IN/OUT (2025.1.19) |
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30年間。歴史の本では一瞬でも、実際には色々な事が起こり、変化するものだなと実感する、今日この頃です。 最近のIN「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子 – ピュシスについて」 @ アーティゾン美術館 (25.1.13)石橋財団コレクションの名作と現代アーティストが共演する、アーティゾン美術館の恒例企画「ジャム・セッション」。今回の現代アーティストは、毛利悠子。昨年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表を務めた作家だ。展覧会タイトルの「ピュシス」とは、「自然」を意味するギリシャ語。
展示室内に足を踏み入れると、マッド・サイエンティストの怪しげな装置のような作品が並ぶ。 こちらは、映像と共にスピーカーから流れる波の音をマイクで拾い、アルゴリズム変換し、波を模倣した音をピアノで鳴らすというインスタレーションと、 Claude Monetの海を描いた作品がセッション。 こちらは、スキャナの上にチュール生地が下げられ、そこにサーキュレーターで風が当たっている。この状態でスキャナが作動し、上部のモニターに映像が映されるという趣向。 その他にも、ピタゴラスイッチ風味も感じるギミックに満ちた作品が多数。風・光・重力・磁力といった諸現象をセンサーで読み取り、それを目に見える動きや耳に聞こえる音に変換するという工夫が基本となっている。ランダムに変化する光や音が満ちた会場は、人工物に変換された「自然」に溢れていると言えるのかもしれない。 …などと愚考するのだが、どの作品にも、詳細な説明は付いておらず、自分であれこれ頭を捻る必要がある。それが、とても興味深く、楽しい。非常にエキサイティングな展覧会だ。 「ひとを描く」 @ アーティゾン美術館 (25.1.13)アーティゾン美術館で同時開催されている、古代ギリシア陶器と近代ヨーロッパの絵画作品などを通じて、人物表現の豊かさを紹介するという展覧会も観てきた。 コレクション展なので、Édouard Manetの「オペラ座の仮装舞踏会」、Berthe Morisotの「バルコニーの女と子ども」、Eugène Boudinの「トルーヴィル近郊の浜」など、過去、この美術館で観たことがある作品がほとんどではある。 Renoirの「少女」、「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」、Andre Derainの「ヴァイオリンを弾くヴラマンクの肖像」など、有名作も多数。 人物画に焦点を当てるという企画意図は興味深いとは思うのだが、もう一つ、インパクトには欠けるきらいはあったかな。 なお、オーディオ・ガイドは無料。と言っても、この展覧会用に新たに録音された物では無い。この美術館には主要作の解説がストックされているのだ。オーディオ・ガイド有りの印が付いている作品をアプリで撮影すると、該当するガイドが自動的に検索され、再生できるという仕掛けになっている。これは、中々良く出来ている(が、この展覧会独自の切り口での解説になっていないのは残念)。 「九龍城寨之圍城」 (25.1.17)香港で史上最大のヒットとなったアクション映画を観てきた。英語タイトルは”Twilight of the Warriors: Walled In”、邦題は「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」 舞台は1980年代の九龍城寨(これが正式名称らしいが、個人的には「九龍城」の方が馴染みがある)。私は、まさに、この時代、啓徳空港でトランジットした際、空港外に出て、九龍城の近くまで観に行ったことがある(さすがに、中に入る度胸は無かったが)。水平方向だけで無く、垂直方向にもそびえ立つスラム街という外観は、まさに魔窟という雰囲気で、いまだに強く印象に残っている。 主人公は、不法移民として香港に流れついた青年。黒社会のボスに逆らい、九龍城寨に逃げ込んだ主人公は、この魔窟を束ねるクールな男と、彼を兄貴と慕う若者達に受け容れられ、この場所に安らぎを見いだす。しかし、ここで30年前に起こった激しい抗争の因果が巡り、再び、九龍城寨は戦場に!というお話。 大ヒットも納得の超絶大傑作だ。大掛かりなセットから、ちょっとした小道具など細部への拘りまで、1980年代の香港が放っていた熱気が見事に再現されている。そして、中だるみの一切無い、テンポの良い語り口で展開するストーリー。激しいアクション・シーンが連続するのだが、それが、物語のリズムを削ぐこと無く、むしろ、加速させているのは、本当に巧みな演出だ。 全編、凄まじい熱量に溢れたアクション大作だが、この映画の本当の素晴らしさは、バイオレンス描写の激しさにも関わらず、見終わって、とても爽やかな気分になれるところだろう。30年前の第一次抗争世代(古天楽 / Louis Kooの渋さと、洪金宝/Sammo Hungの存在感!)から、主人公ら若者世代(林峯/Raymond Lamを筆頭に、皆、カッコ良し)へ、時代が引き継がれる様の描き方が、実に後味良いのだ。 さらに言えば、この物語のベースには、やがて九龍城寨は取り壊され、香港は中国に返還されるのだという無常感も感じられ、それがまた、映画の奥行きを増している。大お勧め作だ。 先週は、もう一本、ブルーノート東京で大江千里のトリオ公演を観る予定だったのが、仕事の都合で断念。デビュー時のことは色々知っていたものの、いつの間にか米国移住し、ジャズ・ピアニストになってからはノーチェックだったので、この機会に観ておきたかったのですが、残念。 |