IN/OUT (2011.6.26)

一気に暑くなってきました。先週、『一時間なんてけちくさい事を言わずに、12時間、昼夜を逆転させるぐらいの「夏時間」を導入されても、個人的には全然OK』なんて書いていたら、ちゃんとした研究で『生活スケジュールの1時間前倒し(いわゆるサマータイム)は、夕方に事務所の空調を若干削減するものの、家庭の空調を大幅に増加させるため、逆効果となる可能性があることが分かりました』という報告が出ているんですね。そりゃそうだろうなぁ。


in最近のIN

"Super 8"11.6.24

J.J. Abramsの新作を観てきた。

例によって、公開直前まで情報を小出しにして期待を煽るのがJ.J.Abramsの作戦なのだが、今回、小出しにされた情報というのが『Steven Spielbergの'70〜'80年代作品へのオマージュである』。「Jaws」、「未知との遭遇」、「E.T.」などなど、リアルタイムで熱狂した世代には、これだけで期待高まりまくりである。しかも、Spielberg御大自身がプロデューサーを務め、物語の背景には、あの「エリア51」が絡んでいるらしい。もう、公開初日に駆けつけるしか無いのである。

見終わってみると、意外にも「大作」とか「巨編」という言葉は似合わない、薄味とすら言える作品だった。大雑把にまとめてしまえば、"E.T."と、"Stand by Me"を掛け合わせて、"Cloverfield"の風味を効かせ、あちこちに、過去のSpielberg作品からの引用と思われるシーンを挿入したという感じである。しかし、SF要素や活劇要素は予想よりも少ない。物語の中心に据えられているのは、胸がキュンとなるような少年・少女の物語で、これが実に爽やかなのである。8mm映画製作に熱中する少年が、事件に巻き込まれ、恋をして、成長する。あまりにもベタベタな演出という気もするが、この甘酸っぱさは、悔しいほど魅力的だ。そして、その甘酸っぱさを最大限に強化しているのが、Dakotaの妹、Elle Fanning嬢の存在感。

ただ、ドラマ部分の掘り下げは弱く、薄っぺらな印象があるし、ラストも、軽すぎる。Spielberg御大の作品のような手応えが無い。ところが、そういった不満は、エンドクレジットで帳消しになる。少年達が劇中で作っていた8mm映画の完成版を映すという憎い演出があり、その8mm映画が本編の映像と見事にシンクロしていて、実に楽しいのだ。結局、新旧映画小僧、SpielbergとAbramsが、自らの少年時代を投影した、個人的な思い入れに満ちた作品だったんだなぁと温かい気持ちになったところで、最後の最後に、劇中で少年達が口ずさんでいた'79年のあのヒット曲が挿入。もう、我々の年代のハートをとことん鷲掴みにする映画なのだった。


"Ming Wong: LIFE OF IMITATION"11.6.25

シンガポール出身の芸術家、Ming Wongの作品を観に、原美術館に行ってきた。

この"LIFE OF IMITATION"と題された展示は、2009年のヴェネチア・ビエンナーレに出品され、審査員特別表彰を受賞し、その後、世界各国を巡回しているものだ。初日に行われた、Ming Wongと、キュレーターのTang Fu Kuenによる対談も合わせて見てきた。

原美術館全体が、映画館のように仕立てられ、入り口近くの展示室では、シンガポール最後の映画看板絵師のインタビューなどが流れている。そういえば、私が赴任した1999年頃は、街中の映画館に、こうした絵看板があったけど、2000年代になると無くなったよなぁと思い出す。他の展示室は、ギャラリーという呼び名ではなく、「CINEMA 1」、「CINEMA 2」、「CINEMA 3」という看板が掲げられ、それぞれ、Ming Wongによるヴィデオインスタレーションが上映されている。また、廊下にはシンガポールやマレーシアの古い映画館の写真が並べられていたりする。

ヴィデオインスタレーションは、Ming Wong自身が何役もこなしながら映画の1シーンを再解釈するという感じの物。対談を聞いて知ったのだが、日本の占領が終わってから独立するまでの期間=1950〜60年代がシンガポール映画の黄金時代で、政治的に混乱したその時代、映画こそが国民を一つにつなぎ止める役割を果たしていたそうだ。中華系の人が劇場を所有・経営し、インド系の人が撮影技師、マレー系の人が俳優、という各民族の特長を活かした役割分担も有ったという。かつて、多重民族・多重言語のシンガポールならではの「国民映画」というものが存在したということに思いを馳せるという展覧会。

映画館に模されたため普段とはすっかり違う館内の雰囲気も、久しぶりに二時間たっぷり聞いたシンガポール訛り英語(国際的に活躍しているだけに、シングリッシュっと呼ぶには、二人ともかなり洗練された英語ではあったが)による作者とキュレーターとの会話も、非常にエキサイティングな展示だった。



全館一律冷房設定温度を高めにしているはずのオフィスでも、席や会議室によって涼しさに差があるようで、「場所取り」がこの夏を乗り切る重要なキーワードになりそうな今日この頃です。