IN/OUT (2022.4.3) |
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桜が見頃を迎えた週末。土曜日は良い天気で、映画館に行く道すがら、春らしい雰囲気を味わえました。もっとも、日曜日は冷たい雨になってしまいましたが。 最近のIN"Morbius" (22.4.2)"Sony's Spider-Man Universe"の3作目の映画を観てきた。Spider-Man関係は、権利が面倒くさいことになっているようで、Spider-Man自身を描くMCU(Marvel Cinematic Universe)と、その敵役を主人公にするSSU(Sony's Spider-Man Universe)が並行して展開している。この作品は、ヴィランである"Morbius, the Living Vampire"が主人公だ。 Morbiusは、血液の難病を患い、その治療法の発見に全力を注ぐ、天才的な医師。その過程で、吸血コウモリの遺伝子を自らの遺伝子に組み込む実験を行った結果、超人的な力を得るが、同時に人の血を吸わないと生きられなくなったという設定。 ”Venom”と同じく、Spider-Manと戦うことになる(はずの)ヴィランを主人公にする、つまり、悪役にも真っ当な理由付けをして魅力的に描くということには、見事に成功していると思う。アメコミ映画の職人技には感心するばかりだ。 ただし、Marvelの大河ドラマ的映画の中では、傍流という印象は強い。単体の作品としては、極めて薄味。余程のMarvel好き以外には、あまり勧められない映画という気がする。 "Annette" (22.4.3)Leos Carax監督の新作を観てきた。彼に対しては、自称シネフィル御用達の監督という印象があり、私は食わず嫌いで、今回が初めての鑑賞である。中々どうして、とてつもなくヘンテコな怪作だった(超誉め言葉)。 主人公は、Adam Driver演じるスタンダップ・コメディアン(演技指導を受けたのだろうか。エンドクレジットには、今や時の人であるChris Rockへの謝辞があった)。彼が、Marion Cotillard演じるオペラ界で人気・実力ともトップクラスのソプラノ歌手と恋に落ち、結婚。Annetteと名付けられた女児を授かる。 と、ここまでは順風満帆だったのだが、徐々にコメディアンとして落ち目になり、妻との格差に悩み、狂気じみてくる主人公。物語は、悲劇的な結末に突き進む。Adam Driver、見事なまでの熱演というかワンマンショーというか怪演である。 ストーリーだけを取り出せば、何とも陰気な話なのだが、この作品はロック・ミュージカルである。殆どの台詞は、歌で表現される。全編の音楽を担当したのは Sparks。1960年代から活躍する、カルト的人気を誇るバンドだ。というより、Sparksがミュージカル・アルバムとして製作しかけていた作品を元に、Leos Caraxが映画化したということだ。これがヘンテコな一点目。 さらに輪を掛けてヘンテコなのが、Annette役に、子役を使わず、人形を使っているということ。もちろん、これだけ高度な演技の要求に応えられる子役を見つけるのは難しいとは思う。しかし、主要人物の一人だけがマリオネットである。結果、物語がはらむ寓話性が非常に強くなっていると感じる。 その寓話性を高めるもう一つの要素が、独特の映像美だ。特に、主人公一家が乗ったヨットが嵐に遭うシーンと、その後、島に漂着するシーンには、刮目。 そして、ラスト。ここでも重要な台詞が歌で表現されるのだが、Annetteをマリオネットが演じていたことが極めて効果的に働く仕掛けがあり、全てはこのシーンのためだったのかと驚愕。 徹頭徹尾、作家性に溢れた作品で、見応え十分。これまでLeos Caraxを食わず嫌いだったことを後悔したのである。 狂騒的なお花見というのが影を潜めたというのも、コロナ禍の良きレガシーだなと思う、今日この頃です。 |