IN/OUT (2017.12.24)

12月は、ここまで、矢野顕子のソロ公演 6本とゲスト出演されたものを2本、上原ひろみを3本、その他ミュージシャンも2本と、かなりの数のライヴに行くことが出来ました。


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Steve Lukather 'Nerve Bundle'@Billboard Live東京17.12.19

TOTOのギタリスト、Steve Lukatherが、毎年12月限定で活動しているプロジェクト"Nerve Bundle"として来日。その公演を観に、ビルボードライブ東京に行ってきた。Nerve Bundle(神経の束=実は卑猥なスラングだそうで…)は、Lukatherの他に、キーボードのJeff Babko、ベースのJorgen Carlsson、ドラムスのToss Panosによる4人編成のバンドである。

普通、この会場では、ステージ横からプレイヤーが登場するのだが、今回は、上のカウンターがある階の通用口()から姿を現し、階段を降りてステージへ。Lukatherは、とても機嫌が良さそうだ。

演奏が始まる。ヘヴィーなフュージョンだ。一曲目では、Lukatherのヴォーカルも入ったが、それ以降は、インストのみ。スタジアム・クラスの巨大会場で、観客と一体になってお馴染みのヒット・チューンを楽しむTOTOのコンサートとは逆の方向性、小さなクラブで、束縛から解き放たれたミュージシャンがギグを楽しんでいるという雰囲気だ。

弾きまくるLukather。個人的には、この人のギターは、いかにもロック系スタジオ・ミュージシャンっぽく(というか、実際にそうなのだが)、何でも弾けてしまう分、アクのような物は少ないという印象を持っているのだが、今回のパフォーマンスは、彼の個性が全開。熱い自己主張が伝わってくる。周りのメンバーも、それぞれ個性的なサウンドでもり立てる。

TOTOのナンバーでは、インスト曲"Jake to the Bone"を披露。また、TOTO絡みで言うと、Jeff Porcaroに捧げた"Song for Jeff"も演奏された。

アンコールは「クリスマスは、みんなのハートの中にあるんだぜ。でかい肥ったおっさんが背負った袋の中じゃないんだ」と語って、ゴリゴリにアレンジした「きよしこの夜」。さすが、12月限定のバンドだ。

良い意味で、ミュージシャン達のストレス発散の場に立ち会っているような気もする公演だったが、Lukatherのギターの凄みは、存分に伝わってきた。


「上原ひろみ×熊谷和徳 TOUR 2017」@オーチャードホール&日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール17.12.20 & 23

ジャズ・ピアニスト 上原ひろみと、タップダンサー 熊谷和徳の共演を観に、オーチャードホールに行ってきた。この二人は、2006年に出会い、何度も共演を重ねているのだが、私は今回が初めての鑑賞となる。

舞台中央にグランド・ピアノ。左右にタップ台が設置されている。そして、開演。熊谷和徳のタップダンスは、The Chieftainsのステップダンスとは全く違う。ピアノ演奏をバックにしたダンスでは無く、タップという楽器でピアノと共演しているという感じだ。ただ、1ヶ月前に観た上原ひろみとEdmar Castanedaのステージも、意外性のあるミュージシャンとの共演だったが、Edmarが演奏するジャズ・ハープは、音階が出せるので表現の幅が広く、スリリングだった。それに比べると、タップは単音だからなぁと、演奏が始まるまでは、私は斜に構えていたのだ。

しかし、演奏が進むにつれ、どんどん引き込まれていく。熊谷和徳が繰り出す音は、決して単調なものではなく、様々な工夫とテクニックで鮮やかに彩られている。ダイナミックな「Wanderer」や、軽快な「Seeker」「What Will Be, Will Be」はもちろんの事、しっとりした「Place to Be」や、Bob Dylanの「The Times They Are A-Changin'」でも、素晴らしい表現力を発揮している。これは凄いと思っている間に、第一部終了。

15分間の休憩後、まずは、熊谷和徳のソロ。まだ観客席が明るい内に、すーっと登場して、ステップを踏み始める。そこから、怒濤のステップ。膨大な音数に圧倒されまくる。続く、上原ひろみのソロ「Desert on the Moon」。共演者と合わせるという制約が取っ払われたことで、やりたい放題という感じ。これにも圧倒される。

