IN/OUT (2022.6.12)

梅雨入りしました。既に雹の被害が出るなど、今年も荒れそうです。


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”Nuevo Orden”22.6.11

2020年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞したメキシコ映画を観てきた。英語タイトルは"New Order"

裕福な家庭が、娘の結婚パーティーを開いている。集まってくる多くの親戚や友人・知人達も皆、お金持ちだ。一方、町では、貧富の格差に抗議するデモが行われている。やがて、暴徒化したデモ隊がパーティーを襲撃。暴行・殺戮・略奪の限りを尽くす。新婦は、ちょっとした偶然で難を逃れることができ、やがて、軍隊がデモを制圧。しかし、軍隊もまた、暴虐の限りを尽くし、新婦はまさに地獄巡りのような苦難に遭う。というストーリー。

粗筋を思い返しても暗澹たる気持ちになるが、この映画には、ハリウッド娯楽作のような一発逆転どころか、救いというものが全く無い。デモ隊は、どこまでも粗野だし、軍隊もまた、堕落しきっている。巻き込まれた人達は、容赦なく殺されていく。それを、煽情的にならず、冷徹な視点で描ききる演出の凄みが怖い。

略奪と殺戮を繰り返すデモ隊や下級兵士達は、決して、以前から非人道的な行為を行ってはいなかったはずだ。ごく普通の人達が、一度、暴走し始めると、もう歯止めが効かなくなる怖さ。さらに、社会がこれだけ混乱し無秩序な地獄と化しても、軍服や背広に身を包んだ上流階層が存在し、権力を維持しているという描写に背筋が凍える。貧富の格差がここまで極端で無い日本ではあり得ないという声もあるが、私にはそうとは言い切れない、いや、世界のどこでも起こり得るのが今の世の中だろう。

娯楽性は皆無だが、強烈な映像と、その奥にあるメッセージが、ずしりと残る映画だ。


「出版120周年 ピーターラビット展」@世田谷美術館22.6.11

世田谷美術館Beatrix Potterによる「The Tale of Peter Rabbit(ピーターラビットのおはなし)」が商業出版されてから120周年を記念した展覧会を観に、世田谷美術館に行ってきた。

世田谷美術館Beatrix Potterが絵本作家になる以前の習作から、「The Tale of Peter Rabbit」の原画、Beatrix Potterが最初に自費出版した本、その他関連資料など、予想以上に充実した展示内容だ。特に「The Tale of Peter Rabbit」の原画は、全てが揃っているのだ。松下洸平によるオーディオガイドを聞きながら、絵本の全てを堪能できる。思いのほか、オリジナルの絵と絵本が小さいのも印象的だ。

さらに驚くべきは、絵本のきっかけとなった絵手紙の原本まで展示されている。Beatrix Potterが27歳の時に、かつてお世話になった家庭教師の息子さんが病気になり、彼にお見舞い&励ましの絵手紙を送ったのが、ピーターのお話の始まりなのだが、そのオリジナルが展示されているとは、世田谷美術館、恐るべし(なお、この展覧会は、この後、あべのハルカス美術館と静岡市美術館を巡回する)。

世田谷美術館Beatrix Potterは、単に可愛い絵本を描いただけでなく、納得いくまで出版社と交渉したり、粗悪なぬいぐるみに憤り、自らピーターラビット人形を作り、ロンドン特許局に意匠登録したのを初め、様々なピーターラビット・グッズを企画するなど、ビジネスの才もありながら、ナショナル・トラストに積極的な支援を行うという、当時としては、とても先進的な女性だった。その辺りもきちんと押さえた展示も見応えがあるし、1915年に児童雑誌に掲載された日本語訳なども興味深い。ここでは、四匹の子ウサギの名前(もちろん、Flopsy、Mopsy、Cotton-Tail、Peter)が「太郎、二郎、三郎、ピータ郎」になっているのだ。

世田谷美術館そういった資料類は撮影不可だが、展示室のあちこちにフォト・スポットが設置されているのも楽しい。小さなお子さん連れで来館している人も多いが、超充実した原画類は、サイズが小さく地味に見えるせいか、残念ながらお子様達のウケは良くない。その分、この工夫は大切だ。

もちろん、グッズ売り場も充実。特に、トートバッグは、しっかりとマチが付いた優れもの。ついついトートバッグを買いがちな私にはありがたい。非常に充実した展覧会だった。


”Pizza” @ Indian Movie Week Japan 202222.6.12

キネカ大森を中心に絶賛開催中のインディアン ムービー ウィーク 2022の上映作の一つを観てきた。タミル語映画である。邦題は「ピザ 死霊館へのデリバリー」

邦題でホラー映画と分かるのだが、そこはインド映画。一筋縄では行かない。初めは、同棲中のピザ屋の店員と女子大生の生活が描かれ、ホラー味は薄い。しかし、ピザ屋がデリバリーに行った屋敷で怪異現象に遭うところから一気にホラーになる。このパートは、予想外の展開が続き、中々怖い。しかし、ここからさらに物語にはツイストが入る。

色々詰め込みがちのインド映画らしい展開だが(群舞シーンこそ無いが、歌もしっかり入っている)、この無理矢理感を許せるかどうかで評価は変わってくるだろう。日本で一般上映するのは、ちょっと難しいかな。私はインド映画に甘いので、十分に楽しめたが。

本筋とは関係ないところだが、主人公カップルが結婚式の日取りを決める際、Rajni様の誕生日(12月12日)を選ぶというやり取りがあって(他にも、"Chandramukhi"からの映像も使われていたりする)、流石、タミル語映画!と、"SUPER ☆ STAR" Rajinikanth 原理主義者の私としては、大いに嬉しかったのである。



世田谷美術館絵画だと厳しく規制されるのに、彫刻だと、平気で裸体を展示するというのは、昔から合点がいかないんですよねぇ…