IN/OUT (2017.5.21) |
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普段、鳴ることの滅多に無い固定電話に着信有り。取ってみると、相手はコンピューター音声による、隣の区の世論調査でした。「区民じゃ無い場合は、電話をお切りください」と無表情に言われてしまいましたが、なんだか変な感じです。まあ、行政にも、その電話番号が何区の居住者のものか分からないというのは、個人情報が守られているということなのでしょうね。 最近のIN"Arrival" (17.5.20)Ted Chiangの傑作SF短編 "Story of Your Life" =「あなたの人生の物語」の映画化作品を観てきた。原題自体が"Arrival"に改変さているが(原作が持つテーマからやや離れ、ファースト・コンタクトに特化した脚色を施したせいだろうか)、邦題はさらに改悪され「メッセージ」。原作は、現代SF好きに知らない人はいないであろう有名作なのだから、そのまま「あなたの人生の物語」を邦題にしても良かったんじゃないかな。 原作は、7本脚の異星人=ヘプタポッドとのファースト・コンタクトに臨んだ言語学者の主人公が、人類とは全く異なる思考形態を持つ異星人の言語を習得することにより、人類とは別次元の知見を得ながらも、定められた自分の人生を生きていく姿を描いた小説で、情緒的ではあるが、多分に、思考実験的な作品だと思う。ハリウッド映画化にあたり、(いささか、浮世離れした)原作から離れ、もっと分かりやすい国家間の軍事的対立を取り入れたのは、賛否両論あるだろうが、商業映画としては仕方ないところだろう。むしろ、それによって、原作に無い深味が出ているとも言える。 ただ、私が、原作で最も刺激的だと思っている「フェルマーの最小時間の原理」に関する描写が、映画ではバッサリ切られているのは残念。これが説明されないと、主人公がヘプタポッドの言語から得た新しいビジョンが説明しきれないと思う。また、ヘプタポッドの造形も、いかにも現代SFらしく、既知の生物からかけ離れた姿(それが、彼らの思考形態や言語に反映している)を提示した原作から退行し、地球上のある種の生物に似た姿になってしまったのも残念だ。 原作好きの人が最も気になるであろう、ヘプタポッドが用いる「表義文字」の映像化は、なるほどな、と思うものの、アルファベット文化圏の人から見た「漢字」という印象が強く、ちょっと違うかな。もっと、曼荼羅のような図像にしてもらいたかった。 ということで、ハードSFをハリウッド映画化する際の難しさをよく示した作品だと思うが、一方で、原作の挿話の多くを活かし、丁寧に作られているのも確かだ。むしろ、映像化の限界を自覚しながら、その枠内で作家性を存分に発揮したDenis Villeneuve監督の手腕に目を見張る映画だと思う。 "Mr. Right" (17.5.21)Anna Kendrick主演の映画を観てきた。男運に恵まれない主人公が、ついに出会った理想の男性を意味する原題だが、確かに分かりづらいかもしれない。で、付けられた邦題は「バッド・バディ! 私と彼の暗殺デート」。 Anna Kendrickが演じるのは、ろくでもない男に振られては、深酒をしてルームメイトに当たり散らし、時には、ネコ耳のカチューシャを付けて平気で外を歩いたりする、ちょっとイタい女性。そんな彼女が巡り会った理想の男性は、世界中の同業者から命を狙われている凄腕の殺し屋。お互いに一目惚れした二人だが、付きあう内に、彼女も秘められた殺し屋の才能を覚醒させていく、というコメディ。 この、かなり変わった主人公に、キュートではあるが「ゴージャスなハリウッド美人女優」とは言い難いAnna Kendrickが、ピッタリ。"The Accountant"でも、ヒロインなのに、どこかウザい経理女性を演じていたが、彼女は、イタくてウザい(けど魅力有る)ヒロイン、という新境地を開拓していると思う。 荒唐無稽で、リアリティを期待しては駄目な映画だし、深味も皆無だが、95分間、能天気に楽しむには文句なし。Saint MotelやMaty Noyesらを起用した軽快なサウンドトラックも、結構、好きだ。 Webによるアンケートは、ランダムに選ばれた回答者ではなく、そのアンケートに自発的に回答したという時点で、何らかのバイアスが掛かった回答者群になっているわけで、信用できないと思っています。しかし、無秩序に選んだ電話番号に掛けて回答してもらうという方法も、ちょっと前までは信頼性が高かったものの、今では、「いまだに固定電話を使っている」という時点で、回答者にある種の偏りが生じてしまうのかもしれないと愚考する今日この頃です。 |