IN/OUT (2009.9.6)

夏の矢野顕子強化月間終了。
仕事の都合で諦めざるを得なかった公演が3本。
敗北感の強い、今日この頃です。


in最近のIN

「東京JAZZ 2009」09.9.4

東京JAZZ 2009、9月4日の夜公演「Gala Night」を観に、東京国際フォーラムへ行ってきた。

一本目は、NHK交響楽団。果たして、クラシックの名門楽団が、ジャズ・フェスティバルでどんな演奏を見せるのか? 会場内にも、アウェイ感が充ちているような雰囲気の中、演奏が始まった。ショスタコーヴィチの「ジャズ組曲」、ゲストに若手ジャズ・ピアニスト Eldar Djangirovを招いて「ラプソディー・イン・ブルー」、そして、ミュージカルのダンス・ナンバーなどを演奏。

もちろん、演奏が上手いのは認めるが、果たしてこれを「ジャズ・フェス」で聞きたがっていた人がどれほどいたのだろう? せっかくの若手ジャズ・ピアニストのゲスト参加も一曲だけで、特にサプライズのある演奏では無かったし、他の曲目も、正統派演奏の枠を越えることは無かった。よく言えば端正な、はっきり言ってジャズらしくないリズムの中、楽団員が「マンボッ!」と掛け声を挙げるぐらいでは、盛り上がる訳が無い。他の状況・場所で観れば、別の感想を持ったかもしれないが、少なくとも東京JAZZのメイン・ステージでは、場違い感はぬぐえず。というか、私には眠いだけだった。

二本目、オランダのボーカリスト、Wouter Hamel。5人のバックバンドに、途中からオランダのジャズ・バンド"New Cool Collective"のサックス奏者 Benjamin Hermanもゲスト出演。

これもまた、ジャズ・フェスのメイン会場でやるパフォーマンスなのか? ジャズと言うより、'70年代の歌謡ショーという雰囲気。それでも後半になると、多少、温まってきたようにも感じたが、ラストの曲では、サビのコーラスを会場と合唱しようとして見事に撃沈。5,000人の会場で、声を出していたのはほんの数十人では無かったか? さらに、アンコールの拍手など起きていないのに、予定調和的に再登場したり。私には、見ていて痛々しかった。まぁ、イケメンなので、ファンの方々は違う感想なのかもしれない。Benjamin Hermanのサックスは、彼の本来のバンドで見てみたいような気はしたが…。

ということで、初めの2/3は、期待外れ。最後の、上原ひろみ × 矢野顕子に期待をかける。

私の席は、最前列()の左手。矢野さんの背後から鍵盤が見える位置で、普段の矢野さんのコンサートなら文句なしの席なのだが、今日に限っては、上原ひろみ嬢の方も見たかった。この角度からは、ひろみ嬢の顔もピアノの陰になってしまう。ステージ両脇には、大型モニターが設置されているのだが、前列過ぎて、角度的に見ることができない。贅沢だと思うが、やはり残念。

さて、演奏が始まった(セットリストは、やのコレ参照」)。一曲目、「そこのアイロンに告ぐ」。前日、NHKのスタジオパークに出演して披露していたが、やはりライヴはTVとは大違いの力の入り方。例によって、ひろみ嬢は足を踏みならし、うなり声を上げ、中腰になり、さらには飛び跳ねながらピアノを叩きまくる。その白熱の間奏中に、なぜか場内の一部で手拍子が…。なんで、あの超絶プレイに手拍子を挟めるのか? その神経が理解できない。他にも、終始、大声を上げ続ける子供を連れた客がいたり。東京JAZZ、客層はよろしくないのでは?

とにもかくにも、圧倒的な手数で音を繰り出すひろみ嬢に対し、矢野さんもひるむことなく受け止める。手数ではなく、絶妙の間合いと、ヴォーカルとの合わせ技で。もう、この掛け合いが、「会話」と例えられるような緩いものではなく、かといって「バトル」という刺々しさもなく、とにかく熱い。二人の信頼に裏付けられた熱さが、ガンガン伝わってくる。間奏だけで、30分ぐらい演奏を続けてもらいたいぐらいだ。

そして、私にとって、この日の白眉は、三曲目「Evacuation Plan」。矢野さんの新譜の中で、一番気に入っている曲なので、これを共演曲に選んでくださっただけでも嬉しかったのだが、もう、その演奏たるや、とにかく凄まじいテンション。圧倒されまくった。本当に、生で聞くことが出来て良かったと思わせる演奏だった。

その後、ひろみ嬢の超絶技巧によるソロと、矢野さんのソロが一曲ずつ。矢野さんは、大ホール仕様の「BAKABON」。小さな会場での演奏に比べ、ピアノ演奏、歌唱、アレンジに力強さ(と、分かりやすさ)があると思う。矢野ファン以外も多い場内からは、冒頭の「これでいいのだ」という歌詞に笑いが起きたが、最後まで聞くと、良い詞、良い曲なのだ。

再び、二人のデュオとなり、本編ラストは「ROSE GARDEN」。近年の矢野さんのライヴでは定番となっている曲で、時にはソロで、あるいは様々なミュージシャンとの共演で、いつも新鮮な驚きのあるアレンジを聞かせてくれているだけに期待大。ひろみ嬢は、ピアノの弦を、鍵盤ではなく直接指で弾いてベース音を出すなど工夫していたが、全体としては予想の範囲内という感じ。期待が大きすぎたかな。

アンコール一曲目は、上原ひろみ作詞・作曲の「Green Tea Farm」を、彼女のピアノと矢野さんのスタンディングのボーカルで聞かせる趣向なのだが、冒頭、やけにイントロがだらだら続く。と思っていると、「すいません、歌詞、忘れました!」と、アッコちゃん節炸裂。駈け寄り、耳打ちするひろみ嬢。その後、無事に演奏スタート。

アンコールラストは、「So What」からそのまま「ラーメンたべたい」になだれ込む怒濤の演奏。これは、文句なしにカッコ良し。スタンディング・オベーションで、全て終了。

贅沢を言えば、二人の共演は、お互いのソロ・パートも含め、もっとゆったりと時間を取ってもらいたかった。やや、せわしなく流れてしまった感がある。また、この日の三組の組み合わせ自体に不満もあるし、私には場違いに感じられた手拍子や騒ぐ子供なども残念。しかし、矢野×上原の熱い演奏で、全て帳消し。これでいいのだ。



仕事多忙の中、周囲に色々と迷惑もかけながらの東京JAZZ参戦で、あの後半1/3を体験できたことは大感謝なのですが、やはり、前半2/3については残念。一方、翌土曜日の夜公演には、Tony Levin、Steve Gadd、David Spinozzaなど、私の好きなプレイヤーが参加しているL'Imageが出演。さらなる挽回を企み、当日券目当てで会場まで行ってみました。

が、見事に完売。完敗。ま、矢野×上原と、ブルーノート東京で見た矢野×Will Lee & Chris Parkerで、夏の思い出としては十分か。