IN/OUT (2013.1.27)

寒さは続くし、今年の杉花粉飛散量は多いというニュースは届くし、色々と期待通りに行かないことも多発するし、どうも調子が出ないままの今日この頃です。


in最近のIN

"Life of Pi"13.1.26

Ang Lee監督の新作を観てきた。

日本では、「トラと漂流した227日」というサブタイトルが付いている。「トラと漂流??」意味が分からない。映画の宣伝を見ても、3Dの映像美を称えるものが多く、肝心の内容はどうにも掴み所が無い。そんな設定で2時間の映画が成立するのか? すごく退屈な映画かもしれないと思っていたのだが、実際は、全く予想外の作品だった。奥の深い、長く余韻が残る、素晴らしい人間ドラマだったのである。

物語は、主人公Piのもとを訪れた小説家が、その数奇な運命を聞かせてもらうという体裁を取っている。インドでの少年時代、Piという名前の由来から始まる話は、一家が乗る船が嵐で沈没し、一人だけ生き残った主人公が漂流するという本題へ進んでいく。

救命ボートには、少年の他、シマウマ、オランウータン、ハイエナ、そしてベンガル・トラも乗っている(貨物船には、主人公の父親が経営していた動物園の動物たちも乗っていた。その動物を売るお金で、カナダに移住する計画だったのだ)。シマウマとオランウータンは、ハイエナに襲われ、ハイエナはトラに襲われ、残ったのは、主人公とトラだけになる。油断すればトラに喰われてしまう危機的状況の中、苛酷な漂流生活が始まるのだ。

非現実的な設定と思われた話が、美しい映像と、どこか神話めいた力を持った語り口で展開していく。しかし、本当に驚くべきは、ラストの仕掛けだ。最後になって、この漂流譚は、全く別の側面を見せる。そして、救助された主人公のもとを訪れた保険会社の調査員も、この話を聞かされた小説家も、そして映画を観ている我々も、何を信じるのか選択を迫られることになるのだ。

Ang Leeの手腕が冴えわたる、見事なまでに魔術的な展開だ。ここ数年観た映画の中でも、最も味わい深い余韻を残す1本と言える。

少年時代、ヒンドゥー教とキリスト教とイスラム教に同時に惹かれた少年は、苛酷な漂流生活の末、神を実感する。そして、その話を聞いた保険調査員も小説家も我々も、「彼は苛酷な227日間を生き抜いたのだ。ベンガル・トラと共に!」と信じるのだ。

因みに、主人公はインド人。舞台はもちろん、音楽やダンスなど、私好みのインド成分が高いのも、ポイント高し。



そして今週も、レイトショーをやっている近所の映画館に感謝。