ベストセラー・ミステリの映画化作品を観てきた。
主人公は、アルコール依存症の女性。郊外からロンドン(映画化作品では、ニューヨークに設定変更)へ向かうの列車の窓から見える家と、そこに住むカップルに、過去の幸せだった自分の姿を投影し、妄想を膨らませていたのだが、ある朝、カップルの女性の不倫現場を目にしてしまう。さらに、その女性が失踪したことをニュースで知り、事件に首を突っ込んでいく。
原作小説を、ついこの前、読み終えたばかりだった。とにかく、アルコール依存症の主人公の駄目さ加減が悲惨で、実に面倒くさい人物設定だ。ミステリとしては、語り口こそ工夫されているものの、底が浅く、おそらく、お酒を飲まない人・飲んでも記憶を無くしたことが無い人には、リアリティが感じられず、主人公に対する嫌悪感しか残らない小説ではないだろうか。ただ、形而上的二日酔いを懲りずに繰り返す者にとっては、主人公の女性をバッサリ切り捨てる心情にもなれず、かなりキツい小説となる。
さて、その映画化作品。上下巻に分かれた長大な原作を、巧みに簡略化した脚本は職人技だ。その結果、元々、底が浅い謎解き部分が、さらに浅くなってしまったきらいは有るが、これ以上詳細に語るのは、劇場映画では難しいだろう。
主演のEmily Bluntは、アル中役に果敢に挑んでいると思う。が、昔は美人だったけど、今は、太り気味という原作のイメージからすると、ちょっと美人過ぎて、悲惨さが足りないような気もする。
アル中の主人公だけでなく、犯人や被害者も含め、登場人物のほとんどが、他人に責任転嫁し、自己正当化に走る醜さを抱えているというところが、映像化作品では小説以上にリアルに浮かび上がっているようだ。爽快感とは無縁の映画ではあるが、共鳴できる人にはお勧めの映画である。