IN/OUT (2018.7.22)

高浜運河冬の間はユリカモメが目立つ近所の運河ですが、最近はカルガモが急増していて、雛の姿に和まされます。着実に繁殖していると言うことは、コンクリートばかりの岸辺のどこかに、巣作りに適したところを見つけたのでしょうか。


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"Meine Brüder und Schwestern im Norden"18.7.16

北朝鮮の一般市民を映し出したドキュメンタリー映画を観てきた。韓国出身の女性監督が、韓国籍を放棄しドイツのパスポートを取得して北朝鮮に乗り込み撮影したという作品。英語タイトルは"My Brothers and Sisters in the North"。邦題は「ワンダーランド北朝鮮」

テレビの報道番組で見かける平壌だけでなく、地方の農村や工場の現場まで映し出されているのが貴重な映像だ。とても興味深い。もちろん、これらの取材対象は、映画製作陣が探し出したものではなく、北朝鮮当局が選んだものであるが。

農村の暮らしは、確かに物質的には豊かとは言えない。それでも、家畜の糞尿から取り出したガスで煮炊きを行い、太陽電池で充電したバッテリーから変圧器を通してテレビを見る(電圧が十分ならカラー。足りないとモノクロでしか映らない)というエコな生活。縫製工場では、なんだか楽しげな振り付けの体操をしながら屈託なく女工さん達が働く。そして、誰もが、朴訥な笑顔で首領様への献身を語る。どこをとっても建前にしか聞こえない内容も、ここまで無邪気に語られると、本気のように聞こえるし、実際、彼らは本気で信じ込んでいるのかもしれない。

こうした取材対象に、事前に当局がどこまでプロパガンダ的な「仕込み」をしたのか分からないが、革命戦士になるわけでも、脱北者になるわけでもなく、普通に一生の暮らしを紡いでいく人達の存在に気づかせてくれる映像は貴重だと思う。ただし、この映画を「色眼鏡を外して見た北朝鮮」と表する評論も見かけるが、それは、あまりにもナイーブな見方だろう,背後にある北朝鮮当局による検閲を見切ることも求められる映像だ


"Liberation Day"18.7.16

2015年、北朝鮮で海外ロックバンドとして初の公演を行ったスロベニアのバンド"Laibach(ライバッハ)"の姿を追ったドキュメンタリー映画を観てきた。邦題は「北朝鮮をロックした日 ライバッハ・デイ」。Lで始まって、Dayと付くので、原題に近い邦題かと思いきや、大違い。原題は、彼らがライヴを行った北朝鮮の「祖国解放70周年記念日」のことである。北朝鮮繋がりで、二本続けてシアターイメージフォーラムでの鑑賞。

事前に見ていた情報では、"Laibach"は、ナチス風の衣装に身を包んだパフォーマンスで問題視されているバンドということだったので、破天荒なパンク系バンドを予期していたら、全然違った。1980年デビューの分別のあるベテラン・バンドだ。サウンドも、メインストリームのポップな音では無いが、'80年代ニューウェーヴの洗礼をくぐり抜けた人には、特に目新しさのない楽曲で、拍子抜けである。というか、彼らは、(私も含む)一部好事家の間では評価の高いフィンランド製SF映画"Iron Sky"の音楽を担当していたバンドだった。どこか聞き覚えがあると思った訳だ。

北朝鮮に乗り込んだ彼らは、予想通り、当局の検閲や、何事にも自分の意見を表に出さず、上からの指示を待つ北朝鮮の人達の仕事ぶりに悩まされる事になる。しかし、そうした不自由さに対しても、「我々だって、日々、自分で自分に対する検閲を行っているのだ」という大人の見解を取るLaibach。常識人である。

ステージの準備とリハーサルが続く中、ステージで共演する音楽学校の女子学生が休憩時間にスマホをいじる姿も興味深い。一体、どんなコンテンツを見ているのだろうか?そして、非効率で融通が効かない現地スタッフとも、最後には一体感が醸成されてくるところなど、ちょっといい話、にもなってくる。全体主義国家の公務員とヨーロッパのベテラン・ロック・バンドが公演の成功を目指して生み出した化学反応。

因みに、本番に招かれた観客は、一般人ではなく、当局の関係者ばかりだったと思われる。演奏中は退屈そうにしていた人達も、終演後にマイクを向けられると、優等生的コメントを述べる。もっと普通の人の反応も見たかったような気もするが、今の日本でも、普通の若者にLaibachの音楽を聴かせても、ポカンとされるだけかもしれない。

それにしても、誰の、どのような意思が働いて、初の海外ロックバンドとしてLaibachが選ばれたのか?謎である。


"Streets of Fire"18.7.21

1984年製作、Walter Hill監督の傑作アクション映画のリバイバル上映を観に、立川シネマシティに行ってきた。どういう経緯でこのタイミングで全国リバイバル上映となったのか謎だが、どうせ観るなら立川シネマシティである。この劇場が誇る「KICリアルサウンドシステム(映画館用ではなく、PA用のMeyer Sound製のスピーカーを使用。壁面と天井の反響/吸音にも工夫が凝らされている)」を用いた「極上音響上映」と「ロックンロールの寓話」の相性や如何に

女性ロッカーを誘拐した暴走集団と対決する流れ者の主人公というシンプルなストーリーだが、冒頭で、この物語は、時代も場所も特定しない( "Another Time, Another Place")、寓話("Rock & Roll Fable")だと宣言するする潔さ(狡猾さ)で、後は、細かいリアリティなど気にせずに、登場人物達の格好良さを貫くだけ、という映画である。因みに、派手なアクションも多いが、誰も殺さない / 一人も死なないというのも特徴だ。

全編に流れる音楽は、いかにも1980年代の、Pat BenatarやBonnie Tylerを思わせるサウンド。2010年代の今、再評価の対象になっているとは言えない気もするが、その分かりやすい商業ロック・サウンド、私は嫌いじゃない。元のフィルムに収められた音の限界で、ハイファイとは言いづらい音質ではあるが、迫力の重低音と、大音量での上映は、この映画にピッタリ。

当時、まだ10代だったDiane Laneのロッカーぶり(残念ながら、歌声は、迫力を出すために複数の女性シンガーにユニゾンで歌わせて電子的に加工したものらしい)や、暴走集団のボスを演じたWillem Dafoeの怪演も楽しく、良いリバイバル企画だ。ただし、鑑賞に当たっては音響の良い映画館を選ぶのが必須だと思う。



これだけ暑さが続くと、この辺りに生息する生き物も、数年にうちにはすっかり変わってしまうかも、という気がする今日この頃です。