IN/OUT (2017.8.20)

「ちょっと前」という言葉で、子供はほんの数日前のことをイメージし、若者は 1年ぐらい前までを思い浮かべるけれど、歳を重ねると、10年ぐらい前のことでも「ちょっと前」の範囲になる、というのは至言だな、と実感する今日この頃です。


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「The Renaissance(小原礼&屋敷豪太)feat. 西慎嗣&Dr.kyOn」@ ビルボードライブ東京17.8.18

小原礼と屋敷豪太によるユニット、The Renaissanceの公演を観に、ビルボードライブ東京に行ってきた。小原礼は、サディスティック・ミカ・バンドなどで活躍したベーシスト。屋敷豪太は、MUTE BEATやSimply Redなどのドラマー。錚々たる経歴のミュージシャンが組んだユニットに、さらに、スペクトラムのギタリスト兼ヴォーカリストだった西慎嗣と、BO GUMBOSのキーボーディスト Dr.KyOnをサポートに迎えた、まさにレジェンド級凄腕ミュージシャン揃いのステージである。

ただし、ステージに集まった彼らが奏でる曲は(The Renaissanceのオリジナル曲も、洋楽カバーも)、シンプルなロックンロールが中心だ。演奏技量を見せつけるよりも、自分たちが楽しんで演奏しているという感じ。小原礼も屋敷豪太も、普段はバンドのリズム隊として後方支援に回っているので、このように、自分たちがリード・ヴォーカルを取る機会を目一杯楽しんでいる印象だ。私は、小原礼がヴォーカルを取る曲は聴いたことがあったが、屋敷豪太の歌唱も中々に巧い。というか、昨年観た小坂忠のライヴの時のバックが、小原礼・屋敷豪太・Dr.KyOnだった訳で(ギターは鈴木茂と佐橋佳幸だったが)、リズム隊の二人が、その時のリード・ヴォーカル 小坂忠の役割も務めるという構図になっている。

曲の合間、小原礼は良く喋る。それも、かなり下らないことを…(この人、昔からこうだったよなぁ)。そして、バンド名にかけて「ルネサーンスッ!」のかけ声で、会場と乾杯を繰り返す(バンド全員、ステージ上にグラスを持ち込み。それなりに酔いが回っていたか)。ということで、緩いトークとシンプルながら見事な技量に裏打ちされたロックンロールの対照が楽しい。楽器演奏が巧い人っていうのは、どれだけトークがグダグダでも、結局、カッコ良いのだ。

後半、サポートメンバーを下げて、小原礼と屋敷豪太二人だけで一曲披露(この時は、豪太もギターを抱えて歌唱)。その後、サポートメンバーと共に、本日のスペシャル・ゲスト、「KO = 近所のおっさん」こと、奥田民生登場。このバンドの、緩い感じに違和感なく溶け込んでいる。3年前にThe Renaissanceがアルバムをレコーディングした時に、サポートでドラムを叩いていたそうだが、今回は、ギター。彼の参加で、トークの緩さと演奏の迫力の対比がさらに高まったようだ。

ということで、期待以上に楽しいライブだったのだが、アンコールのラストで、さらに驚かされた。披露したのは、Michael Jacksonの"Billie Jean"。ここまでの、シンプルなロックンロール路線から一転、極めて技巧的なナンバーだ。ヴォーカル・スタイルはMichaelとは違うし、当然、ダンスも無いが、演奏が凄い。小原礼&屋敷豪太の鉄壁のリズム隊と、Dr.KyOnのキーボードを背景に、西慎嗣と奥田民生のギター・バトルが炸裂。やっぱり、この人達、滅茶苦茶、演奏技能が高い!ということを実感。ああ、楽しかった。


"Baby Driver"17.8.19

Edgar Wright監督の新作を観てきた。彼は、私にとって、一番「ハズレ」が無い監督の一人だが、その期待通りの、いや、期待以上の大傑作だった。

主人公は、愛称の"Baby"が似合う、童顔の青年。子供の時に遭った交通事項で、両親を亡くし、自身も耳鳴りが止まらないという後遺症を負うというトラウマを抱えている。普段は無口で無表情だが、ひとたび、お気に入りの音楽が流れると、耳鳴りは止まり、動作は軽快に、そして、神業的なドライビング・テクニックを発揮するという設定。この人物設定と、それを体現した主演のAnsel Elgortが、まずは素晴らしい。ヘッドホンをつけ、iPodから音楽を流しながら、犯罪組織の逃がし屋として、強盗現場から犯人達を車に乗せ、警察の追跡を華麗に振り切るのだ。映画の冒頭、見事なまでに音楽と同期したカーチェイス・シーンで、一気にテンションが上がる。私は、あまり、アクション映画のカーチェイス・シーンは好きじゃ無い、むしろ、退屈だと思っているのだが、この映画のカーチェイスは、今まで観たどんな映画とも違う。徹底的にノリが良く、Edgar Wright監督は、本当に心の底から音楽好きなんだと実感するし、童顔のAnsel Elgortが、iPodから流れる音楽に合わせて繰り出すアクションと、その表情のカッコ良さに痺れるのだ。

Babyが犯罪組織で働いているのには訳があり、彼自身は、トラウマを抱えながらも、真っ直ぐに生きようとする心の優しい青年なのだ。しかし、犯罪組織に関わった以上、綺麗事では済まない事態に追い込まれていく。一方で、ダイナーのウェイトレスに恋をした彼は、ついに、足を洗うことを決意するのだが… ということでストーリーは展開していく。

この、ウェイトレス役のLily James("Pride and Prejudice and Zombies"のElizabeth役が印象的だった)が、また素晴らしい。どこまでも、キュートで一途。ここまで完璧な女の子だと、Babyとの恋模様は、お伽噺のようでもある。それが、嫌みにならず、二人の恋の行方を観ているだけでもハッピーになれるというのは、Ansel ElgortとLily Jamesの魅力のなせる技だ。

"Austin Powers"のMike Myers(コメディアン)と、"Holloween"のMichael Myers(殺人鬼:ブギーマン)を取り違えるという、映画好き向きのギャグも楽しく、全編鳴りっぱなしのご機嫌な音楽と、それとシンクロしたアクション、若い主人公達のフレッシュさ。ベースはクライム・アクションなのに、この楽しさ。素晴らしいの一語だ。ラストはちょっと甘いかな、とも思うが、それもまた、この映画には合っているだろう。Edgar Wright監督は、今作で、映画の歴史に残る一作を撮ったと思う。



そいういえば、"Baby Driver"の中で、初代iPodが、幼い頃の誕生日プレゼントだったというシーンがありました。私にとっては、つい最近の機械という印象もある初代iPod。今の若い人は、iPhoneには馴染んでいても、iPod、それも初代となると、レトロな機械という印象になるのでしょうね…