IN/OUT (2020.1.19) |
|
ちらほら、雪が舞ったりもしましたが、滅茶苦茶寒いという感じでは無く。そうこうしている内に、花粉症対策を始めるべき時期になってきました。 最近のIN"Parasite" (20.1.13)2019年カンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞作を観てきた。邦題は「パラサイト 半地下の家族」。因みに、中国でのタイトルは「寄生虫」。シンガポールでの中国語タイトルは「寄生上流」。香港では「上流寄生族」。香港のタイトルが一番、映画の内容を表しているかもしれない。 個人的には、日頃、食わず嫌い的に敬遠している韓国映画である。監督のポン・ジュノの作品は、2006年の「グエムル 漢江の怪物」を観たことがあるのだが、全く、映画のリズム感に乗ることが出来ず、韓国映画に対する苦手意識を助長しただけだった。しかし、今回の作品は、やたらと評判が高い。果たしてどうだろう、と思いつつ鑑賞。 主人公の一家は、事業に失敗して失業中の父。口うるさい母。受験に失敗し続けるが、予備校に通う金の無い兄妹の四人家族。半地下の住宅で貧乏暮らしをしている(韓国には、半地下構造の住居=家賃は激安、が実際に数多く有るらしい)。そんな中、息子が、大学生の友人に家庭教師の口を紹介して貰う。そこは、高台の豪邸に住むIT社長の一家。そこから、貧乏家族は、策を弄してIT社長一家に食い込んでいく…。という出だしから、韓国の格差社会をブラックな笑いで描く作品に見える。しかし、ここからの展開が、予想も付かない方向に暴走していく。 全くもって、度肝を抜かれた。異常なまでに完成度の高い映画だ。まず、貧乏一家が暮らす半地下の住居と、IT社長の豪邸のセットが、どちらも素晴らしい。物語の大半は、二つの住居内で進行するが、住居自体の存在感が映画全体を支配している。さらに、そのセット内での撮影が、計算され尽くされた照明と構図で、非の打ち所無し。それが見事なリズムで編集され、どのシーンにも、伏線と、言外の意味と、暗喩がたっぷりと仕込まれている。エキセントリックな作品だが、抑制の効いた俳優陣の演技も見事。さらに、貧富の差を描き、「貧」の側が主人公の作品なら、「富」の方は嫌みな人物として描くのが常道だと思うが、この作品では「富」の方も、普通に良い人(「金は性格の歪みを伸ばすアイロンのようなもの」というセリフを貧乏側が発するという印象的なシーンがある)というところも良い。また、格差の象徴として、最も原始的な感覚である「臭い」を効果的に用いるところなど、悪魔的に巧みだ。 ということで、(必ずしも、好みの作品とは言えないのだが)技巧的には完璧な映画だと思う。結果、観ている最中のストーリーへの没入感が半端ない。映画の宣伝で「ネタバレ厳禁」というのを煽っているが、決して、意外なドンデン返し一発の作品ではない。しかし、予備知識を持たずに、このストーリーに振り回されながら観る方が絶対に楽しめる作品だ。一方で、この映画を観た人は、誰でも、深読みした考察を開陳したくなってしまうと思う。 Belinda Carlisle @ ビルボードライブ東京 (20.1.17)Belinda Carlisleのライヴを観に、ビルボードライブ東京に行ってきた。 彼女は、1978年から1985年に活躍したガールズ・バンド The Go-Go'sのヴォーカリスト。The Go-Go'sは、いかにもアメリカのお姉ちゃんバンドという風情だったが、その突き抜けた能天気ぶりが、もはや天晴れ、という印象だった。そして、ソロに転身後、1987年 "Heaven Is a Place on Earth"が世界的に大ヒット。そんな彼女も、今では61歳である。 ステージに並ぶバックは、ベース、ドラムス、ギター、キーボードの4人。演奏が始まったが、PAの音が、異常に悪い。色々と、サービス・レベルが落ちたと思うところも有り、ビルボードライブ東京、大丈夫か? それはさておき、Belinda Carlisle。衣装も佇まいも、極めて自然体。足下を見ると、裸足だ。健康的な白人娘が、素直に歳を重ねた、という風情。歌声にも衰えは感じられない。実のところ、彼女の曲をそれほど聴き込んできた訳では無いのだが、ステージで歌われるどの曲も、良い意味で普通。