IN/OUT (2022.6.5)

このところ、色々と出かけることが多く、Googleマップのタイムラインをメンテすることが、結構楽しみになっている今日この頃です。


in最近のIN

「ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ with special guest 夏木マリ」@ブルーノート東京22.5.31

ブルーノート東京エリック・ミヤシロ率いるブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラの公演を観に、ブルーノート東京に行ってきた。今回のメンバーは、 サックスに本田雅人、寺地美穂、庵原良司、小池修、鈴木圭。トランペットに佐久間勲、奥村晶、小澤篤士、西方正輝。トロンボーンに中川英二郎、佐野聡、半田信英、小椋瑞季。ピアノが宮本貴奈。ベースが川村竜。そして、ドラムスが川口千里という布陣。ここに、スペシャル・ゲストで夏木マリが加わる。

まずは、エリック・ミヤシロが作曲した、このオーケストラのテーマ曲とも言える「Blue Horizon」。冒頭からノリノリ。特に、ドラムスの川口千里のキレとハマり具合が素晴らしい。続いて、昨年亡くなったT-SQUAREの和泉宏隆の作品をエリック・ミヤシロがメドレーにアレンジした曲。ソロを務めるのは、もちろん、T-SQUAREに在籍していた本田雅人。手にするのは、サックスでは無く、ウィンドコントローラー NuRADという見慣れない楽器。AKAIのEWI(Candy Dalferや伊東たけしが使っているのを観たことがある)と同様、息でコントロールするシンセサイザーのようなものだ。見た目はあまりカッコ良く無いのだが、本田雅人が演奏する姿は、バッチリ。とてもエモーショナルな演奏を堪能。

もう1曲、Stevie Wonderの「Overjoyed」のラテン・アレンジ版の演奏の後、スペシャル・ゲスト 夏木マリ登場。もう、舞台に上がっただけで物凄いオーラだ。そして、迫力ある声で歌い始めたのが、憂歌団の「おそうじオバチャン」。いやはや、恐るべき選曲にして、強烈なパフォーマンスだ。さらに、小西康陽がプロデュースした自身の曲「私は私よ」。アップテンポな曲に早口の歌唱。観客も完全に圧倒されている。

オールスター・ジャズ・オーケストラのメンバーに、「千と千尋の神隠し」に登場する「かしら」そっくりの人がいるというタイムリーな話題(現在、舞台版「千と千尋の神隠し」で「湯婆婆」を演じている)で会場を和ませた後、自身の生い立ちをブルーズで歌い上げる「60 blues(スワサントン・ブルース)」。物凄い自己紹介だ。あの凄腕集団のブラス・サウンドにまったく引けを取らない歌唱に圧倒されっぱなしだ。そして、最後にJanis Joplinの「Cry Baby」。これも、冒頭のシャウトをド迫力でキメたかと思うと、そこからは日本語歌詞で完全に自分の世界にしてしまう、とんでもないパフォーマンスだ。いやはや、凄いものを観せていただいた。

夏木マリが退場し、メンバー全員のソロがお楽しみの「Birdland」で本編終了。アンコールで夏木マリが再登場し、Duke Ellingtonの「It Don’t Mean A Thing」を華麗に決めて、大盛り上がりの内に全編終了。

正直、夏木マリの歌は、ジャンルとしては苦手な部類なのだが、そのパフォーマンスには圧倒されっぱなし。ライヴとしては最高だ。つくづく凄い人である。唯一、残念だったのは、全編に渡って、キレキレのドラムスだったのに、私の席からだとシンバルの影に隠れて、小柄な川口千里の姿が全く見えなかったことだ。


"The Last Bus"22.6.4

老人が主人公の、渋めのイギリス映画を観てきた。邦題は「君を想い、バスに乗る」

妻に先立たれた主人公の老人が、50年近く暮らしたスコットランド北端の村から、妻との思い出の地、イングランド、コーンウォール州の西端の岬、Land’s Endを目指して路線バスの旅に出る。

ストーリーとしては、それだけだ。かなり足腰も弱っているおじいちゃんが、鞄一つを大事そうに抱えて、路線バスを乗り継いでいく。鞄をひったくられそうになったり、バスの中で寝過ごして、予約していたB&Bから遠く離れた土地で、夜、一人で放り出されたり、バスの車中で生意気な若者に絡まれたり、という小さな事件は起きるが、全体の流れは淡々としたものだ。しかし、妻との回想シーンが何度も挿入され、徐々に、彼と妻の間に何があったのか、そして、この旅の目的が何なのか、明らかになってくるという仕掛けが、中々に滋味深い。

ラストで明かされる、旅の目的、そして、鞄の中身は、なるほどと思わせるものの、意外性は無い。ただ、この映画の一番のポイントは、ラストシーンが終わり、エンド・クレジットが流れ始めてからだ。ここの一工夫が、現代風の人と人とのつながりを感じさせる秀逸なもので、ちょっと涙ぐんでしまうのだ。

派手さは皆無の86分間の小品で、押しつけがましい感動は無いが、しみじみとした良作である。


「日比谷音楽祭 2022」22.6.4

日比谷音楽祭音楽プロデューサーにして東京事変のベーシストでもある亀田誠治氏を実行委員長に、誰もに開かれた音楽イベントとして開催された「日比谷音楽祭」に行ってきた。

