IN/OUT (2017.10.29) |
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最近の若い人は、TVの地上波よりもネット配信の動画を見る時間の方が長いという報道に触れると、自分が、すっかり世の中の流れについていけないタイプになってしまったと痛感します。 もちろん、一口にネット動画と言っても色々ある訳で、例えば、好きなミュージシャンの古いライヴ映像などを見つけると(著作権的にはグレーであっても)有り難いと思うこともありますが、いわゆる「ユーチューバー」的な動画には興味なし。また、素人さんがアップしている動画のBGMに使われているフリーの音楽素材って、聴いていてイライラするものが多い。などと言っていると、いよいよ時代について行けないのか…。まぁ、ついていかなくても良いか… 最近のIN"Sultan" (17.10.27)今週も、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催されていたインディアン・フィルム・フェスティバルの上映作品の一つを観てきた。タイトルは「スルターン」。今回の映画祭で一押しと言われていた作品だが、金曜日の夜、フェスティバルの最終日の最終上映で、ようやく観ることができた。その前評判に偽りなし。これぞ、ボリウッド大作!文句なしの傑作だ。 主演は、ボリウッドきっての肉体派 Salman Khan。彼が演じる主人公の名前がSultan。ハリヤナ州の田舎町に暮らす冴えない中年男性だが、実は、かつてインドで英雄視されたレスラーだったのだ。物語は、彼の栄光と挫折、そして、再起を賭けて総合格闘技のリングに戻る姿を描く。 この映画の素晴らしさの第一は、主演の二人だ。Salman Khanは、現役レスラーのマッチョな肉体から、挫折後の腹の出た中年男の姿まで、見事な役作り。試合のシーンの迫力も満点。一方、ヒロインを演じるのは、Anushka Sharma。"PK"でも好演していた女優さんだ。今作では、気の強い女子レスラーに扮しているが、彼女だったら、この気の強さも許せてしまうキュートさだ。そして、この二人によるドラマ要素が、泣けるのだ。Sultanが戦う相手は、人生そのものなのである。主演の二人に加え、主人公の弟分や、トレーナー、スポンサーなど脇役陣が皆、良い味を出しているのも高ポイント。 この映画の素晴らしさ、その二は、燃えるスポ根要素。ロッキー以来、この手の映画のお約束とも言えるトレーニング・シーン(科学的なマシンなど使わない、根性入ったハードワーク)で燃え、映画前半のレスリングの試合で燃え、後半の総合格闘技戦でさらに燃える。どの試合も、単調にならず、きっちり盛り上げる演出が冴えている。 そして、何よりも素晴らしいのが、歌と踊りだ。最近は、ミュージカル要素が控え目なボリウッド作品も増えてきたが、この映画は、170分の上映時間のかなりの部分を華麗な歌と踊りに充てている。インド映画が苦手な人には、長すぎると言われそうだが、私には実に嬉しい。ここでも、Salman KhanとAnushka Sharmaの魅力が炸裂。 まさに、泣けて、燃えて、歌と踊りも堪能できる感動大作。しかも、これだけの要素を詰め込みながら、演出に一切の緩み無し(歌と踊りのシーンが長いという苦情は、私が受け付けない)。これぞ、インド映画という魅力に溢れた大傑作だった。今年のインディアン・フィルム・フェスティバルでは、16本の作品が上映され、私が観ることが出来たのは4本だけだったが、その中では突出して素晴らしい作品だ。多くの人に勧めたいのだが、映画祭はこの日で終了だったのが悔やまれる。 "Blade Runner 2049" (17.10.28)Ridley Scott監督によるSF映画の金字塔、"Blade Runner"の続編を観てきた。今作では、Ridely Scottはプロデュースに回り、監督は"Arrival"で、そのSFセンスを見せてくれたDenis Villeneuve。 SF映画の金字塔と書いたが、実のところ、Ridley Scottによる"Blade Runner"は、科学面では粗の目立つ作品だと思っている。アクション映画としても中途半端。Dickの原作からもかけ離れている。