IN/OUT (2026.9.20)

シルバーウィークに突入。が、台風も接近。まぁ、特段、”秋の行楽”に出かけるつもりもないのですが、ちょっと天候不順が長すぎるなと思う今日この頃です。


in最近のIN

「The Odyssey」 (26.9.15)

国立新美術館Christopher Nolan監督の新作を観てきた。ホメーロスによる古代ギリシアの叙事詩の映画化作品。邦題は「オデュッセイア」。日本では、この表記の方が知られているので適切だとは思う(が、2016年のRidley Scott監督作品「The Martian」に、「オデッセイ」という謎の邦題を付けたトンチキ配給会社の大愚策のせいもあるのでは?)

トロイア戦争後の英雄オデュッセウスによる10年におよぶ帰還の旅は、(特に西欧では一般常識レベルの)超有名な物語ではあるが、私は、細かい所までは把握していなかった。それでも、断片的に知っているエピソードが多数出てくるので、恐らく、映画のストーリーは、原典を上手く活かしているのだろう。

まぁ、原典のことを全く知らなくても、映画鑑賞に支障は無いと思える没入感の172分間だった。どの場面も映像と音響の持つ力が圧倒的で、集中力が途切れない(と言うか、途切れさせてくれない)。「TENET」みたいな、普通じゃ理解出来ないような物語でも、映像の力で観客をねじ伏せてしまうChristopher Nolanの豪腕ぶりが冴え渡った作品だ。細かい事を言えば、字幕では”セイレーン”となっている海の怪物が、音声では”Siren=サイレン”と聞こえてくるなど、ギリシア叙事詩が英語の台詞で語られることに違和感を覚える箇所もあるが…

オデュッセウス役のMatt Damonは流石の重厚感だが、それ以上に、息子を演じるTom Hollandの役柄へのハマりぶりが光る。そして、今年はやたらと観る機会が多いAnne Hathawayが、この作品でも本当に素晴らしい。どんどん、凄い俳優になっていくなぁ。他にも、ポリコレ的に騒がれているヘレネー役のLupita Nyong'o、アテナ役のZendaya、カリュプソ役のCharlize Theron、キルケー役のSamantha Mortonなどなど、男臭い映画の中で女性陣の存在感が強いのも映画を引き締めていると感じる。

少々、内省的過ぎるきらいはあるが(これもNolan監督らしいが)、グッと熱くなる瞬間が巧みに織り込まれ、エンターテインメントとしての完成度も高い。私は、昔から「木馬の中に兵士が隠れられるのか?」が疑問だったのだが、しっかり可視化してくれているのも嬉しいし、セイレーン、スキュラ、サイクロプスなど有名キャラも総出演。大お勧め作だ。

なお、今回はDolby Cinemaでの鑑賞だった。隅々までシャープで計算された画像と、迫力の音響は、本当に凄かったのだが、上下が窮屈に感じられる画角が散見された。やはり、監督が撮影時から拘り、その意図が100%反映されたIMAXで再鑑賞しなければ!


「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」@ 国立新美術館 (26.9.19)

国立新美術館英国人デザイナー Paul Smithが会場のレイアウトを考案した、Pablo Picassoの展覧会を観に、国立新美術館に行ってきた。

2023年にMusée National Picasso, Paris(パリ国立ピカソ美術館)で開催された「Picasso Celebration: The Collection in a New Light!」をもとにした国際巡回展である。展覧会の特徴は、日本語タイトルよりも英語タイトルの「Picaso, through the Eyes of Paul Smith」の方が、よく表していると思う。

国立新美術館最初の展示室。中央に、自転車のサドルとハンドルで構成されたPicassoの作品「牡牛の頭部」が掲げられ、周囲の壁には、この展覧会のために作られたものがずらっと並ぶ(このような、日用品や廃品を組み合わせて制作した作品を"アッサンブラージュ"と呼ぶそうだ)。中に一つ、Paul Smithらしいストライプのサドルが混じっている。

国立新美術館濃い青の壁面に囲まれた展示室には、Picassoの青の時代の名作「男の肖像」が1つだけスポットライトを浴びている。

一転、バラ色の壁面の室内には、カラフルな「アヴィニョンの娘たち」のための習作が並ぶ。

つまり、各展示室ごとにテーマがあり、そのテーマに沿った内装と作品の展示方法をPaul Smithが手がけているという趣向。その相乗効果がとにかく印象的だ。

国立新美術館展示室の間の通路にも、遊び心が。

国立新美術館とりわけ印象的だったのは、「子ども時代」をテーマにした展示室の「アルルカンに扮したパウロ」。絵画と壁紙の、ある意味、単純な組み合わせが、最大の効果を生んでいる。

