Thomas Harrisによる「レクター博士シリーズ」三作目。前二作が面白かったので期待したのだが、駄目駄目。
一作目の「レッド・ドラゴン」は、『プロファイリング』を用いて連続殺人鬼と対決するFBI捜査官の活動を、極めてリアリティのある筆致で描きつつ、囚われの身でありながら捜査に多大な影響を与える『怪物』レクター博士を絡め、やや冗漫なきらいはあるものの、とてもスリリングな作品だった。当時は『プロファイリング』という手法が一般には知られていない頃で、その捜査方法だけでも興奮したものだ。続く「羊たちの沈黙」も、猟奇連続殺人事件を追うFBI捜査官にレクター博士が絡むスタイルを踏襲しているが、彼が物語の中で占める役割がぐっと増えている。映画化された作品も大ヒットした(もっとも、私はこの映画はそれほど評価していない)。そして、三作目。ついにレクター博士、堂々の主役である。
三部作の流れから言って、レクター博士が中心になるのは仕方ないだろうが、やはりこの人物は、脇でこそ光るキャラクターなんだと思う。連続殺人事件の捜査という本筋に、獄中の博士がどのように絡んでくるのか、が興味深いのであり、また、身体的自由を奪われているからこそ、彼の「怪物性」が引き立つのだ。しかし、前作でレクター博士は脱走に成功しており、もはや囚われの身では無い。物語も彼を中心に動いていく。その結果、彼の行動も怪物性も、もはや全然意外じゃ無いのである。「不気味な怪物」が「ただの超人的性格異常者」になってしまっている。このつまらなさは、わさびが単独では寿司ネタとして成立しないような感じ。
一方、ヒロイン、クラリス・スターリングの運命も、まったく予想通り。自らの創作人物に対して極めて冷淡だと思われるThomas Harrisが、7年後、という設定の本作で、一人前のタフなFBI捜査官に成長した彼女の大活躍なんか描くわきゃ無いのだ。
と、長々と文句を書くのは、やはり、それなりに読ませるところのある小説だったからで、Ridley Scott監督による映画化は楽しみではある。残念なのは、Jodie Fosterがクラリス役から降りてしまったこと。「羊」に続いて出演してくれれば、「Alienシリーズ」におけるRipley = Sigourney Weaverに匹敵する「受難ヒロイン」として名を成せたのに...