IN/OUT (2018.4.8)

新年度が始動。職場の平均年齢も少し下がり、多少は気合いも入る今日この頃です。


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"Dangal"18.4.7

Aamir Khan主演のインド映画を観てきた。邦題は「ダンガル きっと、つよくなる」。Aamir Khanのヒット作"3 Idiots"の邦題「きっと、うまくいく」に掛けたタイトルだろうが、映画としては"Dangal"の方が大ヒット。インド映画の世界興収一位の成績を叩き出した作品である。

大ヒットした理由の一つは、この映画の主人公が実在の有名人、レスリングの姉妹選手だという点にあるだろう。ただし、この姉妹とAamir Khan演じる父親は実在の人物に基づいているが、その他の登場人物は、物語上の架空の設定である(映画の冒頭で、その旨の断り書きは表示されるのだが、インドのナショナルチームのコーチが悪者に描かれていたりするのは大丈夫かな…と心配になる)。

この姉妹、GeetaとBabitaは伊調馨や吉田沙保里とも対戦記録があるとは言え、日本での知名度は低いだろう。では、日本人にとっては面白くないかと言えば、全くそんなことはなく、非常に良く出来た、奥の深いスポ根映画に仕上がっている。

Aamir Khanが演じるのは、レスリングの元インド・チャンピオン。息子に国際大会での金メダルの夢を託そうと熱望していたのだが、生まれてくるのは女の子ばかり。夢を諦めようとしたのだが、ある日、長女と次女が、悪口を言った男の子をボコボコにしたのを見て、この姉妹に夢をかけることを決意。トレーニングを始める。

このトレーニングが厳しい。泣いて嫌がる女の子を坊主刈りにしてしまうなど、一歩間違えればDV騒動になりそうなところだが、ポップなインド音楽を背景に、姉妹に頑張れと素直に声を掛けたくなる軽快な特訓シーンに仕立てた演出が巧みだ。

さらに、成長した姉妹の試合シーンが熱い。インドのレスリングと言えば、"Sultan"で、Salman Khanが見応えのある試合シーンを見せてくれたのが記憶に新しいが、この作品の女子アマチュアレスリングの描き方も実によく出来ていて、実話なんだから勝負が分かっているような試合でもハラハラさせる見事な演出が素晴らしい。

頑固おやじに扮したAamir Khanは、昔マッチョだったスポーツ選手が年を取るとなりがちなでっぷり姿を、特殊効果に頼らず、実際に27Kg増量して演じたという、相変わらずの役者馬鹿ぶりで、魅せてくれる(その後、5ヶ月で27Kg、ちゃんと体重を落としたそうだ!)。姉妹役の女優さんも、みっちりレスリングの練習を重ねて撮影に臨んだそうで、画面に迫力がある。

インドという国は、発展を続ける一方で、いまだに古い慣習に縛られたところも多く、(ごく一部の都市部を除いて)女性の地位の低さも大きな社会的問題の一つになっている。女性は幼い頃から家事をやり、14歳になれば結婚し、後は子供を育てるだけという価値観がまだまだ根強いインドで、娘達に子供の頃から家事ではなくトレーニングを積ませ、国際的な選手に育て上げた父親の熱い信念と、そんな父に応えた姉妹の物語が、インドの人達、特に女性達に大きな希望と勇気をもたらしたのは十分に想像が付く。しかし、それだけに止まらず、インド以外の人達にも熱いメッセージを伝える普遍的なパワーを持った作品だ。


"Wonderstruck"18.4.7

Todd Haynes監督の新作を観てきた。

ニューヨークを舞台に、二つの時代の物語が交互に語られる構成になっている。一つは、1927年。聴覚障害を持つ少女が、有名女優に会うため、一人、ニューヨークに向かう。このパートは、モノクロ画面の無声映画のフォーマットで撮影されている。当時の映画のフォーマットに合わせてあるのと同時に、聴覚障害の主人公にとっての世界も表現しているのだろう。

もう一つの物語は、1977年。交通事故で母を亡くした少年が、記憶にない実の父を探しに、一人、ニューヨークに向かう。このパートはカラー映像だが、古いフィルムを思わせる色調に処理されている。また、この少年も、落雷による衝撃で聴力を失ってしまい、セリフは少ない。

この二つの物語が、ニューヨークのアメリカ自然史博物館で交錯し、やがて、小さな奇跡とも言える結末を迎えるという、非常に技巧的な作りの作品である。決して、大袈裟な奇跡では無いし、二つの物語はこのように繋がるのだろうなというのも、ある程度予測できるところもある。あまりにも技巧的すぎて、特に前半は眠くなる展開でもある。しかし、見終わってみると、なんとも優しいパノラマの小宇宙での出来事を体験したような、繊細な印象が深く染みこむ映画だ。

また、音楽のセンスが私好みなのも、嬉しい。David Bowieの"Space Oddity"、Sweetの"Fox on the Run"、Fripp & Enoの"Evening Star"、そして、Deodatoの"Also Sprach Zarathustra"(「ツァラトゥストラはかく語りき」をデオダートがクロスオーバー風にアレンジしたもの)など、1977年当時の名曲が、印象的かつ効果的に使われている。さらに、エンド・クレジットで流れるのが、The Langley Schools Music Projectによる、子供達の合唱版の"Space Oddity"(Bowie自身が絶賛したバージョンなのだ)というのが、この映画の余韻と相まって、泣かせるのである。



職場の平均年齢は下がっても、自分の実年齢は上がる一方ということは、乖離幅が拡がっているとも言えるわけで、まあ、色々と大変でもありますな…