IN/OUT (2005.2.13) |
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今年の旧正月は、ラオスに行ってみました。積極的な動機というよりは、近隣諸国で、まだ行ったことがなくて、軍事政権じゃなくて…、という消去法で選んだ結果。果たして… 最近のINLaosの旅 (05.02.07-05.02.10)Laos(正式には、"Lao People's Democratic Republic")は、タイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、中国と国境を接する、東南アジア諸国の中では唯一、海に面していない内陸国で、24万平方キロの国土に、550万人の人々が暮らしている。1300年代に王国として統一され、1899年にはフランス領に。第二次大戦後の動乱・内戦の後、1975年、人民革命党を指導党とする社会主義政権が樹立した。その後、しばらくは鎖国に近い状態が続いたが、1986年から、市場経済の導入、開放経済政策が推進され、1990年代初頭からは、海外からの観光客の受け入れも始まった。 主な産業は農業・林業と、豊富な水資源を利用した水力発電(この電力はタイに送電され、重要な「輸出品」となっている)。一人当たりGDPは365米ドル(2002年)で、東南アジアの中でも最貧国の一つだ。 観光地としては、町全体が世界遺産に登録されている古都、Luang Phabang(旧称 "Luang Prabang" の方が一般的)が有名だが、今回は日数が限られている中、あまり下調べ・準備に時間を取れなかったので、首都 Vientiane(ビエンチャン)だけの訪問である。 2月7日
シンガポールからビエンチャンへの直行便は無く、バンコク経由で行くことになる。旧正月休み前の最後の出勤後、夜の飛行機でバンコクに22時過ぎに到着。翌朝、早いフライトなので、空港近くのAmari Airport Hotelを予約しておいた。 空港ターミナルから陸橋を渡れば、そこがホテル。徒歩5分。非常に便利だが、その分、宿泊料は高い。WWWで予約をしたが、一泊US$153。部屋は十分に広くて清潔だが、いささか古びてくたびれた感じもある。旅行者の足元を見た料金設定と言えるだろう。 2月8日
早朝、チェックアウト。朝、8時15分発のフライトなので、空港ターミナルまで徒歩5分というアクセスの良さは、やはりありがたい。 実質一時間弱のフライトで、ビエンチャンのWattay International Airportに到着。ゲートが三つだけの小さな空港だ。事前にVISAを取得していなかったので、まずはVisas on Arrivalの窓口に並ぶ。ほとんどの旅行者が、空港でVISAを取得するらしいので、飛行機を降りるとダッシュで窓口に向かったのだが、それでも行列ができていて30分ほどかかってしまった。US$30でVISA取得後、イミグレーションを通り、ようやく外へ。ここで、予約していた Lao Plaza Hotelの出迎えを受け、マイクロ・バスでホテルへ行く。 昨年開催されたASEANサミットに合わせ、高級ホテル Don Chan Palaceがオープンしたが、それまでは、このLao Plaza Hotelがビエンチャン随一の高級かつ大型ホテルだったそうだ。e-mailで直接予約交渉をしたが、一泊US$80。市内のゲストハウスが大体US$10程度。ホテルと名の付く宿泊施設でもUS$30ぐらいがほとんどなので、非常に高い。が、二泊しかしないのだから、これぐらいの贅沢は良いだろう(本当は、さらに高い、Settha Palaceを狙っていた。部屋数29のお洒落ホテルだが、予約が既に満杯だった)。四つ星ホテルにしてはバスルームが貧相だが、ミニバーも充実しているし、TVではNHKも視聴できる。 一休みしてから、町に出てみる。ビエンチャンの人口は13万人程度。町の中心部でも、5階建て以上の建物はほとんど無い。漢字の看板を掲げた店も多く、中華系の商売人が活躍しているようだ。 公共交通機関としては、三輪タクシーがあるし、貸し自転車や貸しバイクを利用している観光客も多いが、ビエンチャン中心部は極めて狭いエリアなので、暑ささえ我慢できれば、徒歩で十分だ。しかも、目抜き通りと思しきところでも車の通行量が少ない上に、のんびりしたラオスの人達は、ベトナムやタイのような荒っぽい運転はしない。バイクが歩行者に道を譲ってくれる!という、東南アジアの都会としては信じられない状況で、歩きやすい。 町を歩いて目に付くのは、白人観光客の多さだ。ビエンチャン市内の観光名所の質・量からすれば、異常とも言えそうな多さなのだ。そして、彼らを狙ったゲストハウス、こぎれいな食堂(フランス料理やイタリア料理を出す店も多い)、インターネット接続屋が、町中、いたるところにある。個人旅行者には、非常に便利な町である。 