国立新美術館あるいは、「ストライプ」をテーマにした展示室。Picassoの代表作「読書」や「帽子をかぶった女」と、ストライプの壁紙の組み合わせ。Paul Smithの代名詞とも言えるストライプと、Picassoの絵のモチーフのストライプ。さすがの着眼点だ。

国立新美術館ヨックモック美術館でお馴染み、Picassoによる陶器の皿。出展されているのは9枚だけだが、壁三面に、ずらっと無地の皿も並べられている。悪く言えば"かさまし"だが、それを必然と思わせるのが、Paul Smithのセンス。

国立新美術館Édouard Manetの「草上の昼食」をモチーフにした作品が並ぶ部屋も見事。床が、人工芝になっている。国立新美術館

国立新美術館全16室の展示室の最後は、「展覧会のピカソ」のタイトルで、過去の様々な展覧会のポスターが壁一面を埋め尽くす。そのヴォリュームに圧倒され、見過ごしそうになるが、その中に本物の作品が何点か展示されている。

ということで、どの部屋も、足を踏み入れるごとに驚きがあり、素晴らしい雰囲気に満ちていて、超大満足の鑑賞体験だった。あちこちの美術館で目にする機会の多いPicasso作品が、これほど新鮮に見えるとは驚きだ。

国立新美術館Picassoのパブリック・イメージが、ボーダーのTシャツ姿であることを思えば、元々、Paul Smithとの相性は良かったのか。

物販も、さすがPaul Smithと思わせる品揃え。普段は、あまりグッズ購入をしない私も、ついつい散財である。


「JAHARI STAMPLEY : SOUL FAMILY featuring 川口千里」@ コットンクラブ (26.9.20)

コットンクラブジャズ系ピアニスト、Jahari Stampleyの公演を観に、コットンクラブに行ってきた。

2023年の”Herbie Hancock Institute of Jazz Piano Competition”で優勝した若手実力者。今回は、母親のD-Erania Stampley(sax, b)と共に来日。コットンクラブでの2日間公演の内、初日は窪田大志、2日目は川口千里をドラマーとして迎えるということで、私は、川口千里目当てでの参加である。

ステージ向かって左にピアノ。足元にはペダル鍵盤もセットされている。真ん中がベース&サックス。右にドラムスという布陣。川口千里にしてはコンパクトなドラム・セットだ。

演奏開始。Jahari Stampleyを聴くのは初めてだが、明るく流麗なサウンド。合間合間に、最前列の客と握手を交わしたり、sing-alongを誘ったりと、ご陽気なパフォーマンスに、若さと人柄の良さが滲み出る。そして、いつも以上にキレキレの川口千里。かなり複雑なテクニックを繰り出している。彼女のライヴ・パフォーマンスは何度も観てきたが、その中でもベストと言えるぐらいのキレ具合。Jahari Stampleyは即興も多いようだが、2人がアイ・コンタクトを交わしながら、ピタッとタイミングが合う瞬間のカタルシスや! とても相性の良い2人だ。

手数の多いピアノとドラムスとは一転、D-Erania Stampleyは、ベース、サックス、シンセと複数の楽器を操りながらも、控え目に寄り添うな演奏だ。Jahariは、彼女を紹介するとき「おかあさん」と日本語を使っていたが、本当に、このトリオの”おかあさん”のような雰囲気だ。なお、彼女は6週間前に腕を骨折したそうで、まだ包帯を巻いていたが、Jahari曰く「日本のヒーリングの力で、演奏できるようになった」とのこと。

流れるようなピアノ(左足のスニーカーを脱いで、ペダル鍵盤も操作)と、迫力とスピード感に満ちたドラムス。そして、おかあさん。スリリングな演奏が続くのに、何とも幸福感に満ちたステージだ。ラスト近くには、おかあさんのサックスで場を繋いでいる間に、Jahariと川口千里がポジションを替わり、Jahariのドラムスと川口千里のピアノ、という一幕も。つくづく楽しい。

ダブル・アンコールで全編終了。予想以上に、素敵なライヴ・パフォーマンスだった。Jahari Stampley、今後も要チェックである。



ぱっとしない天候のせいもあったのか、国立新美術館は、まぁまぁの混雑ぶり。同時開催中の「ルーヴル美術館展 ルネサンス」の前売り券も購入済みだったけど、入場まで30分以上の長蛇の列だったので、それは次回にすることに。とりあえず、1週間の食事制限明けの最初のちゃんとした食事を美術館のカフェで流し込み、それなりに良い連休スタートでした。