IN/OUT (2020.9.6)

言葉の持つ力というのは(比喩的な意味ではなく、もっとベタな意味で)強い。インストゥルメンタルの楽曲でも、一度歌詞がついたバージョンを聴いてしまうと、もう、その曲が流れると自動的に歌詞が出てきてしまいます。例えば、大野雄二の「ルパン三世」や伊福部昭の「ゴジラ」。特に、坂本龍一編「デモ・テープ1」に収録された「福岡市ゴジラ」の脳内侵食力は私的には強力すぎ。


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「メルセデス・ベンツ アート・スコープ 2018-2020」@原美術館20.9.5

原美術館日本とドイツで、互いに現代美術のアーティストを派遣・招聘し合って、異文化での生活を体験しながら交流を図るという、メルセデス・ベンツ日本株式会社が支援する活動「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」の最新の成果を展示する展覧会を観に、原美術館に行ってきた。原美術館は、この活動のパートナーになっていて、私は2017年2014年に開催された時も観覧に訪れている。

今回の出品者は、日本から久門剛史、ドイツからHaris Epaminonda。そして、過去の「アート・スコープ」参加作家の中から小泉明郎も招待されている。

入館してすぐの部屋は、Haris Epaminondaの「Untitled #01 b/l」。いかにも現代美術という雰囲気。シンプルながら、情報量が多い。ただし、もう一つの作品、2階で上映されている映像「日本日記」の方は、私にはピンと来なかった。

2階の奥の二部屋は、小泉明郎の「アンティ・ドリーム#1(彫刻のある部屋)」。mp3プレイヤーを渡され(ヘッドフォンを持参するのが吉)、空っぽの展示室へ。耳元に囁き声が聞こえる。初めは、面倒くさいなぁと思ったのだが、徐々に引き込まれる。湧き上がる不安感と僅かな恐怖心。そして、次の展示室へ移動すると、照明効果と新たな囁き声が加わり、さらに感情が揺さぶられる。とても刺激的だ。因みに、小泉明郎は「アンティ・ドリーム #2(祝祭の彫刻)」を発表している。https://www.meirokoizumi.com/anti-dream2dl これは、各自、ダウンロードした音声ファイルを人通りの多い場所で聴くというもの。

1階の一番広い展示室は、久門剛史の「Resume」。裏返されたキャンパスが並ぶ。一見、それだけなのだが、窓から入る光、音なども計算した様々な仕掛けが工夫された空間が創られていて、ここもまた刺激的だ。

ということで、それぞれ、原美術館という空間を巧みに活かした展示になっていて面白かった。観覧は、原則、予約制だが、メンバーは予約不要で好きなときに訪れることが出来るのも有り難い。ただし、カフェは、デザートメニューだけで、食事が提供されないのが残念。


"SAVE LIVE MUSIC" Hiromi ~PLACE TO BE~@ブルーノート東京20.9.05

コロナ禍で苦境が続くライヴ業界。その救済に向けて、上原ひろみがブルーノート東京で16日間32公演、4種のプログラムで特別長期公演を行う。先週の“~Spectrum~”に続いて、第二弾プログラム、“~PLACE TO BE~”を観に行ってきた。今回は、演奏する手元は見えないが、ピアノの屋根からの反射音が綺麗に聞こえる良席。

今回の演目は、2009年のソロ・アルバム ”Place to Be”。ただし、ひろみ嬢はMCで「予習してきた方には申し訳ないのですが、11年前のアルバムなので、今ではまったく違うものになっています。皆さんと一緒に、この日、この場所ならではの、2020年の”Place to Be”を探していきたいと思います」

その言葉通り、自由奔放なアレンジが炸裂。物凄い技術を繰り出しながらも、ピアノという楽器が持つ楽しさを120%引き出すような演奏だ。”Pachelbel's Canon”での、プリペアド・ピアノ的(弦の上に金属片を置いてチェンバロのような音を響かせる)ギミックや、照明さんとの掛け合いを楽しむパートとか、とにかく楽しい。先週の”Spectrum”以上に、ひろみ嬢自身が楽しんでいる感じだ。

アンコール。衣装の上からこの公演のために作られたTシャツを被り、走って再登場したひろみ嬢。アルバム・タイトル曲”Place to Be”。土日の公演は平日よりも開演時刻が早い(平日の2nd Showは20:45開演のところ、土日は20時開演)こともあってか、しっとり・しっかり演奏。最初から最後まで、実に楽しかった。

ブルーノート東京今回のテイクアウト用ディナーボックスは、アルバム・ジャケットからイメージした「~PLACE TO BE~ 白と黒」。イカの身を並べて鍵盤仕立てにしたイカスミのパエリア、白と黒のとんかつ、ライチと黒スグリのマリネ等々、食べ応え十分。ただ、テイクアウトではなく、やはり会場で食べたいところである。



そして、もう1曲。必ず脳内で歌詞が再生されてしまうのが”Pachelbel's Canon”。ひろみ嬢の奔放なアレンジが施されていても、あの旋律を聴くと、どうしても戸川純の「蛹化の女」が脳内で再生されてしまいます…