IN/OUT (2010.6.13)

UNLHA32.DLL開発停止という話題がネットを駆け巡りました。LHAには、Niftyでパソコン通信を使っていた頃からお世話になっていましたが…。無常を感じる今日この頃です。


in最近のIN

日本トンデモ本大賞 201010.6.12

毎年恒例、と学会主催によるイベントを観に、日本橋公会堂に行ってきた。この一年間に出版された「作者の意図を離れて笑える本=トンデモ本」の中から、最も笑える物を選ぶイベントである。

設立19年を迎えると学会。昨年は、創設メンバーの一人、志水一夫氏が亡くなったため、イベントの最初は、氏を偲ぶ追悼コーナー。しかし、しんみりしないところが、と学会。比喩ではなく、本当に超大量の本に埋もれた氏のご自宅を写したビデオを見て、笑いの中、故人のお人柄を忍ぶ。

続いては、と学会の例会から選りすぐったプレゼンを見せる「と学会エクストラ」。「日本のインスタントラーメンの真の発明者は、安藤百福氏にあらず」、「先端科学研究の砦も、神様には勝てず」、「中国固有名詞のカタカナ表記問題」など、力の入った発表が続くが、最大のインパクトは「全裸ハイヒール男」。

休憩の後、本編、トンデモ本大賞の候補作紹介。そして、投票とアトラクションを挟んで、大賞の発表となる。今年のアトラクションは、自主製作でヒーロー特撮物とアニメを作り続ける伊勢田監督の作品特集。例年のアトラクションに比べると、やや小粒な印象。オタク度の高い人が集まる催しだから、皆、温かく受け入れていたが、これ、普通の人に見せるのは危険だと思う。ただ、個人的には全くつながりが無い訳でもない人で、その作品の背景には懐かしい風景が映っていたりして、ちょっと微妙なのである。

で、肝心の大賞は、杉山徹宗氏の「平和宇宙戦艦が世界を変える」。著者略歴によると、杉山氏は自衛隊幹部学校で講師も務めているという。それが怖い。なお、私が投票したのは「ネコの心がわかる本」。猫好きの人にお勧め(笑)なのである。

ということで、今年も笑いの中、つつがなく終了したのだが、イベント自体の段取りの悪さが例年以上に目立ったのが残念だ。元々、素人集団のイベントなのだから、完成度を求めてはいないのだが、ちょっと今年は酷かったと思う(MCのコスプレ声嬢の、キケロ星人 from キャプテンウルトラは良かったが)。来年のと学会設立20周年記念大会では、このようなことがないようにお願いしたいところだ。


パット・メセニー《オーケストリオン》10.6.12

ジャズ・ギタリスト、Pat Methenyの公演を観に、すみだトリフォニーホールに行ってきた。

今回の公演は、人間はPat一人。彼のギターのバックを務めるのは"orchestrion"。自動演奏装置である。果たしてどんな演奏になるのか全く想像がつかないまま、チケットをゲットしたのである。

冒頭は、アコースティック・ギターでのソロ。一曲ごとにギターを持ち替え、それぞれの個性に合わせた奏法で聴かせる。そして、エレキギターに持ち替えたところで、オーケストリオンの一部、パーカッションの自動演奏が絡み始めた。

この時点では、オーケストリオン=アナログなリズムボックスというイメージだったのだが、曲が終わると、ステージ後方の布が取り払われた。そして姿を現したのが、オーケストリオンの恐るべき全景。楽器の巨大な山。つまり、これは本物の楽器=ピアノ、マリンバ、ヴィヴラフォン、ギター、ドラム、各種パーカッションを、圧縮空気を利用して演奏する装置なのである。まるで、大きな楽器倉庫の壁一面に、様々な楽器が積み上げられているような、そんな姿なのだ。音が鳴ると点灯するライトがそれぞれの楽器にセットされているなど、視覚効果も工夫されている。そして、いよいよ演奏が本格的に始まった。

自動演奏される楽器の山の中、一人でギターを弾きまくるPat。なんだか、とても嬉しそうだ。まるで共演者と語り合っているような仕草すら見える。そして、オーケストリオン君、意外なほど演奏が上手い。「自動演奏」から想起されるような味気なさとは無縁。見事に、Patのギターと有機的に絡んでいる。その様子は、まるで、自分の発明品の中で高笑いする、スチームパンク的世界のマッド・サイエンティストのようだ。

「自動演奏」に拘るのなら、コンピューターとシンセサイザーを使えば、この千分の一ぐらいの容積で実現可能だろうし、「生の楽器の音」に拘るのなら、生身のプレイヤーを雇った方が、機械の維持・調整を考えれば安上がりかもしれない。そう思うと、やはり、マッド・サイエンティストっぽい印象が募る。

圧倒的な演奏が数曲続いた後、Patの語り。元々、彼が9歳の時、祖父の家にあった自動ピアノを見て以来、こういうプロジェクトが夢だったという。つまり、彼が嬉しそうに演奏しているのは、ミュージシャンとして地道に実績を積み上げた末に、ついに少年の頃の夢を実現したからなのだ。

無邪気な少年に戻って演奏しているかのようなPatを、マッド・サイエンティストなどと表現して悪かったと一瞬思ったが、ある種の狂気を感じたのは私だけでは無いようだ。彼曰く、このプロジェクトを始めて、皆、二つの質問をする。一つは、"Are you crazy?"

もう一つの質問が、"How does it work?"。この二番目の質問について、彼も何度か解説してくれたのだが、中々難しい(英語ネイティブのアメリカ人でも、説明を聞いて理解出来る人は少なかったと言っていた)。とにかく凄いのは、事前にプログラミングされた音だけを自動演奏するのではなく、インプロビゼーションにも対応できること。Patが持ち続けた夢と、最新のテクノロジー、そして彼の卓越した演奏技術が組み合わさって始めて実現する演奏なのだ。

ということで、圧巻の演奏が続き、アンコール二回。それでも止まらぬスタンディング・オベーションに応え、さらに二回のカーテンコール。それでも、まだまだ止まらぬスタンディング・オベーションに、もう一曲、アンコール演奏。みっちり三時間の熱演となったが、本当に見応えのある演奏だった。彼の技量と情熱が伝わるだけでなく、オーケストリオン君の活躍ぶりも素晴らしい。これは、CDで聴いても絶対に伝わらない、ライヴで体験するべきものだろう。いやはや、凄い物を観てしまった。



一日で、トンデモ本と、とんでもない演奏のハシゴ。一日って、過ごし方によっては、長いものですね。