IN/OUT (2024.6.9)

ブルーノート東京と言えば、伝票代わりの、座席番号が押印されたレコード型のコースターが名物でした。しかし、今回訪れたら、ICカードに替わっていました。恐らく、レジ作業の効率化とかコスト削減とか、そういう時代の流れだと思いますが、ちょっと寂しい。


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"ANDREA MOTIS "Temblor"" @ ブルーノート東京24.6.7

ブルーノート東京スペイン・バルセロナ出身のシンガー&トランぺッター、Andrea Motisのライヴを観に、ブルーノート東京に行ってきた。

私は、彼女のライヴは初参戦。エレクトリック・サウンドも含む、様々な編成で活動しているそうだが、今回は、Christoph Mallinger(ギター、ヴァイオリン、マンドリン。そして、彼女の夫)と、Zé Luis Nascimento(パーカッション)とのアコースティック・トリオでのパフォーマンスだ。

1曲目、カタルーニャ民謡「El Cant dels Ocells(鳥の歌)」。Christoph Mallingerのヴァイオリンから演奏スタート。エフェクターをかけた、独特のサウンド。そこに、Andrea Motisのヴォーカルが乗っかり、やはり、エフェクターを通したパーカッションが加わる。トラディショナルな曲を素直な声質で歌うのだが、バックが前衛的なのが面白い。最初の曲は、Andrea Motisは歌唱のみだったが、3曲目あたりから、間奏でトランペットも演奏。クールな音色の、パワーよりも雰囲気重視の演奏だが、中々の味わい。

ストリングスのChristoph Mallingerと、パーカッションのZé Luis Nascimentoが、とにかく器用。特に、4曲目の、たっぷり時間をかけたパーカッション・ソロが楽しい。私の席が近かったこともあり、様々な楽器や、ぱっと見、へんてこりんな物体群から、次々と音を繰り出す様が、見飽きない。そこから、ストリングスとヴォーカルが入ってからの展開は、ちょっとプログレ味もあるカッコ良さ。

本編最後は、まさかの「真夜中のドア(松原みき)」。曲紹介を聞いて、それまで演奏していたクールな曲とは雰囲気が違うし、この3人編成で大丈夫か? という不安がよぎったのだが、なかなかどうして。全編、ちゃんと日本語で歌うAndrea Motis。間奏のトランペットもバッチリ。バックの2人の器用さも見事にハマっている。もう1曲、アンコールで、シューベルトの「An die Musik(音楽に寄せて)」をしっとりと披露して、全編終了。

クールな音なのに、しっかり心の深い所を揺さぶるような音楽は、”Temblor”(スペイン語で「揺れ」とか「震え」の意味)というプロジェクト名通り。今後も要チェックのミュージシャンだ。


"The Unlikely Pilgrimage of Harold Fry"24.6.8

英国のベストセラー小説の映画化作品を観てきた。邦題は「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」。原作者のRachel Joyceが脚本を手掛けている(小説の邦訳本のタイトルは「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 」)。

主人公の Harold Fryは、ビール工場を定年退職し、英国南部の町で暮らす65歳。彼の元に、北部のホスピスに入所している元同僚の女性から別れの手紙が届く。返事の手紙をポストに投函しようと家を出るが、ちょっとしたきっかけで考えが変わり、そのまま彼女に会うため ホスピスまで徒歩で向かうことを決める。その距離、800Km。自分が歩き続ける限り、彼女も生き続けると信じて。

粗筋だけだと突拍子も無い話だし、初老の男性が歩くだけの地味なシーンが多い映画だが、過去の思い出のインサートが随所に入り、主人公が抱える秘密、そして、彼が元同僚女性に会おうとする本当の動機が徐々に明かされていく構成で飽きさせない。彼が遭遇する偶然の出会いのエピソードも味わい深い。そして、要所要所で現れる光を効果的に使ったメッセージ性の強い画面が、鮮烈な印象を残す。色々と、技巧を凝らした演出だ。

ラストは、過剰に感動的になることはなく、適度にほろ苦い落としどころで、しみじみさせ、最後に現れる光が、小さくとも確かな奇蹟を示す。素敵な余韻が残る小品だ。

なお、旅の途中、犬ちゃんが登場し、このまま犬映画の側面も強調されるのかと思いきや、意外な犬の振る舞いは、英国式ひねくれユーモアだろうか。


「O型新人 feat. りっちゃん」 @ Live Cafe & Bar 赤坂Roman24.6.8

赤坂RomanO型新人のライヴを観に、赤坂Romanに行ってきた。メンバーの中園亜美(Sax)、竹田麻里絵(Pf & Keys)、芹田珠奈(Bs)、全員の血液型がO型というバンドである。そこに加わるのは、ゲストのりっちゃん=川口千里(Dr)。ただし、彼女はB型。

彼女らは全員、The Jazz Avengersのメンバーで、O型新人は、その派生ユニットにあたる。ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラでお馴染みのドラマー、川口千里を中心に結成されたThe Jazz Avengersは、サックス 4人 + ギター + ピアノ + ベース & ドラムスという編成で、私が、今、とても気になっているバンドである(正直、バンド名は如何なものか…という気もしているのだが)。最近、ニュー・アルバムが出て、ライヴも予定されているのだが、その本体を観る前に、派生ユニットの方を観る機会に恵まれた。

会場は、今回、初めて訪れる赤坂Roman。ビルの地下二階にある、収容人数 最大40人の、極めて小規模なライヴ・スペースだ。もちろん、私が陣取った客席一番奥のスツール席からでも、ステージまでは至近である。

演奏は、David Sanbornの"Snakes"からスタート。メンバー一人一人が、たっぷりソロを取る 20分間の熱演。その後は、中園亜美、川口千里、芹田珠奈、それぞれの作品が演奏されるが、やはり、どの曲でも、ソロ・パートがたっぷり。また。何を演奏するかは、MCも務める中園亜美がその場で決め、その場で合わせる(ゲスト扱いの川口千里の所に、演奏候補曲のリストと楽譜が送られてきたのは一昨日だったとの事)。

彼女ら曰く、The Jazz Avengersのライヴがショーアップされてきた結果、ゴリゴリのソロやアドリブの機会が減ってきたのが不満。その鬱憤を晴らすべく立ち上がった派生ユニットであり、今回のライヴだとの事。それも納得のパフォーマンス。若手とは言え、皆、経験豊富な手練れのミュージシャンだけに、つくづくカッコ良い。そして、ごひいきの川口千里、例によっての超高速ドラムスを小規模な小屋で堪能出来るのは至福。

赤坂Roman最後は、The Jazz Avengersの代表曲”Unite”で全編終了。4人とも素晴らしい演奏だったが、特に、川口千里と芹田珠奈の強力リズム隊を体感すると、本家、The Jazz Avengersのライヴを、なるべく早く観たいものだと切望するのである。



ビルボードライブやコットンクラブが、入場時のスタッフによる座席案内を撤廃し、座席でスマホオーダー&決済できるようにしたりしている中、何でもかんでも効率化しなくても、旧態依然のクラブが残るのも良いと思うのですけどね。