IN/OUT (2017.11.12) |
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気がつけば、今年もあと7週間。今年のヒット商品、今年の流行語など、マスコミもそろそろ2017年総括モードになってきました。 最近のIN「神楽坂映画祭2017 ギンレイ・ピアノ映画祭 ギンレイホールにピアノがやってくる!」 (17.11.11)飯田橋駅の近くにあるギンレイホールは、今では珍しくなった二本立て名画座だ。ロードショー公開が終わった作品から厳選した物を二本立てで上映し、一度の入場料金(一般 1,500円)で二本とも楽しめるというスタイルで営業を続けている。私も存在は知っていたのだが、興味のある作品はロードショー公開で、いの一番に観たいタイプなので、これまで足を運ぶことは無かった。しかし、今年の神楽坂映画祭(今年で4回目)は、「ピアノ映画祭」だという。映画館内に、自動演奏対応のピアノを常設した記念として、ピアノにまつわる映画や、サイレント映画に生のピアノ伴奏を付ける上映を行ったりするらしい。ということで、ピアノ伴奏付きのサイレント映画と、(既に10回、映画館で観た作品だが)矢野顕子の「SUPER FOLK SONG ~ピアノが愛した女。~」を観に行くことにした。 期間中、サイレント映画は7本ラインナップされているが、選んだのは「キートンの探偵学入門+隣同士」。サイレント映画時代のスラップスティック・コメディの代表的な役者であり監督でもあったBuster Keatonの作品二本立て。"Neighbors"(1920年)と、"Sherlock,Jr."(1924年)である。 まずは、ピアノ伴奏の柳下美恵さん登場。サイレント映画の伴奏を専門に活動されているピアニストだ。そして、上映開始。"Neighbors"。Keatonは、壁一枚隔てた隣家の娘と恋をしているのだが、家族同士は何かと対立し合っている。という設定から巻き起こるドタバタ劇だ。彼は、舞台芸人の両親の元、子役としてヴォードヴィルの舞台に立っていた。その時に鍛えられたアクロバティックな動きが彼の真骨頂なのだが、この作品でも、三人肩車(というより、肩の上に立っているので、さらに難易度は高い)で、右往左往するシーンなど、物凄い身体能力だ。 ドタバタ・アクションに終始する感じの"Neighbors"に対し、二本目の"Sherlock,Jr."の方は、ストーリー自体が工夫されている。Keatonが演じるのは、映画館の映写技師だが、探偵術にも興味を持っているという設定である。泥棒の濡れ衣を着せられ意気消沈した彼が、夢の中で上映中の映画に入り込み、名探偵「シャーロック・ジュニア」として大活躍するという物語。この、映画の中に入るというアイディアは、後にWoody Allenが"The Purple Rose of Cairo"で使っているが、これを100年前に思いついて、工夫を凝らして映像化したKeatonの才気に驚く。因みに、日本で初めて公開されたときは、このアイディアについて行けず、いまいち意味が分からなかったのかもしれない。結果、「忍術キートン」なる邦題が付けられ、さらに地方に行くと「忍者キートン」と誤植されたまま公開されていたということだ。 さらに、"Neighbors"同様、ヴォードヴィル時代に培ったアクロバティックな動きの見所も多いし、見事なカメラ・ワークや、当時の最新技術「光学合成」を用いる所など、役者としてだけで無く、監督としてのKeatonの実力が全て投入されたような作品だ。 その間、ずっとピアノ伴奏が入っているのだが、画面と一体化していて、あまり、ピアノを意識することは無かったというのが正直な所だった。しかし、上映後、喜劇映画研究会の新野敏也氏が登壇し、Keatonが披露したアクロバットやトリック撮影の解説をして下さったのだが、その際、一瞬、映画のシーンがそのまま映写された。無音で流されたその画面の単調さに、ピアノ伴奏の重要さと、いかに画面に合っていたかを、改めて思い知らされた。 ギンレイホールの、地元に根ざした古き良き名画座という佇まいも好ましく、中々面白い上映会だった。因みに、その後に続けて「SUPER FOLK SONG ~ピアノが愛した女。~」も鑑賞したのだが、上映前には、ピアノが自動演奏モードでBGMを奏でている。これもまた、良い雰囲気だ。 "It" (17.11.11)Stephen Kingの代表作の映画化作品を観てきた。Stephen Kingの"It"と言えば、読んだことは無くても(彼の、過剰なまでにくどくどしい描写が続く文体は、私も苦手だ)、現代ホラー小説の傑作として、誰もが知っている作品名だと私は思っていたのだが、どうやら、今の日本では、そうでも無いらしい。邦題は「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」という、なんだか間抜けなサブタイトルが付いている… 舞台は、米国メイン州の田舎町。そこでは、子供達の行方不明事件が頻発しており、主人公の少年の弟も、その被害者の一人。弟は、下水口に潜む"It"に襲われたのだ。主人公は、友人達(皆、いじめられっ子のはみ出し者)と共に、"It"に挑む、というお話。 "It"は、赤い風船を持った白塗りのピエロとして描かれる。狙うのは主に子供。その子が恐怖を抱く対象に姿を変える能力を持つ。しかし、その姿が見えるのは子供だけで、大人には見えない。いささか、都合の良い設定だが、一見、安っぽく見えるアイディアでも、大真面目に膨らませ、読者の想像を遙かに超えた恐怖に仕立てるのがKingの持ち味。この映画の大ヒット後、全米で、ピエロの仮装をして夜道で人を驚かせるイタズラが流行したそうだが、それほど、このヴィジュアル・イメージは鮮烈だ。 ただし、この映画の魅力は、ホラー要素よりも、少年・少女達の友情と成長だ。特に、父親から虐待を受けている女の子のキャラクターが光っている。えげつないホラー小説を量産する一方で、ノスタルジックな少年の物語も描くのがKing。その代表作が"The Body"(映画化作品のタイトルは"Stand by Me")な訳だが、まさにこの映画は、ホラー・ミーツ・「スタンド・バイ・ミー」という印象。大人達はほとんど登場せず(登場するのは、嫌な大人ばかり)、子供達だけで、子供にしか見えない怪物に立ち向かうのだ。映画の雰囲気としては、"Super 8"と似ている。つまり、私好みの作品だ。 R15+指定で警戒していたのだが、それほどグロいシーンは多くなく、青春映画としてお勧めの一本だ。ただし、映画化されたのは原作のごく一部だけ。大人になった彼らが再び"It"に立ち向かうChapter 2も製作されるのだろうな。 この、一ヶ月早いけどもう年末、という感覚のせいか、文化の日と勤労感謝の日の二つの祝日もある割には、11月って印象に残りづらい月だと思うのは私だけかしらん? |