IN/OUT (2016.11.6)

東京海洋大学今年も、東京海洋大学 品川キャンパスの学園祭「海鷹祭」の時期になりました。好天に恵まれた学内には、例によって、ファッショナブルな今時の大学生の姿は少なく、飲食とショッピングにいそしむ地元の家族連ればかりという、異色の学祭。私も、歌って!踊って!釣れるアイドル「つりビット」のステージショーを観覧し(「妄想フィッシング学園」、「ギョギョギョムーチョ」など、魚や釣りに引っかけた歌ばかりを持ち歌にするアイドル・グループ。山下達郎の「踊ろよ、フィッシュ」もカバーしている…)、ミニ水族館や深海魚展示も堪能。


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"The Gift"16.11.3

オーストラリア出身の俳優、Joel Edgertonが、監督デビューした作品を観てきた。本作で彼は、監督の他、オリジナル脚本も手掛け、重要な役で出演もしている。

舞台はカリフォルニアの郊外。若い夫婦が引っ越してきた所から物語が始まる。町で、偶然再会した、夫の高校時代の同級生。彼は、引越祝いと称してワインを贈ってくる。それからも次々と、単に再会を喜ぶには過剰な贈り物が続く。一方、夫の方は、旧友のことを、必ずしも快く思っていないようで、妻は言いようのない不安を募らせていく。というお話。因みに、この不気味な旧友を演じているのが、監督のJoel Edgerton。

夫と旧友の間に、昔、何があったのか。そして、旧友の真の目的は何なのか、というサスペンスで物語を引っ張っていくのだが、これが初監督作とは思えないほどの巧みな演出だ。Jason Batemanが演じる夫が、実は、表の顔とは全く違う悪人ではないかという疑惑が高まり、観客が感情移入出来る「真っ当な」人物は、Rebecca Hall演じる妻だけになる。彼女の抑制の効いた演技が、じわじわと不安感が増す画面の中で、唯一の救い要素だ。

ラストは、勧善懲悪的な爽快感とは異質の、微妙な後味。タイトルの"Gift"の本当の意味が、重くて怖い。派手な所の無い小品だが、面白い。


"Remember"16.11.3

「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)のトラップ大佐で有名な、Christopher Plummerの、2015年の主演作を観てきた。邦題は「手紙は憶えている」。

アウシュビッツからの生還者が、戦後、名前を変えてアメリカで暮らしている元ナチを探しだし、復讐を果たす。このプロットだけ聞くと、ハードボイルドなアクション映画のようだが、既に戦後70年。かつての加害者も被害者も、すっかり老人なのである。Christopher Plummerが演じる主人公は、老人ホームで知り合った、やはりアウシュビッツからの生還者でもある友人から、彼の家族を殺したドイツ兵士"Rudy Kurlander"ではないかと思われる四人の情報と、彼らを探し出す手順を書いた手紙を託され、車椅子生活を送る友人の代わりに、復讐の旅に出る。

しかし、劇中年齢 90歳の主人公は、軽い認知症を患い、妻が死んだことさえ、朝、目覚める度に忘れているという状態。この手の映画史上、最も頼りない追跡者/復讐者と言えるだろう。覚束ない足取りで、合衆国とカナダを右往左往する姿は、不謹慎ながら笑えてしまう。果たして、御年 85歳のChristopher Plummerは、どこまでが演技で、どこからが地なのだろうか? とにかく、彼の存在感が圧倒的だ。

重いテーマの作品として捉えることも出来るのだろうが、私は、追跡劇の主人公を老人にした、捻ったミステリーとして楽しんだ。認知症で物忘れがひどいという設定を逆手に取った叙述トリックも巧い。お勧め作だ。



東京海洋大学そして、海鷹祭と言えば、学祭の域を超えた飲食物が最大のお楽しみ。マグロの漬け丼や鯛汁などの定番物(学祭の模擬店だと、これでも十分珍しいか)もあれば、海亀、鯨、パンガシウス(東南アジア産のナマズの一種。冷凍食品の白身魚の多くは、実はコレ)など、まさに、東京海洋大学でしか味わえない珍味も多数。楽しみました。