しかし、本当に圧倒されたのは、この次だ。二人で演奏したのは、ホルストの組曲「惑星」から「木星」。お馴染みの曲だが、ひろみ嬢による壮大かつ緩急自在のジャズ・アレンジが冴えまくっている。そして、二人のプレイの熱量もとんでもない事になっている。これが、ピアニストの2本の腕とタップダンサーの2本の足だけで奏でられている音なのか?会場全体、大興奮だ。

これで本編終了。アンコールは、これまでの熱を少し冷ますかのように、「What a Wonderful World」。ラストにちょっことクリスマス気分。予想よりも遙かに素晴らしい共演だった。

そして、3日後の土曜日は、名古屋まで二人の共演を観に行った。

オーチャードホールの席が、37列目と、最後列に近い席だったのに対し、日本特殊陶業市民会館 ビレッジホールの席は、14列目。タップダンスは、足下の動きが見えないと、何が何だか分からないので、前方に近づけて非常に嬉しい。また、舞台に向かって左寄りの、ちょうどひろみ嬢の手元を斜め後ろから見られるベストの角度だったことも有り難い。中腰になり、飛び跳ね、鍵盤を肘打ちするなど、激しい動きのひろみ嬢のプレイは、熊谷氏のダンスよりもダイナミックなほどだ。やはり、見やすい席だと、演奏から受ける印象もさらに良くなるし、客観的にも、お二人のプレイはオーチャードホール以上に凄みを増していたと思う。ただ、会場に、すぐに手拍子を打ちたがる人が多かったのと、どのタイミングで発しているのか謎の掛け声には、私としては辟易…

ひろみ嬢のソロ、今回は「BQE」。他の部分は、前回と同じ選曲だったと思うだけに、違う曲が入ってくるのが楽しく、嬉しい。そして、「木星」には、今日も超絶興奮。特に、終盤、二人の即興ソロの掛け合いの部分のスリリングさが堪らない。

ということで、上原ひろみ嬢のライヴは、ソロでも、トリオ・ザ・プロジェクトでも、意外なミュージシャンとの共演でも、外れの心配皆無。いつも、新しい驚きを与えてくれるということを実感した公演だった。渋谷でも名古屋でも、帰り道では、頭の中に「木星」がずっと鳴り続けていたのである。


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「功夫瑜伽 / Kung Fu Yoga」17.12.24

成龍=Jackie Chanの新作を観てきた。中国・インド合作映画である。Jackieのアクションと、御陽気インド映画の化学反応やいかに、と期待していた。個人的には、今年、"Star Wars"の新作よりも期待していた作品だったのだ。しかし…

Jackieが演じる中国の考古学者とインドの美人学者が組んで、宝探しの大冒険という筋書きは、上手く作れば波瀾万丈の物語になるはずだ。しかし、中国×インドの娯楽映画に緻密な構成を求めるのは無理な相談だったようで、展開があまりにも粗っぽい。そのため、映画を観ている最中は、あまりハラハラ・ドキドキしないのだ。敵役と大乱闘していたと思った次の瞬間には、主人公達が縛り上げられているなど、カットのつなぎが滅茶苦茶で、演出以前の問題も多数

もちろん、Jackie映画らしい、アイディアに溢れたアクション・シーンの数々は良く出来ている(そのアクションに必然性があるかどうかは、別問題だ)。ただ、どうしてもJackieの動きの衰えが気になってしまう。実際、最も工夫を凝らしたシーンの一つ、ある動物とのアクション・シーンにはJackieは登場していない。

そして、一番がっかりしたのは、この作品が、あくまでも、インド風味を取り入れた「中国映画」という事だ。私が期待していたのは、中国映画のアクション&資金力と、インド映画の荒唐無稽さ&豪華絢爛な歌とダンスが組み合わさった作品だったのだ。もちろん、取って付けたようにではあるが、歌とダンスのシーンはある。ここは、ボリウッドのスタッフが協力しているという話も聞いたのだが、歌もダンスも、中華風味が強い。

これが、インド映画の方が主で、その枠組みにJackieを取り入れた作品だったら、もっと楽しかっただろうなと、妄想してしまう。



今年もあと1週間。ライヴの予定は、あと1本。別に年が改まるからと言っても、日々は連続している訳で、何かが大きく変わる事も無いのですが、「差し迫った感」がどんどん高まっていく今日この頃です。