由紀さおりと、Pink Martiniのコラボレーション・ライヴを観に、オーチャードホールに行ってきた。
両者がコラボレートしたアルバム「1969」が、世界的なヒットになった話題性と、Pink Martiniがオレゴン州ポートランド出身のバンド(私が在住していたときには知らなかったが…)ということで、観てみたいと思っていたのだが、このジャパンツアー、チケット入手が非常に難しく、結局、最終日の3階席右隅を辛うじて確保したのである。
まず、意外だったのが、由紀さおりがメインと言うよりも、基本的にはPink Martiniのコンサートにゲスト・ボーカリストとして由紀さおりが参加しているというスタンスだったこと。オープニングから5曲ぐらいは、由紀さおりは出演せず、Pink Martiniだけで演奏が進む。リーダーのThomas M. Lauderdaleがピアノ、他に、パーカッション系が3人、ブラス系が2人、ベース1人、ギター1人。ヴォーカルは女性と男性の2人。さらに、日本人の弦楽奏者8人を加えた編成。曲によっては、箏の日本人女性も客演。正統派ジャズというよりも、エキゾチックな雰囲気を重視したイージーリスニングだ。彼らは、今回の由紀さおりとの共演の前、2003年には、和田弘とマヒナスターズの「菊千代と申します」をカバーしてアルバムに収録したという、世界中の流行歌に精通したバンドなのである。もちろん、今回の公演でも、由紀さおり抜きでPink Martiniのナンバーとして「菊千代と申します」を演奏。
さて、散々じらした後登場した由紀さおり。声質自体が実に魅力的だと言うことを改めて認識した。Pink Martiniの女性ヴォーカル China嬢も歌は上手いのだが、由紀さおりが登場するや、「単に歌の巧い人」になってしまい、かすんでしまうほど、存在感のある声だ。
しかし、いざ共演が始まってみると、由紀さおりのバック・バンド以上の魅力がPink Martiniに感じられない。日本公演に際して、弦楽奏者8人を加え、完全に歌謡曲寄りのアプローチにしてきたようだ。ライヴならではの化学反応が起こらないどころか、アルバムで聴く方がよほど聴き応えがあるという残念な結果に…。
そんな中、本編ラストでやった"Mas Que Nada"は、ボサノバ × ジャズ・オーケストラ × 歌謡曲、の融合ぶりが楽しく、もっとこの路線で攻めてもらいたかった。
アンコールのラストは、お客さんもステージで一緒に踊ろう!というノリで、実際、多くの方々が(飛び入りで、ジャズ・ピアニストの佐山雅弘も)ステージに上っていたが、どうも私はそこまで乗りきれず。
この組み合わせで、来年は、パリ、さらに、ロスのハリウッド・ボウルで公演をするそうだ。日本では完全な歌謡曲になってしまっていたが、海外公演だと、もっとエキゾチックさが発揮されて、楽しいものになるのではないかな。