しかし、ケバケバしいネオンサインに彩られ、酸性雨が降り続けるダークな大都市という、その後のSF映画に決定的な影響を与えたビジュアル、都市と同じくSyd Meadがデザインを手掛けたメカニック、Vangelisによる音楽、レプリカント役 Rutger Hauerの存在感などが、Ridley Scottの映像美と掛け合わされた結果、カルト的な人気を博す作品になったのだ。 その35年ぶりとなる続編。ハードルは高かったと思うが、実に良く出来ている。映画の中では前作(2019年が舞台)から30年後。前作と同じような都市を舞台にしたら、今や既視感が強すぎてしらけそうなところ、今作では、環境破壊で荒廃した都市周辺部を強調するのが、まずは巧みだ。登場するガジェット類も、前作以上に科学考証がしっかりしていると思う。ストーリーも、レプリカント=人造人間に魂はあるのか、という問題をしっかりと描ききり、伏線を見事に回収するラストがお見事。Hans Zimmerらによる音楽は、Vangelisが好きな人にも受け容れられるクオリティ(どこかで、Vangelisの音楽も使ってもらいたかったが…)。どのシーンを取っても、絵画のように計算され尽くした映像美も素晴らしい。"Blade Runner"を好きな人が続編に望む要素を、ほぼ全て、見事に取り入れ、活かしている。 ということで、手放しで誉めたいところではあるのだが、演出のリズムが私には合わなかった。全てのカットが、長すぎる。テンポ良く切り詰めれば、2時間で十分と思われる内容を、思わせぶりなカット割りで、延々164分に引き延ばすのは、眠けを誘うだけだと思う。ほぼ同じ上映時間の"Sultan"が、その間に、スポ根・ロマンス・家族愛・歌とダンスなどなどの要素をぎっしり詰め込んできたのに対し、こちらは、Ryan Goslingによるレプリカント地獄巡りだけだからなぁ… "Get Out" (17.10.28)製作費5百万ドルの低予算作ながら、世界興収2億5千万ドル以上を叩き出しているという、スリラー映画を観てきた。低予算ということは、監督も俳優も、有名どころは集まっていないし、特撮に凝る事もできない。それでも大ヒットしたということは、アイディア一発が弾けているということだ。 主人公は黒人のカメラマン。最近付きあい始めた白人の彼女の実家を初めて訪れる。黒人の彼を温かく迎え入れてくれる実家の人々だが、家には黒人の使用人がいるという、一昔前の人種差別主義者的な生活を送っている。しかも、その黒人の使用人が、主人公にはなぜか冷ややかな態度を取る。何かがおかしい… この、何かがおかしい感覚が、実に不気味。さらに、ここから物語は、観客の予想もしなかった方向へ転がり始める。一瞬も気の抜けない、見事なサスペンス。 この手のスリラーだと、変に勿体付けて、なんだかモヤモヤ感が残るような描き方になる作品も多いが、本作は、最後にスッキリと謎が解明されるところが有り難い。特に、不気味な黒人の使用人の正体には、唸ってしまった。映画の早い段階から、様々な伏線が張られていたのだ。 いまいち、地味な印象かもしれないが、これは広くお勧めできる映画だと思う。が、極私的には、この映画の肝は、主人公が使っているスマートフォンが、Windows Phone(恐らく、私の愛機の色違いモデル)という事だ。Windows Phoneだって、立派にスマートフォンとして機能している事を、私としては強調したい。ただし、このスマートフォンは映画の中で重要な小道具になっているのだが、特徴的なタイル・インターフェイスは映らない。うーん、Microsoftに協力してもらって映画に使ったのは良いが(主人公がSurfaceを使うシーンもある)、AndroidともiPhoneとも違う画面を映すと、観客に違和感を持たれると思ったのかなぁ… "Blade Runner 2049"は、評論家の評価も高く、米国では初登場一位を飾ったのですが、その後は、事前の予想ほど興行収入は伸びなかったようです(私は、十分稼いでると思うけど…)。結果、Ryan GoslingとHarrison Fordを起用してこの程度では、もはや、映画館で観る映画は終わった、という文脈で、ネット配信への変革の象徴として、この作品が引き合いに出されているとのこと。 無駄に大金を投じただけの作品がネットを主戦場とし、低予算でも良質な作品は映画館で上映され続けるようになれば、文句は無い、と言うか、ウェルカムなのですが、どうなっていくんでしょうかね? |