6月3日(金)~ 6月5日(日)の3日間、日比谷公園(大音楽堂(野音) / 小音楽堂 / にれのき広場 / 第二花壇 / 噴水広場)で、様々なライヴ・パフォーマンスやワークショップが行われる大掛かりなイベントである。しかも、この音楽祭は、クラウド・ファンディングや企業の協賛金によって成り立っていて、全てのプログラムの入場料は無料。「誰もに開かれた」と言うのは伊達じゃない。私は、Day 2、日比谷公園大音楽堂「YAON」ステージで開催される「Hibiya Dream Session 2」に出演する「やのとあがつま」が目当てである。

しかし、その前に、12時15分から小音楽堂で行われた「el tempo」のパフォーマンスを鑑賞。100種を超えるハンド・サインを用いてコンダクターが指示を出し、複数の奏者による即興演奏を可能にするという「サイン・システム」。アルゼンチン発祥のこのシステムを学んだシシド・カフカがプロデュースするパフォーマンスである。彼女がコンダクターとなり、11人の主にパーカッション奏者を操る。汗ばむ陽気の晴天の野外ステージに響くラテンのリズム。心地よし。この音楽祭は、大音量&大量動員でゴリゴリ押す、いわゆるフェスとは趣が違い、公園の中に自然に音楽が溢れているという雰囲気だ。

その後、野音の受付に行き、予約していた「Hibiya Dream Session 2」のチケットを受け取る。ただし、この仕組みが、極めて分かりづらい。無料イベントのチケットを、不正使用されず、本当に聞きたい人に届けようという思いから構築されたのは理解するが、この仕組みのキーとなる公式アプリの出来がよろしくない。負荷が掛かったときの耐性が低かったのかも知れないが、トラブル続き。ここは、次回があるなら、是非とも改善していただきたい。とりあえず、チケットを受け取り、一旦、日比谷公園を離れ、シネスイッチ銀座へ。

日比谷音楽祭さて、お目当ての「Hibiya Dream Session 2」である。このイベントのためのスペシャル・バンド「The Music Park Orchestra」とゲスト・ミュージシャンが繰り広げるセッション。このバンド・メンバーが、亀田誠治(ベース)、河村"カースケ"智康(ドラムス)、佐橋佳幸(ギター)、斎藤有太(キーボード)、皆川真人(キーボード)、四家卯大(チェロ)、田島朗子(バイオリン)、 山本拓夫(サックス)、西村浩二(トランペット)、小田原 ODY 友洋(コーラス)という一流プレイヤー揃いなのである。リハーサルが押し、予定より20分遅れの18時20分、野音に入場。18時40分から、前説でDJダイノジが登場し、会場を温める。

そして19時。本番開始。トップバッターがやのとあがつまだ。「おてもやん」と「津軽じょんがら節」。観客席には、やや、アウェイ感も感じてしまう。ここから盛り上げてもらいたいと思ったところで、The Music Park Orchestraが加わって「ひとつだけ」。これはこれで、上妻宏光の三味線がバックを彩り、西村浩二と山本拓夫のホーン・セクションが刺さる、滅多に聴けないアレンジだったので嬉しくはあるが、これだけで終わってしまうのは勿体無いなぁ…。野音での「斎太郎節」や「ふなまち唄」は絶対に気持ち良かったと思うのだが…

続いて登場したのは、EXILE SHOKICHI。今度は、私がアウェイ感を覚える番だ。作曲者であるミッキー吉野をバックに加えての「君は薔薇より美しい」、「Choo Choo TRAIN」、MIYAVIをバックに加えた「Fight Club」。その後、MIYAVI + SKY-HIで「Gemstone」。そして、ミュージカル俳優チームである日比谷ブロードウェイ(井上芳雄・佐藤隆紀(LE VELVETS)・木下晴香) + MIYAVI + ミッキー吉野で「銀河鉄道999」。ミッキー吉野のオルガン・プレイを聴けたのは嬉しい。

日比谷ブロードウェイが、ミュージカル俳優としての本領を発揮した「Tonight」の後、石川さゆり登場。このイベントのために作ったという新曲「人生かぞえ歌」。バンド・メンバー全員が一節ずつ歌う趣向。歌詞に「これでいいのだー」が出てくるのが、微妙に矢野ファンの心をくすぐる。

そして、再びMIYAVI、さらにKREVAも登場し、「火事と喧嘩は江戸の華」。石川さゆり、さすがの器用さと貫禄である。演奏前に、クラウド・ファンディングへの協力を訴えかけるKREVAのクレバーさも印象的だ。これで本編終了。

そして、アンコール(同時に行われていた配信は本編だけで、ここは会場限定となる)。プログラムには「with 劇団四季」と表記されていたシークレット・ゲスト、岡本瑞恵が登場。劇団四季の俳優と、東宝などに出演する日比谷ブロードウェイのミュージカル俳優が、同じイベントに出演するのは極めて異例らしい。彼女は「アナと雪の女王」のエルサ役だったということで、「レット・イット・ゴー」を歌い上げる。流石、劇団四季。ミュージカルは得意じゃ無い私でも、その素晴らしい説得力に満ちた歌唱には心を揺さぶられる。だが、それ以上に、バックで黙々と(松たか子の夫である)佐橋佳幸がギターを弾いていることに、ちょっと面白味を感じてしまった。

20時30分には全て終了。いささか、淡泊な感じもあったが、亀田誠治が唱える「フリーで、ボーダーレスな音楽祭」というコンセプトは、しっかりと伝わってくるイベントだった。



これで、春の矢野顕子強化月間、終了です。