IN/OUT (2020.8.2)

梅雨明けはしたけど、スカッとした夏空という感じでは無い。夏の各種イベントはことごとく中止となり、季節感がすっかり狂った感じがします。


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「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」@森美術館 20.8.1

森美術館 コロナ禍で閉館していた森美術館がついにオープン。再開を飾る展覧会は、草間彌生、李禹煥、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司という、まさに日本の現代美術を代表する超大物が顔を揃える豪華なものだ。

他の多くの美術館と同様、森美術館も観覧は事前予約制。オーディオ・ガイドの機材貸し出しは無く自分のスマートフォンを使う形式。このやり方は、これからのスタンダードになるのだろう。六本木ヒルズの展望台と同じ場所にあるため、ついでに立ち寄る観光客が多かった美術館だが、本当に意思を持って訪れる人だけが来るようになり、観覧の環境は良くなったと思う。美術館の経営としては大変だろうが。

入ってすぐは、村上隆のコーナー。ポップでキャッチーだが、私が苦手とするアーティストだ。どうしても拝金主義を感じてしまう。実のところ、杉本博司に対しても、かなり金儲けに執着しているような先入観を抱いているのだが、彼の場合、その写真の持つ力にねじ伏せられて、認めざるを得ないという印象だ。

森美術館 クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 作家名・作品名:奈良美智《Voyage of the Moon (Resting Moon) / Voyage of the Moon》
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています

この展覧会、有名作家の有名作品が並んでいて、森美術館の財力を感じさせるには十分だが、旧作ばかりで新鮮味という点では物足りない。もちろん、奈良美智作品が並ぶ展示室の居心地の良さは格別だし、今回の顔ぶれの中で一番馴染みが無かった李禹煥(リ・ウファン)の作品の力強さも好印象だった


”Color Out of Space”20.8.1

H. P. Lovecraft原作、Nicolas Cage主演の映画を観てきた。邦題は「カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇」。こんな意味不明のタイトルにするぐらいなら、ラヴクラフト・ファンにお馴染みの原作邦題「宇宙からの色」にすれば良かったのに(と思うが、2020年の日本でラヴクラフトの小説好きというのは少数派なのだろう…)。

原作小説は1880年頃が舞台だが、映画の時代設定は現代。登場人物にも改変が加えられているが、映画の冒頭では、語り手としてダムの建設調査のために訪れた水文学者が登場するなど意外に原作を尊重した箇所が多いという印象を持つ。しかし、主人公、Nicolas Cageが登場すると、一気に画面に狂気が満ちてくる(Lovecraftの小説世界自体、狂気に満ちているのだが、それとは異質の狂い方だ)。この人、若い頃は二枚目役やアクション・ヒーロー役が多かったとは思えない、なんとも凄い歳の重ね方をしていると思う。良くも悪くも、B級映画ファンの熱い支持を受ける今の状況を、本人はどう思っているのだろうか?

物語は、宇宙から飛来した隕石とそれに由来する謎の生命体により、主人公の周辺の農作物、家畜、そして家族達も生命力と色彩を失い崩れ去っていくというもの。1927年に書かれた原作小説は、今読むと古くささは否めないが、明確な形を持たず「色彩」として描写される生命体という着想が凄い。映画化にも向いた作品だと思うが、何故か原作にはないアルパカが出てきたり、映画の本筋とは関係無しに「ネクロノミコン」が登場したり、「The Thing(遊星からの物体X)」的な描写が出てきたりして、製作者の正気を疑う箇所も多い。そして、それに輪をかけてのNicolas Cageの怪演(トマト相手に、あそこまでキレた演技が出来るのは彼だけだろう)。映画の中盤は、原作から離れて暴走している感じだ。

しかし、ラスト。原作で描写されている「焼け野」の映像化を見て、この製作者達がLovecraftをリスペクトしていることが伝わってくる。Nicolas Cageの存在感とのバランスが悪すぎて、なんとも怪作に仕上がってしまった感じはあるが、このアンバランスさが醸し出す不安感こそ、Lovecraft的と言えるのかもしれない。



それでも、既に8月。気がつけば、日が暮れるのも大分早くなっています。我々の右往左往に関わらず、時間は流れていると感じる今日この頃です。