至極真っ当なポップスだ。最近の曲も、昔の曲も、雰囲気は変わらず、とても耳馴染みの良い曲調だ。それは、The Go-Go's時代の曲にも当てはまるが、やはり、The Go-Go'sの曲の方がキャッチー度は高い。 普通に良いなぁと、ずーっとリラックスして聴いていたが、本編最後、満を持して、という感じで演奏された名曲"Heaven Is a Place on Earth"で、感涙。この曲も「普通の真っ当なポップス」の一つなのだが、何故か、私のスイートスポットを突いてくる極私的大名曲なのだ。 この1曲目当てで、今回のライヴに参戦したと言っても過言では無いのである。 アンコールは、1996年の”A Woman And A Man”、The Go-Go'sの"We Got The Beat"、そして、1991年の"Live Your Life Be Free"で全編終了。安定したポップスと、極私的大名曲。しっかり堪能させていただいた。 "Richard Jewell" (20.1.18)御年 89歳、Clint Eastwood監督の新作を観てきた。 最近は、実話をベースにした作品を撮り続けているEastwoodだが、今作も、1996年のアトランタ・オリンピックで起きた、屋外コンサート会場での爆破事件を描いている。主人公の警備員は、爆弾の第一発見者で、被害を最小限に食い止めた(それでも2名が死亡。100名以上が負傷)ヒーローとして報道されたが、数日後、FBIが彼を有力容疑者としているというリーク情報が流され、彼の立場は一転。FBIの執拗な捜査と、彼を犯人と決めつけ加熱する報道合戦に晒される。 メディアによるリンチだけでなく、SNSを舞台にした炎上騒動やフェイク・ニュースが蔓延る現在にピッタリのテーマだと言えるが、Eastwoodは、例によって、何のてらいも無く、淡々と実録話を描写していく(外連味たっぷりの"Parasite"とは、対照的な演出だ)。それなのに、画面に引き込まれ、ラスト近くで涙を誘うのは、Eastwood 演出の真骨頂。まさに、名人技。ほぼ毎年、彼の新作が観られることが嬉しい。 Paul Walter Hauserが演じる主人公は、いい年して母親と二人暮らしの肥満体型。銃器好きで、警察官に憧れるというキャラクターは、確かに、世間が思う孤独な爆弾魔のイメージに合ってしまう。そんな彼を全身全霊で信じながらも、周囲の騒動に押しつぶされそうになる母親を、Kathy Batesが好演。口は悪いが、芯の通った弁護士にSam Rockwell。これら、主要人物だけでなく、功名心からスクープに飛びつく女性記者や、弁護士の秘書であるロシア系移民の女性ら、全ての人に対し、Eastwood監督の視線が暖かいところも好印象だ(数少ない例外は、権力者=FBI)。 今度の5月で、ついに90歳になるClint Eastwoodだが、まだまだ新作が楽しみだ。 "Jojo Rabbit" (20.1.18)第二次大戦末期のドイツを舞台にした映画を観てきた。 主人公のJojoは、10歳の少年。無邪気にナチスに心酔し、上手くいかないことがあると、空想上のお友達 Adolf(ヒットラーそっくりに扮しているのは、監督のTaika Waititi!)に慰められている。ある日、彼は、自宅の壁の裏の隠し部屋に、ユダヤ人の少女が隠れているのを見つけてしまう。母親が匿っていたのだが、ユダヤ人は下劣な悪魔だというナチスの教えを信じ込んでいたJojoは大混乱に陥ってしまい…というお話。 映画の冒頭、The Beatlesの”Komm, gib mir deine Hand”("I Want To Hold Your Hand"のドイツ語版)が流れるシーンが、当時、ナチスに熱狂していたドイツの若者は、平和な時代にロック・スターに熱狂する若者と同じだったのだということを示唆しているようで、上手いなぁと思う。因みに、David Bowieの"Helden"(”Heroes”のドイツ語版)も、映画の中で見事に活かされている。音楽的にも見所の多い作品だ。 そして、何よりも、10歳の男の子特有の「愛すべき間抜けさ」という視点から、戦争の無意味さと非人間性を問いかけるという、この映画の構造自体が、実に巧みで感心する。 新年早々、「当たり」の映画が多くて、嬉しい今日この頃です。 |