ココナッツ・ミルク風味の海老スープと、ベトナム風焼きそばの昼食後、lonely planetに掲載されている"Walking Tour"のルートに沿って歩いてみる。Lane Xang Hotelからメコン川沿いの遊歩道を歩き、Haw Pha Kaew(ガイドブックによっては"Wat Ho Phakeo"と表記されている)。現在では、バンコクのエメラルド寺院にあるエメラルド仏が、かつては安置されていた寺院らしい。元々は1563年の建立だが、今の建物は1942年に修復された物。その割には、保存状態が良いとは言えない。 続いて、Wat Si Saket。1824年に建立された寺院で、本堂を取り囲む回廊の壁一面に、くぼみが彫られ、その一つ一つに仏像が鎮座している。全部で一万体を超える仏像があるそうで、それなりに見応えがあったが、こちらも保存状態は悪い。 2時間半ほど歩いて、ホテルに引き上げ、部屋でラオス製ビール"Beer Lao"を飲みながら休憩。夕方、再び町に出る。メコン川(乾期で、水はほとんど見えなかった)沿いの土手に、ずらっとプラスチックの椅子とテーブルが並び、屋台が出店し、外国人観光客だけでなく、地元の人達でにぎわっている。 大音量のディスコ音楽が聞こえてきた。川沿いに、大きな屋根の付いた広場があり、ステージ上のインストラクターらしき人に合わせて体を動かす人々。形としては、野外エアロビック・ダンス教室だが、参加者の風体と、もっさりした動作からは、ラジオ体操?という雰囲気も漂ってくる。静かなビエンチャンでは異様とも言える光景に、多くの外国人旅行者が足を止めている。 うるさい音楽から逃れ、静かな店で、夕食。ベトナム風揚げ春巻きと、牛肉をタマネギ、トマト、パイナップル、パセリと一緒に煮込んだ料理。そして、Beer Lao。 食後、看板に惹かれ、"Laos Tradition Show"を見に行く。入場料 US$7。主催が、"Ministry of Information & Culture"で、会場は、"National Theater"。一応、立派な国営のショーのはずだが、この「国立劇場」、見た目は普通の一軒家である。その二階の広間に、観客は私を含めて三人…。ラオスの民族舞踊、楽器演奏、歌唱など、1時間で12の演目が披露される。タイや中国の影響を強く感じる舞踊に、芸術的な洗練や、目を見張るような動きを感じることは無かったが、ラオスらしい素朴さに溢れ、印象は悪くない。 最後の出し物は、ラオスの伝統的結婚式の様子を寸劇仕立てで見せてくれる。観客の我々にも、健康と幸福を祈る風習である白いひもを手首に結んでくれ、祝いのウィスキーが振る舞われる。そして、最後、結婚祝いのダンスでは、女性ダンサーが会場の男性を踊りに誘う。 三人の観客のうち、一人は女性だったので、確率は1/2。当然、見る目の高い美女ダンサーは、迷わず私に手を差し伸べたのである。 市内には、ラオスの民族舞踊を見ながら食事ができるレストランが何軒かあるようだが、そんな商業主義に堕した見せ物ではなく、心ある観光客は、是非、この"Laos Tradition Show"に足を運んで頂きたいと、美女ダンサーに選ばれた私は思うのである。この観客の少なさは毎晩のことらしいのだが、その少ない観客のために、パフォーマーもスタッフも笑顔で全力を尽くしてくれる姿が、ちょっと良い感じなのだ。 さて、ホテルの地下には、"Blue Note"と名乗るパブがあるとのことで、そこも覗いてみたのだが、何のことはない、いわゆるKTV Loungeだった。ラオスにもこんな不健全な場所があるのかと思ったが、23時で閉店するところが、妙に健全ではある。大体、ビエンチャンでは、ナイトクラブと名乗るような店でも23時頃には閉まってしまうらしい。 2月9日
午前中のまだ暑くならないうちに、ホテルを出発。Patuxaiへ。凱旋門風の建造物だが、元々は戦没者慰霊塔だそうだ。階段で上まで登ると、市内を一望することができる。 本当に何もない町なので、なんら見応えのある景観では無い… そこからさらにずんずん歩く。緩い上り坂の両側には、各国の大使館や政府の省庁が立ち並んでいる。 坂を登り切ると、ラオスを代表する建造物。Pha That Luangに着く。一辺、85mの正方形の壁の中、黄金に輝く仏塔群がそびえている。中央の塔は高さ45m。形状自体は複雑で興味深くもあるが、黄金一色という塗装が微妙にチープ感を煽っているかも。沢山の旅行者が訪れていたが、なんだか素っ気ない見せ方だと思う。もう少し、海外からの観光客を意識したサービスを充実させていただきたいところだ。年に一度、ラオス中の僧侶と善男善女が集まるお祭りが開かれる国民的信仰の場なので、あまり悪く言うのは失礼だとは思うが… 坂道を引き返し、Talat Sao(Morning Market)を冷やかしてみる。国営デパートも入居しているビエンチャン最大の商業施設だ。織物好きの人には楽しいかもしれないが、あまり私は興味を引かれることも無かった。なお、「国営デパート」の規模については、「国立劇場」がただの一軒家だったことから推して知るべし。 