IN/OUT (2009.9.27)

五連休。特に遠出の予定のない休みというのは貴重だったので、この機会に溜まっていた掃除やら何やらを片付けようと目論んだものの…


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"Jeff Beck Live at Ronnie Scotts"09.9.19

Jeff BeckがLondonにあるRonnie Scott's Jazz Clubで行ったライヴの模様を収めた作品を映画館で観てきた。

映像作品やライヴ盤をほとんどリリースしていないJeff Beckの貴重な作品を、大スクリーンと臨場感溢れる大音量で試聴するという趣向。映像自体には、Scorseseが撮った"Shine a Light"のような作家性は感じられない、ありきたりのライヴ映像だ。しかし、キャパ200人ほどのジャズ・クラブの狭いステージ上、超絶技巧で弾きまくるJeff Beckの姿だけで、十二分に満足。とにかくカッコ良いのだ。

バック・バンドの演奏力も確かなものだが、やはり注目は紅一点、Tal Wilkenfeld。カメラも、Beck以上にアップを抜いていたその容姿は、元気な女子高生のよう。しかし、プレイの方は、ベテランおじさん達を相手に一歩も引かない堂々たるもの。実に楽しそうに演奏する彼女を見守るJeff Beckの姿が微笑ましい。

今年二月の来日公演を見逃したことが悔やまれるが、あの驚異的な指さばきをアップで、しかも大スクリーンで見られたのは、とても嬉しい。

勢いで、もう一本、元Blind Faithの大物二人が共演した"Eric Clapton and Steve Winwood Live from Madison Square Garden"も続けて観る。TOHOシネマズではこの二本を上映中。ただし、通常の映画よりも料金が高いのが難点。とにもかくにも、シルバー・ウィークの一日、映画館でギター・サウンド三昧なのだ。

しかし、見た順番が悪かった。元々、個人的好みが、Jeff Beck ≧ Steve Winwood > Eric Claptonなのに加え、ClaptonとSteve Winwoodが共演したステージは、Madison Square Gardenの大ステージ。小さなジャズクラブで行われたJeff Beckの圧倒的なパフォーマンスを見た後では、大ステージでの演奏は間延びして見えてしまう。Steve Winwoodの姿に、年齢から来る衰えが感じられるのも寂しい。演奏はもちろん上手いのだが、いまいち訴えかけるものが私には無かった。バックバンドが地味で、Talちゃんのようなキャラがいないのも寂しい。



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"The Limits of Control"09.9.21

Jim Jarmuschの新作を観てきた。

"Lone Man"(登場人物に名前は無く、皆、コードネームで呼ばれている)が、組織の指示を受け「自分こそ偉大だと思う男を墓場に送る」ため、スペインを旅する。行く先々で、"Violin"、"Nude(文字通り、ずっと裸。その意味は語られない)"、"Blonde"、"Molecules(演ずるは、工藤夕貴)"などのコードネームを持つ仲間に遭遇。彼らは、意味ありげな言葉を喋り、マッチ箱に入れた暗号を手渡す。その暗号に従い、旅を続ける"Lone Man"。カフェでは必ずエスプレッソを二杯頼み、携帯電話や拳銃を嫌い、仕事中は禁欲を貫く、ストイックな男である。

ストーリーだけ追えば、ハードボイルドな暗殺ものだ。しかし、物語はあまりにも謎めいている。標的が誰なのか、そもそも標的を狙う理由は何なのか、主人公達はどういう組織なのか、どういう手段で標的に近づいたのか、何も明確に語られない。さらに、撮影監督、Christopher Doyleによる個性的な構図と色彩に溢れた映像が、物語の非現実性をさらに高めている。

おそらく、Jarmuschが意図した答は、エンドロールの後に映し出される一行の言葉に集約されているのだろう。しかし、それを明確に受け取る事は難しい。奇妙な魅力に溢れた映画で、見終わった後も映像が脳裏にこびりつくのは確かだ。傑作まで紙一重という感じもする。しかし、いかんせん、テンポが私には合わなかった。David Lynch作品の切れを悪くしたような印象で、睡魔と戦うのに精一杯だった。

ただし、映像の他にもう一つ特筆すべきが、劇中に終始流れている音楽。歪んだギター・サウンドの印象的なものだが、演奏しているのは日本人ロックバンド「BORIS」。寡聞にして、初めて聞くバンド名だったが、ノイズの中にキャッチーなフレーズも出てくる楽曲は、ちゃんと聴いてみようと思わせるものがある。選曲眼は、さすがJarmusch。



自分の好きなタイミングで五連休が取れるのなら良いけど、そうじゃないなら、三連休が二週続いた方が嬉しかったような気がしないでもない、今日この頃です。