Paul Verhoeven監督の新作。透明人間が登場するスリラーである。
昔懐かしのお馴染みSFネタの中でも、透明人間というのは、かなり無理のある設定だろう。第一、ガラスのような透明なものでも、光を反射したり屈折させたりするため、目に見えるのだ。完全に不可視な固体って、存在しないんじゃないだろうか? さらに、もし、人体の全てが光を素通りさせてしまうなら、網膜が光を捉えることができず、透明人間は目が見えないはずである。
ということで、透明人間ネタ、というのは、B級映画で理屈抜きに楽しむにはいいけど、正面切ったSF大作だと辛いんじゃないかと思っていた。が、そこは、わざわざ巨額の製作費を費やしてBテイスト溢れる題材を映像化することにかけては天才監督、Paul Verhoevenだ。映画の冒頭から、何の説明も無しに、生体を不可視化する動物実験は成功済みなんである。研究段階は先へ進んでいて、いまや、不可視化された生体を、どうやって元通り、目に見えるようにするか?の方が大問題になっているという設定。逆転の発想というか、見事なはぐらかしである。
この、いきなりの捻りで始まった映画の前半は、先の展開が読めず、それなりに怖いんだけど、どうも、話の進行がもたついている。一方、後半は、毎度お馴染み、閉鎖された空間(この場合は、セキュリティ・システムによって外部と隔絶された研究施設)での、怪物との追っかけっこ、に堕してしまう。それも、時限爆弾付きという、使い古されたAlienパターンである。ストーリー的には、なんとも観るべき所のない映画だ。Kevin Baconが、天才科学者からマッド・サイエンティストへ変貌していくところも、なんせ透明人間だけに、表情で見せる訳にはいかないのだから、もう少し丁寧な描写を積み重ねてもらいたいところだ。
しかし、ちょっとした小道具に対するこだわり(爆薬なんかあるはずがない研究施設に、どうやって時限爆弾を設置するか?等々)や、監督独特の、冷たい硬質の絵作りなどには満足だし、何より、生体が、可視化、あるいは不可視化していくプロセスの特撮画面がすごい。ここのアイディアだけで、十分、8ドルの元は取れた。