IN/OUT (2020.7.5)

色々活動再開出来はじめたと思っていたら、第二波の感染拡大が現実味を帯びてきました。


in最近のIN

「寺井尚子カルテット "The Precious Night 2020"」@ ブルーノート東京20.7.3

ヴァイオリニスト 寺井尚子のライヴを観に、ブルーノート東京に行ってきた。今年の1月に観たものと同じメンバーによるライヴで、インターネット配信(有料)もされるという。しかし、ついに営業再開したブルーノートにリアルで行くことにした。

久しぶりのライヴ会場。4人用のテーブルに最大でも2人しか座らせないレイアウトで空きテーブルも多い。全体では1/4ほどしか稼働していない感じだ。私が選んだ席は最後列角のカウンターシート。後方から会場全体が俯瞰できる良さがあるが、いつもは狭苦しくて食事には不向きな場所だ。しかし、今日は半径2mに他の客はいない。この席で広々と飲み食い出来るのは新鮮だ。ただし、ドリンク・メニューとフード・メニューは、それぞれ1枚ずつという少なさである。

メンバーが登場し、最初の1音が聴こえてきた瞬間は、涙ぐむほどグッと来る。そう。この音なのだ。ネット配信では伝わらない生の音。やっぱり良い。凄く良い(個人的には、久々のライヴの興奮は矢野顕子トリオで聴きたかったというのもあるが、今年のトリオ公演は開催されないのだ…)。

演奏曲は、彼女のオリジナルの他に、ピアノの北島直樹の作品、Henry Manciniの"Peter Gunn"、Pat Methenyの"James"等々。本編最後は Chick Coreaの”Spain”。アンコールは「誰も寝てはならぬ」(歌劇「トゥーランドット」)と、前回公演と重なる曲が多かったが、やはり、彼女の姐御感溢れるヴァイオリン演奏は熱くて楽しい。

ただ、この観客数だと、どうしても観客席の拍手が寂しい。メニューの数を絞り、フロア・スタッフの人数も減らしているようだが、それでも経営は苦しいだろう。応援の意味も含め()、いつもは頼まない3杯目のグラス・ワインをオーダーし、久々のブルーノートを堪能したが、やはり完全復活を期待したい。


"A Rainy Day in New York"20.7.4

Woody Allenの新作を観てきた。

新作と言っても、撮影されたのは2017年である。Woody Allenは、かつての交際相手Mia Farrowの養女への性的虐待で訴えられ、#MeToo運動の盛り上がりの中、ほぼ映画界を干される形になっている。この作品も、根強いAllenファンが多いヨーロッパの一部や日本では遅ればせながら公開されたが、米国では未公開のままとなっている。彼は疑惑を否定し続けているし、警察の捜査上も疑惑は証明されていない。そもそも、作品の評価が作者の人間性に左右されて良いのかという問題もある(それを言い出すと、クラシックの大物作曲家や歴史的文豪にも、問題がある人物は多い)。批判している人の中には、今のご時世だと彼を叩く側に回った方が安全だと判断をしている者も多いのではないだろうか。いずれにせよ、私は自分自身で真偽を見極められないことで、Allen叩きに参加する気は無いし、積極的に彼を擁護することもしたくない(個人的には、Mia Farrowよりも、Woody擁護派のDiane Keatonの方に好感を持っているということもある)。

映画そのものは、周囲の騒動とは無縁に、実にWoody Allenらしい快作だ。舞台は雨のニューヨーク。全編に流れるジャズピアノ。主人公の独白で進行する物語。適度に挟まれる小気味よいギャグ。浮かび上がってくるのは苦みを伴う人生模様。多くの人を魅了してきたWoody Allen の世界が詰まっている。

Timothée Chalametが演じる男性主人公は、ニューヨークの金持ちの家庭に生まれたが、どこか厭世的で、刹那的に生きる大学生(役名がGatsbyというのは、やり過ぎか?)。同じ大学に通う、Elle Fanning演じる女性主人公と付きあっている。彼女は、アリゾナのやはり裕福な家庭出身だ。学生カップルを主人公にしながら、二人ともお金には全く困っていない(それどころか、Gatsbyはギャンブルにも滅法強い)。貧乏くささを排除したことで、現実味よりもロマンチックな物語に焦点を絞ることを選択したのもWoody Allenらしいと思う。

80歳を超えて(1935年生まれ)、これだけ軽やかでチャーミングな作品を撮れるWoody Allen。若かった頃の性的嗜好は謎のままだが、少なくとも映画作家としての才能は素晴らしいし、全く枯れていない。出来ることなら、まだまだ新作を観たい。


「HARA X 山田タマル サンセットライブ」@ 原美術館20.7.5

原美術館からアーティストの「今」をオンラインで発信するというプロジェクト「HARA X」。その第一回が開催された。原則、無観客のイベントだが、原美術館メンバーから15名程度の参加者を募集するということで申し込んだところ、有り難くも当選。日曜の夕方、出かけてきた。

出演者は、山田タマル。2006年にメジャーデビューした女性シンガー・ソングライターだ。早稲田大学卒業後、原美術館に就職し、受付勤務をしていたのだが、メジャーデビューを機に退職したとのこと(私がこの美術館に通い始めたのは2007年からなので、お見かけしたことは無い)。

閉館時刻である17時、原美術館の中庭へ。観客は芝生の上の思い思いの場所にレジャーシートを拡げ、腰を下ろす。演者は、山田タマルとギター伴奏の光畑宏之の二人。撮影(と言っても、機材はiPhone)は、本職のTBSビジョンのディレクター 天野裕士(彼女が主題歌を歌った「大沢たかお インカ帝国 隠された真実に迫る」のディレクターであり、その主題歌の作詞も手掛けたりしている)。

17時30分。デビュー曲「My Brand New Eden」から演奏開始。とても素直な声質で歌唱力もある。作詞・作曲も手堅い。ちょっとだけエキゾチックなフレイバーを感じるところが特長だと思う。大ブレイクこそしていないが、TV主題歌(最近は、アニソンも)などで安定した活動を続けているのも頷ける実力派だ。

配信の部は18時過ぎで終了。そこからは、中庭に集まった20名弱の美術館メンバーのためだけに演奏するという贅沢な時間。カヴァーで1曲、The Beatlesの"I Want To Hold Your Hand"。あとは最新アルバム収録曲などオリジナル。本来は18時45分終了予定だったが、時間が来てから追加でさらに2曲。19時、ちょうどサンセットとなった頃に終了。

いよいよ閉館までカウントダウンという感じになってきた原美術館だが、しみじみと良い空間だと改めて思う。そこに、縁のある山田タマルがアコースティック・サウンドを響かせる。この場に居合わせることが出来て実に有り難い。

配信された映像を後で観てみると、いささか残念な音質だ。良く言えば手作り感が溢れているが…。今後も「HARA X」が開催されるなら、やはり、現場で観たいものだ。



映画館は座席間引き。ライヴは少人数&配信。というやり方が永続的に定着するのかもしれません。まあ、映画館の座席に関しては、個人的には快適ではありますが…