IN/OUT (2019.9.29)

デパートのエレベーターで、後から乗ってきて私の目の前に立った、ちょっと尖った雰囲気の若い女性。襟首からのぞくタトゥーは、漢字の「珍」。西洋人が勘違いしたタトゥーを入れているのは有りがちですが、どう見ても日本人の彼女は、分かっているはず。彼女は一体何をアピールしたいのだろうと、微妙にざわつくエレベーター内。恐らく、彼女の周囲はいつもこういう雰囲気になると思われ、とにかく、メンタルが強いことは伝わってきます。


in最近のIN

"BLUE GIANT NIGHTS 2019" @ブルーノート東京19.9.23

石塚真一による、ジャズを題材とした漫画 “BLUE GIANT” に因んだライヴ・イベントを観に、ブルーノート東京に行ってきた。私は、漫画は未読だが、上原ひろみ(ピアノ)とEdmar Castaneda(harpが出演するということで、イマイチ、イベントの趣旨も分からないままにチケット・ゲット。今回は、特別公演で全席指定になるのだが、チケット争奪戦に出遅れて、右端のやや残念なポジション。

イベントは、石塚氏自らのナレーションで、開演。まずは、このイベントのオーディションを勝ち抜いてきたバンド Ascension。サックス、ピアノ、ベース、ドラムス、4人のメンバーは、全員十代。しかし、演奏は、なかなかどうして、たいしたテクニックだ。Wayne Shorterの作品 2曲をバッチリ決める。でも、演奏が終わると、少年の表情。そのギャップに、年上女性客から、可愛い!の嬌声が…

続いて、BLUE NOTE RECORDS SPECIAL BAND。ピアノのJames Francies、サックスのCasey Benjamin、ギターのCharles Altura、ドラムスのJeremy Duttonと、実力者4人が集結。事前に仕込んだトラックも使った尖った演奏だ。プロとして金が貰えるプレイというのは、テクニックだけじゃなくて個性だよと、少年達に見せつけるようなパフォーマンス。ただ、個人的には、あまり好きなタイプではないかな。

そして、いよいよ、HIROMI × EDMAR CASTANEDA。私の席からはEdmarは完全に後ろ姿。そして、彼のハープ越しにひろみ嬢の笑顔がかろうじて見える角度というのが、悔しい。しかし、演奏は、素晴らしいの一言。本当に、唯一無二のアンサンブルだと思う。二人とも、超絶技巧を出し合いながら、その掛け合いを、お二人自身がとことん楽しんでいるのが伝わってくる。この共演を再見できただけで、このイベントに大感謝だ。

しかし、一番のお楽しみは、この後のアンコールだった。三組全員が舞台に登場し、まずは、三人のピアニストが、一台のピアノを囲んで、ポジションを次々と変えながら、それぞれのプレイを重ねていく。そこから全員で始まったのが、Chick Coreaの"Spain"。十代のプレイヤー達を鼓舞するようなプロフェッショナル陣の演奏が、胸熱だ。特に、ドラムスは、勢いで押しまくる十代に対し、勢いだけじゃ無いオリジナリティを示唆するようなベテランの演奏。それに感心した表情を浮かべながらも、さらに勢いのあるプレイを繰り出す十代。この掛け合いが、とても良い感じだ。Jazzの魅力が詰まったイベントだった。


"Hotel Mumbai"19.9.28

2008年にムンバイで起きた同時多発テロを描いた映画を観てきた。

私が、この3~4年前、ムンバイ出張を繰り返していた事もあり、この事件は非常に衝撃的だったことを覚えている。映画の舞台となっているTaj Mahal Palace & Towerも、出張の合間にお上りさん気分で訪れたことがある。ということで、思い入れたっぷりの鑑賞である。

この映画は、R15+指定だ。テロリストの所業がとにかく非道いのだ。全く何のためらいもなく、罪の無い人々を殺しまくる。まさに血も涙も無い。映画的に勿体を付けることもなく、物凄い勢いで殺す。恐らく、実際の事件でも、こうだったのだろう。

