IN/OUT (2018.12.2)

原美術館が2020年12月末で閉館することが決まりました。1938年に竣工した、元は住宅だった建物の老朽化が理由ということです。小規模ながら、その独特の雰囲気と、興味深い企画展。そして、カフェのレベルの高さ。大好きな美術館で、新しい企画展が始まる度に、週末のランチを兼ねて出かけるのが楽しみでした。あと2年あるとは言え、何とも残念です。


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「新日本製薬 presents SONGS & FRIENDS 小坂忠『ほうろう』」@東京国際フォーラム18.11.26

松任谷由実のコンサートツアーの音楽監督などで知られる音楽プロデューサー武部聡志がプロデュースするコンサート「SONGS & FRIENDS」を観てきた。彼が選ぶ「100年後も聴き続けてほしい名アルバム」を、縁のあるミュージシャンや若い世代のミュージシャンが再現するというコンサートシリーズで、今回採り上げたのは、1975年発売 小坂忠の「ほうろう」。細野晴臣プロデュース。矢野顕子も鈴木顕子名義で参加している、私も愛聴する、まさに名盤である。

そして、このコンサート、出演者が凄い。凄すぎる。小坂忠はもちろん、総合演出も兼ねる松任谷正隆。ティン・パン・アレーから鈴木茂・林立夫・細野晴臣。フォージョーハーフから後藤次利と駒沢裕城、さらに、矢野顕子、高橋幸宏、さかいゆう、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、槇原敬之、Char、荒井由実(敢えての「昔の名前」)、BEGIN、吉田美奈子、尾崎亜美。さらに、バンドとして、ギターの小倉博和、ベースの根岸孝旨、ドラムスの屋敷豪太。

ということで超期待して出かけたのだが、18時開場・19時開演のはずが、18時30分頃会場前に着いたときには、まだ、外に大行列が出来ている。準備が遅れたようで、一般席の入場が始まったのが18時40分頃(VIP席のチケットを持っている人は、もっと早く入場は出来たが、客席には入れず、ロビーで待たされていたようだ)。ちょっと、萎える。結局、20分以上押して、コンサート開始。

ゴスペルのコーラス、娘さんのAsiah(エイジア)の歌唱の後、45年ぶりに再決済した小坂忠とフォージョーハーフ(松任谷正隆、林立夫、後藤次利、駒沢裕城)で、当時の曲を再現。さらに、高橋幸宏も参加。

セットチェンジ後は、ゲストが自分たちのアレンジで小坂忠の曲を披露。さかいゆう「氷雨月のスケッチ」、田島貴男「流星都市」、槇原敬之「ふうらい坊」と「機関車」、Char「Hot or Cold」などなど。バックバンドは、武部聡志、小倉博和、根岸孝旨、屋敷豪太。

続いては、アコースティック・コーナー。荒井由実のピアノと共に「みちくさ」。Begin、高橋幸宏と続き、一番のお目当て、矢野顕子登場。彼女が提供した「つるべ糸」と「I believe in you」(小坂氏の2001年のアルバム「PEOPLE」の収録曲)の2曲。矢野顕子はピアノ伴奏に撤していたのだが、これが素晴らしかった。いつも以上に繊細なタッチで小坂忠のヴォーカルを引き立てる。小坂忠も、それに応える素晴らしい歌唱。ひいき目じゃ無くて、二人だけで東京国際フォーラム ホールA全体を包み込む美しい世界を構築していたと思う。

そして、再び、セットチェンジ。松任谷正隆、武部聡志、鈴木茂、林立夫、小原礼をバックに、小坂忠が「ほうろう」収録曲を歌う。「流星都市」、「 氷雨月のスケッチ」、ここから、バックコーラスに吉田美奈子も参加して「しらけちまうぜ」、「機関車(尾崎亜美とデュエット)」、満を持して、という感じで細野晴臣が登場して「ふうらい坊」、「ほうろう」。本編ラストはゴスペルクワイアと共に「Jesus Loves Me~Amazing Grace」。このメンバーの演奏が上手いのは当然として、驚くべきは小坂忠のヴォーカルだ。昨年、ステージ4の大腸がん・胃がん、さらに胆嚢炎を患い、三つつの消化器の切除・摘出手術を受けてから復活した70歳とは思えない歌唱力。そして、さらに驚くべきは、バックコーラスに撤した吉田美奈子の声量と声の艶だ。見所満載の今日のコンサートだが、私にとっては、表に出ないのに圧倒的な存在感を放った矢野顕子と吉田美奈子。この二人のパフォーマンスを観ることが出来たのが最大の喜びだった。

