IN/OUT (2017.10.1)

例年より、ちょっと遅れて、初秋の矢野顕子強化月間開催中な訳ですが、いよいよ、そのメイン・イベント、ブルーノート東京での公演が始まりました。そのブルーノート東京では、地下に降りる階段や待合ロビーを、何度目かの改装中でした。どうも、その改装の方向性に、「待合の時間にも、なんとかお金を使わせよう」という魂胆が透けて見えるようで、何だかなぁと感じる、今日この頃です。


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"Hidden Figures"17.9.30

米ソ冷戦下、1960年代の米国の宇宙開発、マーキュリー計画の舞台裏を描いた映画を観てきた。タイトルは、歴史の裏に隠されたFigures(「数字」と「人物」のダブル・ミーニング)を意味しているのだが、邦題は「ドリーム」。この邦題を巡っては、ちょっとした騒動があり(当初は「ドリーム 私たちのアポロ計画」。描かれているのはアポロ計画じゃ無くて、その前身のマーキュリー計画なのに!)、結局、これに落ち着いたという事だが、史上最悪レベルの馬鹿邦題であることに違いは無い。

まだ、PCは存在せず、電卓と呼べるような小型の卓上計算機すら存在しなかった当時、宇宙飛行のために必要な複雑な計算は、優秀な人を大量に集めた人海戦術でこなしていた。主人公達は、そうした人間コンピューターとしてNASAで働く三人の黒人女性。特に、中心となるKatherine Johnson(演じるのは Taraji P. Henson )は、子供の頃から天才的な数学の能力を示してきたのだが、まだまだ、黒人差別も女性蔑視も大っぴらに行われていた時代。先端的な集団であるはずのNASAでさえ、彼女達が働くのは、古びたビルの地下室。一方、白人の技術者達は、綺麗なオフィスで働いているという分離主義が、当たり前の事となっている。その能力から、白人達の職場で働くことになったKatherineだが、そのビルに有色人種用のトイレが無い。彼女は、勤務時間中、手洗いに行くだけで、800m離れた旧職場にある有色人種用トイレまで走らなければならないのだ。

しかし、映画は、人種差別撤廃のようなメッセージを前面に出すことはない。彼女達の誇り高さ、強さ、軽やかさが滲み出るエピソードをテンポ良く積み上げていく。監督は"St. Vincent"のTheodore Melfi。こういう描き方、上手いなぁと思う。

本人は人種的偏見は持っていないと思い込んでいる白人上司を演じたKirsten Dunstの姿は、もしかしたら今でもこういう人が(私も含めて、かもしれない)多数派じゃないのかと思わせる説得力がある。一方で、本当に優秀な人というのは、肌の色や性別に偏見を持たず、相手の能力と人間性だけを見抜き、リスペクトすべき人に対しては、敬意と信頼を寄せることが出来るのだ。

そういう真に優秀な人を体現しているのが、Kevin Costnerが演じる技術者組織のトップ、そして、米国人初の地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士John Glenn(演じるのは Glen Powell)だ。主人公の黒人女性達だけでなく、この二人の白人男性のカッコ良さも、映画の見所の一つだろう。

もちろん、色々と史実を脚色したり美化しているところも有るとは思うのだが、見終わった後には、清々しさしか残らない。そういう、良質の作品だった。



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"Planetarium"17.10.1

Natalie Portmanと、Lily-Rose Depp(Vanessa ParadisとJohnny Deppの娘さん)が共演した、フランス映画を観てきた。

舞台は、1930年代後半のパリ。主演の二人は、米国からやってきた降霊術を行う姉妹という設定。なので、映画の中の台詞は、姉妹同士が喋るときは英語だし、フランス人との会話はフランス語。日本だと、どちらの台詞にも字幕が出るので問題ないが、フランスや米国で公開されたときは、それぞれ、フランス語字幕や英語字幕が出たのだろうか? 出演者、特に才媛の誉れ高いNatalie Portmanは、二つの言語を、まるで意識していないかのように使いこなしている。

彼女らの降霊会に感銘を受けた映画プロデューサーが、二人を自宅に住まわせ、本物の霊をフィルムに収めようとする。一方、Natalie Portman演じる姉は、その美貌を買われ、女優に開眼していく。ということで、物語は進んでいくのだが、正直、眠い。ストーリーに抑揚が無いし、美術は凝っていると思うが、映像もあまり印象的では無い。

降霊術を行っているシーンにしても、その撮り方は、良く言えば抑制が効いている。派手な超常現象は何も起こらず、降霊会に参加している人の表情の変化から「降霊会の場に呼び出されてきた何か」を、観客が想像するという演出だ。これこそが、この映画のテーマに通じる重要な要素なんだと思うが、ちょっと、観客のイマジネーションに丸投げし過ぎだと思う。実験映画じゃ無くて、商業映画なんだから。

話題となっている主演二人は、もちろん綺麗だ。ただ、Natalie Portmanの笑い声が、あまりお上品に響かないタイプというのが気になってしまった…。好きな女優さんではあるのだが。

観賞したのが、1日=映画サービスデイで、料金が安かったので被害()は小さかったが、久々に、全く私の感性とは合わない映画だった。



老舗と言われるポジションを目指しているのだろうから、もっと、無骨に、開店当時のままの雰囲気を保つ方向の方が、箔が付くと思うのですけどねぇ。