IN/OUT (2020.11.29)

目の前を歩いていた老人二人。足取りも覚束ず、70代後半以上と思われるお歳ながら、聞こえて来た会話は、
「禰豆子ちゃんって、竹を咥えてますなぁ」
「そうですなぁ。あれがボールだったら、意味が変わってきますなぁ」

鬼滅ブームも凄いが、「ボール」って…。お爺さん、只者じゃないな。


in最近のIN

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」@東京都現代美術館20.11.28

東京都現代美術館アートディレクターとして世界を舞台に活躍した、石岡瑛子(1938-2012)の全仕事を総覧する展覧会を観に、東京都現代美術館に行ってきた。

彼女は、1961年に資生堂に就職。すぐに大ヒット広告を手掛け、退社後は世界を舞台に活躍。米国でアカデミー賞(1993年 『Dracula』衣装デザイン賞)とグラミー賞(1987年、Miles Davis『TUTU』のアートワーク)の両方を受賞している。「女性」であること、そして「日本人」であることから課される先入観や枠に対して戦い続けた人という印象がある彼女の発言から取った、展覧会のタイトルがカッコ良い。

場内は、
・ キャリアの初期、資生堂、パルコ、角川書店などの広告を中心に紹介する「TIMELESS:時代をデザインする」
・ 1980年代に入り、Miles DavisのアルバムのアートワークやFrancis Ford Coppolaの映画美術などに活躍の場を拡げた時代を紹介する「FEARLESS:出会いをデザインする」
・ オペラや映画、サーカスやオリンピックの衣装など、大規模なプロジェクトの中で自分のイメージを具現化し続けた後半生の仕事を紹介する「BORDERLESS:未知をデザインする」
の三部に分かれている。

第一部から、もうお腹一杯になる展示の質・量だ。最初期の作品、資生堂のホネケーキの広告が、全く古びておらず、今でも先端の広告として通用しそうなクオリティであることに驚き、角川書店の「スローなブギにしてくれ(片岡義男)」の装丁や、AGFのインスタントコーヒー「MAXIM」、「山本海苔店」のパッケージ・デザインも彼女の仕事だったことに、さらに驚く。(本題には関係ないが、PARCOのCMモデルをやっていた1970年代の沢田研二の美男子ぶりも見物だ

第二部に進むと、展示のスケールが大きくなる。特に、彼女が美術を手掛けた「Mishima: A Life In Four Chapters(Paul Schrader監督)」を紹介する展示室は、金閣寺をモチーフにした気合いの入りまくった内装に圧倒される。様々な事情で日本では公開もビデオ化もされなかったこの映画の世界を知ることができるのも嬉しい。

第三部に進むと、さらに展示のスケールが大きくなる。Tarsem Singh監督の「The Cell(ザ・セル)」、「The Fall(落下の王国)」、「Mirror Mirror(白雪姫と鏡の女王)」。Grace JonesやBjörkといったミュージシャンとの仕事。シルク・ドゥ・ソレイユの衣装。ソルトレイクシティオリンピックと北京オリンピックのコスチューム。オランダ国立オペラの「ニーベルングの指輪」の衣装など、彼女が関わった大規模プロジェクトに関する品々が、この美術館の広い展示室空間にドドーンと展開されているのは圧巻だ。

展示品の質・量、そして、そこから立ち上る石岡瑛子が仕事に掛けた熱量に圧倒されまくる。場内に、彼女が亡くなる半年前の2012年に応じたインタビュー音声がBGMのように流れているのも、その熱量を高めていて、見終わった後にはぐったり疲労するほどの展覧会だ。世界的かつ非常に多岐に渡る彼女の作品は、権利関係が複雑なため、この規模での回顧展を再び実現するのは難しいと言う。感染拡大には注意を払いつつも、多くの人に観てもらいたい展覧会だ。



今の70代だと、青春時代には、アイビールックを着こなして、The Beatlesを聴いていた年代な訳で、私なんかがイメージする「老人」よりも全然、気が若いのでしょう。と書いていて、我ながら自分のことを棚に上げているなぁ、とも思う、今日この頃です。