ついでに、ASEANサミットのために作られたという五つ星ホテル、Don Chan Palaceまで足を伸ばしてみる。ビエンチャンでは超高層ビルと言える14階建て。立派だが閑散としたロビーに入り、パンフレットをもらった。一番安いシングルで、一泊US$130から。町の中心からは少し離れた、観光客が泊まるには不便なロケーションで、この値段。静かな訳だ。外国政府の要人や、ビジネス目的で訪れる大企業のエグゼクティブを客層として想定しているのかもしれないが、そんな人達がどれほどビエンチャンを訪れるのだろう? 実際に訪れる外国人は、バックパッカーか、国連・その他援助団体といった「節約派」が大半のはずである。他人事ながら、ホテルの将来が心配だ。 町の中心まで、てくてく歩き、昼食に、Làap Beefと、Beer Lao。Làapは、代表的ラオス料理の一つで、挽肉と香草などを炒めたもの。これに、蒸した餅米が付いてくる。餅米の入った竹かごの容器が可愛い。あまり癖が無く食べやすいが、かなり辛い。 午後は、ホテル内で、Lao Traditional Massageというのを試してみた。残念ながら、ラオス独特の秘術があるわけではなく、至極普通のマッサージだったが、歩き疲れた体には心地よく、満足。2時間でUS$16。 最後の夕食は、南フランスの田舎料理が主体のビストロへ。フランス植民地時代の遺産か、この手のビストロは多い。アスパラガスのスープと、豚肉のソテー。Beer Laoと赤ワイン。豚肉のソテー自体、しっかりした味付けでおいしかったが、付け合わせが5種類もあり、非常に満足度が高い。これで、129,000Kip=大体13ドル。ラオスでは非常に高い値段だが、コスト・パフォーマンスは申し分無し。食後は、オープンエアのカウンターバーで、スコッチ・ソーダ。さくっと飲んで切り上げるつもりだったが、隣に座った白人が、シンガポールのドイツ大使館員だった。ラオスのドイツ大使館に定期的に来ているそうだ。シンガポール話などで盛り上がってしまい、結局、23時ぎりぎりまで。 2月10日
朝9時。ホテルのシャトルバスで、空港へ。出国時に、空港利用料 US$10。乗り継ぎもスムーズで、問題なくシンガポール到着。 初めてのラオスの印象は、「何も無い」。それなのに多くの白人旅行者が訪れているのは、まさにこの「何も無さ」が心地よいからだろう。何も無いことに加え、ラオスの人々の素朴さが、旅行者をリラックスさせてくれるのだ。 実際、東南アジアとは思えない、のんびりした雰囲気だ。積極的な客引きをしない三輪タクシーの運転手。店の前でメニューを睨んで迷っている旅行者に声をかけない店員。土産物屋でも、押しつけがましく話しかけてくる店員はいない。しかし、観光客に冷淡な訳ではない。話しかければ優しい笑顔で応えてくれる。人が集まる観光名所の近くに、売店が立ち並ぶことも無い。商業主義、拝金主義に毒されていない、いまや貴重な場所と言えるだろう。 社会主義国であること、海外からの旅行者を受け入れるようになってから日が浅いこと。貧しい国だが、飢餓に苦しんでいる訳ではなく、極端な貧富の差があるとは思えないこと。人口が少ないこと。これらの要因が、のどかなラオスの雰囲気を形成しているのだと思う。 今後、ラオスが観光産業を発展させようとするなら、その舵取りは難しいだろう。観光客が増えれば、いかにのんびりしたラオスの人達とはいえ、商魂に目覚めてしまうだろうし、それでは「のどかなラオス」という魅力が無くなってしまう。かといって、のどかさ以外に、タイやベトナムといったライバル以上のアピール・ポイントを作り出すのも難しそうだ。 刺激を求めてアジアを旅する人達には、あまりお勧めできる国では無いかもしれないが、リラックスすることを目的とした私には、好印象の国だ。良い休暇だった。 因みに、ラオスの通貨はKipだが、米ドルとタイバーツが普通に通用する。わざわざ入国時にKipに両替しなくても大丈夫だが、物価の安いラオスで、ドルやバーツの高額紙幣を使うと煩わしいこともあるので、小額紙幣を大量に用意するか、少しはKipに両替するのがベターである。 ラオス正月は4月なので、ほとんど旧正月の影響は無し。一部の中華系の人が経営する店で、中華獅子舞が披露されている程度でした。が、シンガポールに戻ってくると、まだ旧正月の二日目(二日間が祝日)。それでも、ちらほら開いている店があって、夕食の確保に問題はありませんでした。ちょっと前まで、旧正月期間は、下手すると飢え死にするのではと思うぐらい、あらゆる店が閉まっていたのですが、最近ではスーパーにしても食堂にしても、結構、店を開けるようになってきたようです(この辺、日本の正月事情と似ている)。 とは言っても、多くの店が閉まっているわけで、町中のがらんとしたショッピング・モールでは、途方に暮れた様子の外国人観光客もちらほら。彼らを見て、二年前に行ったベトナムが、やはり旧正月=テトを祝う国で、いささか寂しかったのを思い出しました。 |