この時点で、10時10分を過ぎている。所用があった私は、アンコールの拍手を背に、退場。アンコールでは全員がステージに上がり「ゆうがたラブ」を演奏したらしい。時間通りに開演していたらなぁ…


"KING CRIMSON UNCERTAIN TIMES JAPAN TOUR 2018"@オーチャードホール18.11.28

King Crimsonのライヴを観に、オーチャードホールに行ってきた。その凄さに大衝撃を受けた2015年の来日公演以来である。

例によっての、トリプル・ドラム編成。舞台前列にドラマー三人、Pat Mastelotto、Jeremy Stacey、Gavin Harrisonが並ぶ。後列、一段高くなったところに、向かって左から、Mel Collins(Saxophone, Flute)、Tony Levin(Bass, Stick)、Bill Rieflin(Mellotron, etc.)、Jakko Jakszyk(Guitar, Vocal)、そして、一番右に(いつものように、椅子に腰掛けた)Robert Fripp。2015年の公演ではドラムを叩いていたBill Rieflinは、一時、休暇を取っていたそうで、その間に加入したJeremy Staceyがドラマーに収まり、Billの方はメロトロンに回った、という布陣のようだ。

今回の来日公演のお楽しみは、毎回、変わるセットリストだ。せいぜい2~3曲を入れ替える程度かと思っていたが、他の日の情報を見てみると、演奏曲も演奏順も大幅に変えている。しかも、その日の演奏曲は、当日の午後1時にRobert Frippが(絶対権限で)決めるらしい。それで、あの複雑なアンサンブルを奏でられるのだから、メンバーの技量、恐るべしである。さらに嬉しいことに、他公演と比べても、この日のセットリストは私にとってベストと思える物だったのだ。

1曲目から、"Larks' Tongues in Aspic Part Ⅰ"のヘビーな演奏。2曲目の"Peace"に続いて、彼らのアルバムの中で私が最も偏愛する"Red"から、"One More Red Nightmare"と"Red"。非常に嬉しい。さらに、"Cadence and Cascade"、"Larks' Tongues in Aspic Part IV"、"The Letters"、"Sailor's Tale"。そして、"Moonchild"と"The Court of the Crimson King"が、かなりアルバム・アレンジに近い構成で演奏される。1969年の「宮殿」の名曲を、2018年に先鋭的な編成で聴けるとは!会場も大いに盛り上がったので、ここで第一部終了かと思いきや、さらに"Radical Action"、"Meltdown"、"Radical Action II"、"Larks' Tongues in Aspic Part V"とたっぷり演奏。19時開演で、第一部の終了は20時30分。

20分間の休憩を挟んで第二部。"Discipline"、"Neurotica"。"Epitaph"。"Easy Money"、"Indiscipline"と名曲がつるべ打ち。その中でも、やはり「宮殿」収録の"Epitaph"は良いなぁと思っていたら、本編ラストは"Red"収録の"Starless"。この演奏が本当にカッコ良かった。トリプル・ドラムの絡みも、Fripp卿のギターも素晴らしいし、やはり、Mel Collinsの存在が大きい。

アンコールは"21st Century Schizoid Man"で大盛り上がり。King Crimsonとは、結局、Robert Frippがやりたい音楽をやるということで一貫しているバンドで、時代ごとにサウンドは大きく違う。しかし、このトリプル・ドラム編成のKing Crimsonは、初期の抒情的な曲から、メタル・クリムゾン期のハードな曲、さらにDiscipline期のテクニカルな曲、 ダブル・トリオ期のヘビーな曲、全てを見事に自分たちのサウンドとして演奏しきっている。その演奏力にただただ圧倒された3時間だった。そして、「宮殿」から4曲、"Red"から3曲という私好みのセットリストも堪らない。

オーチャードホールアンコールが終わると、Tony Levinがカメラを取り出し、会場を撮影。と同時に、観客にも写真撮影が許されるという、恒例の風景が展開し、22時。全編終了。もう、お腹一杯。大満足のライヴ体験だった



さらに、馴染みの飲食店のソムリエールも他の店に転勤してしまい、土曜の夜に何を飲んだら良いのか途方に暮れる今日この頃、矢野顕子の名曲「変わるし」が沁みます。