IN/OUT (2018.7.8) |
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先週、関東地方はまさかの梅雨明け、と言っていたら、西日本では記録的な大雨で甚大な被害。台風とか集中豪雨といった災害はこれまでも繰り返されてきましたが、これだけの「大雨」というのは、あまり記憶にないかもしれません。天気予報で使われる「平年」とか「例年並み」という言葉が、いよいよ使い物にならない言葉になってきたような気がします。 最近のIN「小瀬村真美:幻画~像の表皮」@原美術館 (18.7.7)平成27年度 五島記念文化賞 美術部門を受賞し、五島記念文化財団の助成により、2016年1月からアメリカ・ニューヨークを拠点とした研修・滞在制作を行ったアーティスト、小瀬村真美の個展を観に、原美術館に行ってきた。これは、彼女にとって初の美術館での個展であると同時に、海外研修の成果発表という意味もある。 これまで知らなかったアーティストだったが、非常に刺激的な作品だ。西洋の古典的静物画を模したセットを組み、それをデジタルカメラで撮影した作品が中心なのだが、単に静物画を写真に置き換えたのではない。30分に一枚のインターバル撮影を4ヶ月間行い、それを動画に仕上げた作品(被写体のレモンは、徐々に腐っていく)や、同様の手法で撮影した写真を一枚の画像に凝縮した作品。やはり静物画風のセットを写したモノクロの大型写真に見えて、徐々に上から物が落ちてきてテーブル上がグチャグチャになっていく動画作品(4秒間の出来事をスーパースローで撮影し、12分間の作品に仕上げている)など。絵画と写真、動画の境界を行き来しながら、本来は時間の概念のない静物画に、様々な時間軸を与えた多層的な作品群。継続する時間と瞬間、現実と非現実が渾然となる印象は、これまで観たことの無いタイプの作品だ。 見せ方にも拘っている。一年を掛けて、原美術館の空間を活かした展示方法を熟慮されたそうだ。館内に入ってすぐの部屋は「はじまりとおわりの部屋」と名付けられ、この後の展示室に飾られている作品の「はじまり=きっかけ、またはおわり=残骸」が並べられている。最初に観たときには訳が分からないのだが、展示を見終わってからもう一度見ると、その意図が少し見えてくる。この答え合わせ感覚も楽しい。 この日は、館内のホールで「Meet the Artist小瀬村真美」と題し、彼女自身が、その着想や製作方法などを語るイベントが開催され、私も参加した。新しい手法の作品だけに、作家自身の口から語られる言葉が興味深く、また、作品理解に大いに役立った。会期中に、何度か再訪したい展覧会だ。 最近のOUT"Battle of the Sexes" (18.7.7)1973年、当時29歳で絶頂期にあった米国のプロテニス選手 Billie Jean King(日本では「キング夫人」の方が通りやすいか)と、元男子チャンピオンで当時55歳だったBobby Riggsが対戦した有名な試合を映画化した作品を観てきた。 この頃、と言っても、まだ50年も経っていないのだが、男女の格差は極めて大きく、プロスポーツの世界でも、女子テニストーナメントの優勝賞金は男子の1/8程度。社会的地位のある男性が「女性を認めるのは、ベッドルームと台所だけ」と言い放っても、問題になるどころか同性からの喝采を浴びるというご時世だった。それに対し「ウーマン・リブ」が盛りあがりを見せていたのが当時の時代背景。Billie Jean Kingは、女子テニス選手の先頭に立ち、既存の団体から離脱し、「女子テニス協会」を立ち上げ、独自のツアーを実施する。因みに、そのツアーのスポンサーとなり、彼女らを経済面から支援したのが、たばこメーカー Philip Morrisというのも時代を感じさせる。 一方、輝かしい戦績を残しながら、今ではギャンプル依存症のため妻から愛想を尽かされてしまった元チャンピオン Bobby Riggs(1939年のウィンブルドンでは、男子シングルス・男子ダブルス・混合ダブルスの3冠を獲得している他、全米も全仏も制覇し、殿堂入りしている)は、男性優位主義者。目立ちたがり屋の彼は、女性は男性にかなうわけがないと、Billie Jean Kingに挑戦状を叩きつける。かくして、3万人の観客を集め、テレビで世界中に放送された一大イベントが開催されたのだ。 Billie Jean Kingを演じたEmma Stoneは好演しているのだが、私には終始、感情移入出来なかった。実在の人物の映画化だから、内面をしっかり描こうとか、厚みを出そうというのも分かるが、なんだか焦点がボケてしまった感じがある。有名な試合であり、時代を象徴するイベントだったと思うが、半世紀近く経った今、映画化する意味がどこにあるのか?というのが正直な所である。製作陣は、Trump vs Hillaryの大統領選との共通点を挙げていたが…。結果は周知の事実なので、試合シーンが盛り上がる訳でも無い。むしろ、この試合から8年後ではあるが、レズビアンであることを公表したBillie Jean Kingが、LGBTQの権利向上のためにも尽力するようになることに現代的な意義を見いだしたかのような雰囲気を感じるが、結果的に中途半端な印象だ。 なお、Bobby Riggsに扮したSteve Carellも熱演していたが、ちょっとやり過ぎじゃ?と思っていた。しかし、最後のクレジットの前に映される本物のBobby Riggsの写真のふざけっぷりが、映画よりもさらにひどくて、苦笑 因みに、"Battle of the Sexes"鑑賞中、ちょうど試合が始まるか、というところで、比較的大きな地震がありました。避難経路を確認するよりも先に、反射的に、映画が中断にならないことを願ってしまったのは、危機管理能力的にはダメですな。 |