IN/OUT (2018.9.30)

またもや、週末に日本を縦断する進路の台風。大きな被害が無く、後から「凄い雨と風で昨日は大変だったねぇ」と笑って話せるぐらいの台風だと、それなりの風情もあると思うのですが、自然現象は手加減という事を知らないのが困ったところです。


in最近のIN

"Crazy Rich Asians"18.9.29

シンガポールを舞台にした恋愛劇を観てきた。邦題は、実はこの映画の一番の肝である"Asians"が抜け、「クレイジー・リッチ!」。日本は、人種・国籍・移民・アイデンティティといったことに鈍感だということが伝わってくる邦題で、大多数の日本人には、この映画が何故、米国で大ヒットしているのかピンと来ないのかもしれない。

ニューヨークの大学で若くして教授を務める中国系のヒロインが、恋人の実家、シンガポールを訪れる。彼女には隠していたが、実は、彼はとんでもないお金持ちの御曹司。ヒロインは、住む世界が全く違う彼の親族に圧倒され、彼の母親には認めてもらえない。これは、米国で自らの情熱を信じて生きている中国系アメリカ人と、アジアでその文化を守りながら超金持ち生活を送る中国人の相克の物語だ。

シンガポールの富裕層の度を超した金満ぶりは、私が駐在生活を終えた2005年以降に、より目立つようになった思うが、それでも、ここに描かれたクレイジー・リッチぶりには説得力があると感じる。舞台が米国だったら絵空事になってしまっただろう。また、この説得力には、この映画に集結したアジア系のスタッフと出演者が大きく寄与していると思う。原作小説の作者は、自らがキャスティングに関わることを条件に映画化を許可したということだ。白人女性を主役にしようというプロデューサーもいたらしいが、もしそうなっていたら、薄っぺらな恋愛映画に堕していたことだろう。

ストーリー展開もテンポ良く、実にそつなくまとまった映画だ。恋愛映画にはあまり興味が無く、シンガポールが舞台ということだけで観に行ったのだが、非常に楽しむことができた。惜しむらくは、主役の二人がイマイチ魅力的じゃないことか(その辺も狙ったキャスティングかもしれないが…)。一方で、彼の母親役のMichelle Yeoh姐さんは、貫禄のクールビューティーぶり。終始、物静かな佇まいながら滲み出る迫力が素晴らしい。そして、若手では、主人公の親友役を演じたAwkwafinaが実に良い味をだして、ヒロインを食っている。彼女は、"Ocean's Eight"のスリ役でも目立っていたが、今後もさらなる活躍が期待できそうだ。

唯一の問題は、麻雀が重要な場面で用いられるのだが、私がそのルールに疎いことだ。東南西北の座席順や、どの牌をポンして、どのような役を上がるかなどに、実は深い意味が込められていたことを、映画鑑賞後に調べて理解することができた。もちろん、鑑賞中も多少の想像は出来るのだが、これは不親切だと感じていた。しかし、映画の中で麻雀のルールを説明しないのは、他のハリウッド映画でポーカーのシーンが出てきても、わざわざルール説明しないのと同じだという製作陣の信念があったという話しを聞き、それはそれで筋が通っていると改めて感心。


"A Quiet Place"18.9.29

Emily BluntとJohn Krasinskiの夫婦が共演し、John Kransinski自身が監督したホラー映画を観てきた。

90分に凝縮された物語は、物音を立てたら怪物に食い殺されるという一発アイディア。メキシコに落ちた隕石から、視覚はなく、代わりに聴覚が極めて発達した怪物が世界中に蔓延。人類の大半はそいつらに食い殺されてしまったという設定だ。主人公達の一家は、田舎の農場で、音を立てないように工夫を凝らした生活でサバイバルしている。

音を立てたら殺されるというのは、想像以上の極限状態だ。棚から落ちそうな物が画面に映ればハラハラし、登場人物が怪我をしても叫び声を我慢する姿に、こちらも歯を食いしばる。もちろん、セリフも最小限。聴覚障害者の娘を持つ主人公一家は、手話を使ってコミュニケーションを取る(娘役は、"Wonderstruck"にも出演したMillicent Simmonds。彼女自身が聴覚障害を持っている)。結果、画面には常に異様なテンションがみなぎっている。さらに、Emily Blunt演じる母親は妊娠しており、出産を控えている。出産時は大丈夫なのか? 赤ちゃんの泣き声をどうするのか?

また、サバイバル生活の中で家族が負ったトラウマと、そこからの再生を、最小限のセリフの中で描くストーリーも上手い。アイディアは一発だが、丁寧な映画作りだと感心する。

映画に登場するのは、ほぼ、この家族だけ。果たして人類に未来があるのか、大局的なところは分からない。が、そんなのは野暮なことだと言わんばかりのキメキメのラストシーンは、B級スピリットに満ちたカッコ良さだ。



この辺りでは、今回も通勤時間帯には影響が無さそうです。今年は、このパターンが多く、有り難いことです。