しかし、このテロリスト達。皆、子供と言っても良いような少年である、貧しく、ろくな教育も受けていない彼らが、イスラム原理主義者の大人に都合良く利用されたという背景もまた、実際の事件の通りなのだろう。そして、その事がしっかり描かれている事が、映画の厚みを増していると思う。

現実の出来事の映画化なので、超人的なヒーローや、一発逆転の大作戦がある訳では無い。テロリストに占拠されたTaj Mahal Hotelの従業員達が、ギリギリの状況の中で、ホテルマンとしての誇りとお客様第一主義を貫く姿が胸を打つ。もっとも、そこは商業映画化。ヒロイン一家の描き方や、Dev Patelが扮する新人ホテルマンのキャラクターは、やや、嘘くさい気もするが…

いずれにしても、ヒリヒリするような緊張が2時間。見応えの有る作品だ。


「The Bulgarian Voices Angelite 来日公演2019」@すみだトリフォニーホール19.9.29

すみだトリフォニーホールブルガリアの民族音楽、Bulgarian Voicesを歌うグループ、The Bulgarian Voices Angeliteの公演を観に、すみだトリフォニーホールに行ってきた。

Bulgarian Voicesは、ブルガリアの農村の女性達が歌ってきた民謡である。その特徴的な響きで、1980年代後半から、ワールド・ミュージックの一つとして、人気を博している。私は、Kate Bushの1989年の傑作アルバム"The Sensual World"に、Bulgarian Voicesのグループ、Trio Bulgarkaが参加した事で、その存在を知ったのである。

今回、来日したThe Bulgarian Voices Angeliteは、1952年にブルガリア国営テレビ局の合唱団として結成されたものが発展したグループ。指揮者 Katya Barulovaが、全国から約20人の歌手を集めて、活動しているそうだ。

すみだトリフォニーホールのロビーでは、民族衣装の展示や、ブルガリアの紹介パネル展示、グッズの販売などが行われている。それらを冷やかした後、開演まで、ホール内のカフェで、ブルガリア・ワイン。ちょっとしたブルガリア物産展という印象である。

さて、開演。18人の民族衣装に身を包んだ女性メンバーと、指揮のKatya Barulovaが登場。Bulgarian Voicesの特徴であるビブラート無しの地声、不協和音を含んだコーラス、そして、特殊な発声法から出されるしゃっくりのような高音(あるいは、ショッカーの戦闘員の"イーッ!"みたいでもある)を駆使して、ブルガリアの民族音楽を歌い上げる。私は、本来、合唱団の歌というのが苦手なのだが、この、独特の響きは好きなのだ。バック・バンドは無いが、変化を付けるため、たまに、リュートのような弦楽器を持ち出したり、木のスプーンを叩いたりもする。荘厳な感じの歌もあるが、いかにも、農作業の合間の女性達のお喋りの延長のような歌が楽しい。

第一部の終わりは、「ソーラン節」 。和風のこぶしは無いが、しゃっくりのような高音と、合いの手の「ドッコイショッ!」が可愛い。

20分の休憩後、第二部。まず、ゲスト、三人の笙奏者のグループ「笙アンサンブル 星筐笙」とともに2曲。なるほど、響きの相性は良い感じだ。欧州の農民の民謡であるBulgarian Voicesと、雅楽の楽器である笙という、本来、出会うはずの無いものが化学反応を起こすのが、音楽の楽しさだ。笙アンサンブル 星筐笙の退場後も、楽しい演奏が続き、本編ラストは、「ふるさと(「ウサギ追いし…」 である)」。三番まで、しっかり歌詞を覚えてくれていることが嬉しい。

そして、アンコール。笙の三人も登場して1曲。彼らがはけて、もう1曲歌唱。一旦、退場した後で、さらに、ダブル・アンコールで1曲。これで全編終了。

変に現代風にすることなく、トラディショナルなスタイルに撤したパフォーマンスが、とても好印象だった。



彼女がエレベーターを降りた後、残った学生集団が「いや、一文字とは限らない。あの下に縦書きで続きが有るのかも。『珍獣ハンター』とか」、と言っているのが大いに印象的だった今日この頃です。