IN/OUT (2015.11.8)

文化の日は晴れの特異日というのは、本当だと実感する週でした。


in最近のIN

"The Visit"15.11.3

M. Night Shyamalan監督の新作を観てきた。

15歳と13歳の姉弟が、田舎に住む祖父母の元を訪ねる。母は、その両親と仲違いして家を飛び出して以来、縁を切っており、姉弟にとって、これが初対面の祖父母だ。第一印象では優しそうなおじいちゃん&おばあちゃんだが、一緒に時間を過ごすうちに、何かただ事ならぬ不穏な雰囲気が…、というお話。映画好きの姉が回すカメラで撮影された主観画像で構成された体裁の作品になっている。

"The Sixth Sense"で衝撃的なデビューを飾るも、その後、ガッカリ大作を連発してきたShyamalan監督だが、この作品は、低予算で、有名スターの出演も派手な特撮も無い、かなり地味なものだ。その分、彼の特質が良く発揮されているとも言える。結局、大作だろうが、インディペンデントな小品だろうが、観客をビックリさせること、怖がらせることが大好きなのだ。そして、この作品での怖がらせ方は、かなり強烈。スプラッターシーンは無いが、実に怖かった。

振り返って考えれば、実は単純なストーリーだ。それを、語り口の上手さと、主観映像だけで押し切る演出で、あたかも驚愕の展開のように思わせるところが、流石だ。「恐怖」に関してはすごいセンスを持った監督だと再認識。

劇中、弟が、「今後、叫び声を上げるときは、女性歌手の名前で」という、子供っぽいルールを自分に課す(足を柱にぶつけたときに"Shakira!"って叫ぶとか)のだが、他に出てきた名前が、"Sarah McLachlan"や" Shania Twain"…。13歳が咄嗟に思いつくには、ベテラン過ぎる人選だろう。こういう、あちこちに挿入される「笑い」の部分が、残念ながらビタイチ面白くないのも、Shyamalan印だ。


"The Captive"15.11.3

カナダのサスペンス映画を観てきた。邦題は「白い沈黙」。雪に覆われた風景からの発想だろうが、映画の内容とは、ほぼ無関係の邦題だ。

9歳の娘をさらわれた夫婦。警察は、最後に一緒にいた父親に疑いの目を向ける。事件が解決しないままの8年後、夫婦仲は破綻してしまっている。そこに、娘の生存をほのめかす手掛かりが現れ始める。という粗筋を見るとミステリのようだが、実は謎解きの要素はほとんど無く、犯人は、かなり早い段階で登場する。

この映画が描き出したかったのは、ネット時代の児童誘拐の恐ろしさ・おぞましさ、そして、それによって破壊される人間関係なのだろう。さらわれた子供がどこに居るのか分からないのに、その画像はネット上に流され、変態どもの欲望を拡大再生産していく。この映画に登場する悪役の気持ち悪さ、腹立たしさは、相当な物だ。

Atom Egoyan監督は、映画の前半、時系列を組み替え、敢えて分かりづらく話を進めるのだが、あまり効果的じゃないと思う。感情移入できる登場人物がおらず、ラストもいまいちカタルシスが無い。じゃあ、つまんないかと言えば、そうとも言えず。なんとも、変な引っかかりのある映画だった。


"1001 Gram"15.11.7

ノルウェー映画を観てきた。邦題は、余計な言葉が付け足されて「1001グラム ハカリしれない愛のこと」

主人公は、ノルウェーの国立計量研究所に勤務する女性。夫とは離婚協議中。父親は病に倒れ、プライベートでの悩みは尽きない。そんな彼女が、ノルウェーの「キログラム原器」を持って、パリの国際度量衡局(BIPM)へ出張する。そこでの出会いを静かに描いた作品だ。

私はこの映画で初めて知ったのだが、「キログラム」という単位は、いまだに「国際キログラム原器」によって定義されている。そして、BIPMによって複製されたキログラム原器が各国に配布され、それぞれの国での基準となっているそうだ。各国のキログラム原器の複製は、約40年に一度、天秤を用いて国際キログラム原器と比較される。何か複雑な式で導き出されるている基準なのかと思っていたが、実存する原器が、いまだに国際的な唯一の基準となっているのだ。そこに、着目してドラマの背景に取り込んだ発想が秀逸。

北欧の風景やインテリアが醸し出す独特の雰囲気が、ハリウッド映画には無い印象を与える。「キログラム原器」と、「キログラム」を巡る理系登場人物達の会話、主人公が乗る電気自動車。鳥のさえずり。様々な寓意に満ちた物語は、展開こそ極めて地味だが興味深いものだった。



まあ、これ幸いと映画館のハシゴをして、暗闇の中にずっと居たわけですが…