Viggo Mortensen主演のロードムービーを観てきた。なお、邦題は「はじまりへの旅」という訳が分からないモノに改悪されている…
主人公は、ワシントン州の山奥で、自給自足の暮らしをしながら、6人の子供達を独自の教育方針で育てているが、入院していた母が亡くなり、その葬儀に出席するため、山を出て、旅に出る。
この、独自の教育方針というのが徹底している。6人の子供は、山の中で自らの手で獲物を仕留めることも、岩山を登山家並みによじ登ることも、お手の物。さらに、複数の言語を習得し、古今の文学作品から、難解な物理学の専門書まで読みこなす(本の感想を聞かれた娘が"interesting"と応えて、父が怒るくだりが印象的。そんな曖昧な言葉じゃ無く、ちゃんと自分で考えた言葉を使うようにという教え方は、素晴らしい)。信奉するのは、米国を代表する言語哲学者にしてアナキズムを主張するNoam Chomsky(この家族は、クリスマスでは無く、Chomskyの誕生日を祝うのだ)。合い言葉は"Power to the People, Stick it to the Man!"。
そんな教育の元、他の人々と接すること無く育ってきた子供達が、山を下り、初めて町に出ることで起こる「衝突」で笑わせるのが前半だ。しかし、あまりにも純粋で真っ直ぐな子供達の言動と現実社会の摩擦は、父親に大きな課題を突きつけることになる。果たして、この家族は現実社会との折り合いをつけられるのか、そして、母の遺言を実行できるのか。
Viggo Mortensenの演技が、本当に素晴らしい。アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされたのも納得だ。ただ、この映画が、アカデミー賞やその他の映画祭で賞賛されているのは、リベラルの極北のような極端な設定に、反トランプ的見地から共感する人が多かったからという気もする。私も、前半だけだと、ちょっとやり過ぎじゃないかという気がしていたのだが、全体を通してみると、ちゃんとバランスを取っていて、まさに今こそ、観るべき映画だと思う。
家族で、GunsN' Rosesの"Sweet Child O' Mine"を歌うシーンがハイライト。本当に良いシーンなのだが、感動を強要するような押しつけがましい演出になっていないところが好印象。しみじみと良いのである。