入れる条件が、ポップコーンなど食事の禁止(ドリンクのみは可)。映画館側の対応は、飲食付きで50%の収容率を維持するところと、100%の観客を入れる代わりに食事の販売を取りやめるところに分かれ、混乱もあったようです。場内で会食する訳じゃ無いんだから、意味不明の条件という気がしますが…